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アナベルのおすすめ

小雨がしとしとと降りしきる、とある日のこと。

りさは


(湿気で髪がうねるなぁ)


と思いながら、アナベルこと山谷あや宛の恋文を届けにヴェルニカ王国学園の寮にやってきた。

寮の管理人に、入館証代わりの王宮御用達バッジを見せ、アナベルの部屋を教えてもらう。

通された寮の中はまるで王宮のようで、りさはきょろきょろと辺りを見回す。大きな絵画が何枚も壁に飾られており、シャンデリアがいくつも連なっている。

長い廊下を渡った先に、アナベルの部屋があった。

ノックを3回して、自分の名前を名乗る。


「りさぴょん!?」

「えへへ、今日はお手紙を届けに来たよ」

「げ、またか~」

「嬉しくないの?」

「アタシマシューくん推しだもん。ほかの男に興味ないって」


マシューとはあやの推しである、同じ学園に通う男子生徒のことだ。

以前、りさはあやからのファンレターをマシューに渡したことがある。

大量のラブレターを受け取ったあやは、手紙の束を興味なさげに眺めている。

その姿は同性のりさもうっとりするほど美しいものだった。

伏した睫毛は黒々と濡れていて、とても長く、スッと通った鼻筋は、アナベルの兄、フランツとそっくりだ。

紅くぷっくりとした唇も、ちょこんとしていて可愛らしい。

しばらくアナベルの美貌に見とれていたりさだったが、ある一言で現実に戻される。


「ねえりさぴょん、ちょっとお茶してかない?」


そう言ってりさは、あやの部屋に招待されることになった。

広い室内は豪勢で、赤い絨毯が目に眩しい。

天井に吊らされた豪華なシャンデリアは、見たこともない大きさだった。

広々とした天蓋ベッドは少々乱れているようだ。りさが来るまであやがベッドの上にいたのだろう。

りさはお姫様の部屋のような室内に驚き、思わずあやに尋ねる。


「こんな広い部屋であやちゃん寝られるの?」

「え?フツーだよ。実家の部屋はもっと広いし」


あっけらかんと答えるあや。


(アナベルの実家、すごいな。マジのお嬢様なんだ)


りさは恐れおののいた。

そんなりさに構わず、あやは部屋に備え付けられている簡易キッチンでやかんに火をかける。


「ねぇりさぴょん、アタシの推しの話ちょっと聞いて?」

「うん、いいよ、聞かせて聞かせて」

「えへ、あのね、マシューくんと接近イベがあったの!」

「え、どんな!?」

「なんと!庭園で二人っきりでお茶をしました~!」

「え~! ?やるじゃんあやちゃん!」

「もう夢みたいだった!マシューくん庭園の花にも詳しくて、さすがアタシの推し!ってなった!マシューくんしか勝たん!」


夢見心地で話すあやに、りさは微笑んだ。


(高校生って、なんて可愛いんだろう)


とっくに成人しているりさは、微笑ましく感じていた。


「りさぴょんは推しとかいないの?」

「え、推し?そうだなあ……」


推しという単語を聞いたりさは、フランツの顔が頭に浮かんだ。


(フォントオタクで、私を推してるフランツ……ないない、あんなオタク)


りさは頭を振る。あやが続けて話す。


「推しいないならお兄ちゃんオススメだよ!イケメンだし!」


やかんがピーーーーーと鳴り響く。

その音に驚いたりさは、肩を小さくびくっと揺らした。


「あ、お湯沸いた。ちょっと待ってて~」


あやがキッチンへ小走りで向かう。


(び、びっくりした)


会話に突然フランツが登場し、りさは驚き呼吸を整える。


「はいりさぴょん、お茶だよ~」

「あ、ありがとうあやちゃん」

「ところでさ、さっきの話だけど、お兄ちゃんオススメだよ!推さない! ?」

「いや、ちょっと遠慮しておくね」

「なんで! ?玉の輿に乗れるし、2人が結婚したらりさぴょんアタシのお姉ちゃんになるし、いいことづくめじゃん!」

「うん、それは魅力的だけどね……」


そう言っていたところで扉がノックされる。


「どなた?」


言葉を切り替えてあやことアナベルは返す。


「俺だ、フランツだ。母上からの荷物を届けに来た」


噂をすればなんとやら、フランツ本人が登場した。

扉を開けるアナベルは兄に向かって言う。


「今ちょうどお兄様のお話してたのよ」

「あぁ、すまない来客中だったか……リサじゃないか!これは運営の巡り合わせか!? 」


りさに気づいたフランツは、嬉しそうに駆け寄る。


「お邪魔してます」

「りさ、帰りは歩きか?外は雨が降っているし、共に馬車で帰ろう」

「あ、助かる」


そうやり取りをする2人を見て、アナベルが話す。


「お兄様、リサさんと婚約なさったら?」


ガタッと思わず椅子から立ち上がるりさ。


(あやちゃん、何を言ってるの! ?)


りさは驚いてあわあわしていたが、フランツは堂々としたものだった。


「ああ、それも考えている」

「勝手に考えてたの! ?」

「そうでしたのお兄様。お父様たちへの挨拶はいつになさいますの?」

「アナベルちゃん! ?何勝手に進めてるの! ?」

「まぁ、すぐにとは言えないが……ゆくゆくは」

「ちょっと!私の意見を無視しないで!」


りさが悲鳴を上げる。


***


「ではリサさん、ご機嫌よう」


寮の入り口で小さく手を振るアナベル。

りさとフランツは手を振り返し、馬車へと乗り込んだ。


「リサ、さっきの話だが」

「なんのことでしょう」

「つれないな……本当に私と婚約する気はないのか?」


そう言われ、りさは言葉に詰まる。


(これってプロポーズだよね?初めてされた……)


若干動揺した後、首を横に振るりさ。


「私いま、仕事が楽しいし、結婚とか考えられない」

「そうか。気が向いたら言ってくれ。いつでも待ってるからな」


意外とあっさり引いたフランツに、りさはちょっと驚いた。


(もっとごねるかと思った)


拍子抜けしたりさは、窓の外を見る。

雨が上がって晴れ渡り、虹がかかっていた。


「フランツ、虹が出てるよ」

「どれ、どこだ?」


そう言って、りさに近づき窓の方に顔を向けるフランツ。

身体が密着して、フランツの鼓動が近くに感じる。


(ち、近い!)


りさは心臓が跳ね上がるのを確かに感じた。


「あぁ、見えた。綺麗だな?りさ」


同意を求めるフランツに、りさはただただ頷くしかできなかった。

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