いざ、情熱の国へ!
穏やかな日差しが嬉しいとある日のこと。
いつも通り恋文屋で手紙を執筆するりさとケインの元に、王宮取締役のヴィンセントが訪ねてきた。
「いらっしゃい、どうしたんですか?まさか恋文の依頼ですか?」
「まさか!馬鹿なことをおっしゃいますね。今日は国王からの命令を言付かってきました」
りさがふざけて言うと、ヴィンセントは大きく否定する。
そして、王からの文を静かに淡々と読みあげた。
【恋文屋の店主、ケインとその店員リサに、情熱と常夏の国アクロサウスへの外交を命ずる】
「アクロサウス?」
りさは疑問の表情を浮かべていると、ケインが優しく教える。
「南にある漁業が盛んな国さ。ところで、なんで俺たちが外交に?」
「我が国の文通文化を広めるためです。適任者は誰か、と議論になった際、王宮御用達のこの店を推す声があがったのです」
「はぁ、そりゃどうも」
「つきましては三日後、大聖堂に来てください。アクロサウスへ行くための転移魔法を用意して待っております。では」
そう言って店を去るヴィンセント。
「私、遠出なんて久しぶりです」
りさは心なしかウキウキしている。日本にいた頃は仕事が忙しすぎて、海外旅行はおろか国内旅行も夢のまた夢だったからだ。
浮かれるりさをみてケインは微笑む。
「さて、国の代表としていくなら、ちょっとはそれらしい格好でいかなきゃな」
「どうしよう、私普段着しか持ってないですよ」
「今日はもう仕事を終わりにしていいから、一式揃えてきたらどうだ?」
「いいんですか?」
やったーと両手を上げて喜ぶりさを、ケインは優しい瞳で見つめる。
***
ヴィンセントが店に訪れてから三日後。
アクロサウスへ向かう日がやってきた。
りさは、淡いラベンダー色の、襟のついたクラシカルなワンピースを。
ケインは深い紺色のジャケットを着て大聖堂へ向かった。
「わあ、大聖堂って本当に大きいんですね!こんなに近くで見るなんて初めて!」
「ああ、ステンドグラスが綺麗だろう?昔々の国王が、聖女様だった女王を妃に迎える際作らせたんだ」
「へえ、愛が重めですね」
「りさはそういうの嫌か?」
仕事にかまけて恋愛をおざなりにしていたりさにとって、難しい質問だった。
「うーん、どうでしょう……あ、着きましたね」
りさは恋愛経験値が低いことを咄嗟にごまかすため、大聖堂に小走りで向かう。
中に入ると、ヴィンセントと老人が二人を迎えた。
「約束の時間ぴったりですね」
「えへへ、それほどでも」
「別に褒めてはいませんよ。当然のことなので。では、大魔法使い様、お願いします」
ヴィンセントは横にいた老人に向かって話す。
(このおじいちゃんが大魔法使いなんだ。昔読んだ本に出てくる魔法使いそっくり)
りさは幼い頃読んだおとぎ話の魔法使いを思い出した。
「では三人、ワシの前へ」
横一列に並ぶりさ、ケイン、ヴィンセント。
大魔法使いがぶつぶつと呪文を唱える。
刹那、緑色の光が三人を包み込んだ。
りさは体がふわっと浮く感覚を味わった。
(すごい、これが転移魔法?)
今まで何度か魔法使いのカロルに魔法をかけてもらったことがあるが、力強さが違った。
そうして三人は、一瞬でアクロサウスの城へ到着したのであった。
***
「おう、よく来たな。俺様はこの国の第三王子、ベルナルドだ」
金髪碧眼の男が、三人を歓迎する。
王子と名乗るその男は、確かに童話に出てくる見目麗しい王子様だった。
神が造形した彫刻のようなベルナルドを見てりさは思う。
(完璧すぎて、胸焼けしてきた)
うっぷと胃からせりあがるものを慌てて止める。
すると、ベルナルドと目が合った。
「俺様を見てキャーキャー言わない女なんて、お前が初めてだ。おもしれー女だな、お前。名は何という?」
「はぁ、りさです」
「リサか、そうか。お前が恋文屋の女だな?噂はこっちまで届いてるぜ」
そう言ってベルナルドは続ける。
「城の中を見物するのもつまらねえし、海と街を案内してやる」
そう言って四人は外へ出た。
***
城の近くにあったのは、白い砂浜が美しい真っ青な海だった。
太陽が四人を熱く照らす。
「俺様の国は、モンスターの革を加工して服飾品にしたものが特産だ。国民はみなファッションに敏感だぜ。まあ、お前ら三人も悪くない格好してるな」
口が悪いので褒められたことに今一つ気づけなかったりさは
「はあ、そうですか」
と言った。
「おい、なんだお前。俺様が褒めてやってんのに。変な女だな」
(変なのは、王子のくせに口が悪いあんただよ)
りさは心の中で毒づいた。
(今日は友好を深めるために来たんだ。我慢我慢)
りさはこぶしを収めた。
***
続いて漁港を案内された。
漁港船の他にも、ヨットや観光船などが見える。
「俺様の国は、お前たちの国ほどではないが観光業も盛んだ。よその国のやつらは休暇になったらこの国を訪れる」
嬉しそうに国の説明をするベルナルド。自分の国がよっぽど好きらしい。
「じゃ、次はお前らの番だ。恋文文化っつーものを教えてもらおうか」
「はい、わが国で恋文文化が流行したのは、今から60年前、現王と女王がご結婚される前に、手紙をやり取りしていたことがきっかけです。二人を結んだ恋文が話題となり、貴族や庶民の間で大流行して、今に至ります」
「ふーん、おもしれーな」
りさは
(この人『おもしれー』が口癖なのかな)
と棒立ちのまま二人のやり取りを見ていた。
「本日は友好の証の手紙をベルナルド様に持ってきました。どうぞ、お読みください」
ケインがしずしずとベルナルドに手紙を渡す。
それはリサが書いた友好の手紙で、内容は、
【永久に二つの国の発展と友好を願っています】
というものだった。
興味深げに手紙を読むベルナルド。
読み終わると顔を上げて
「俺様こんな綺麗な文字見るの初めてだ!お前が書いたのか?」
「いえ、こちらのリサが書きました」
ケインはそう言ってリサを指す。
「やっぱお前おもしれーな!」
「はあ、恐縮です」
やっぱりこの人の口癖なんだなと実感するりさ。
「なぁ、手紙ってこんなおもしれーのな!俺様の国でも流行ればいいのに!……しかし、面倒くさがりの国民が多いからな……。一般庶民にまで文化がいきわたるのは難しいだろうが、まぁ俺様がいればなんとかなるだろ!ありがとな、リサ!」
そう言ってベルナルドはりさの腰を強く引き寄せ、唇を奪った。
「リ、リサ!」
「リサさん!」
「! ?! ?! ? ! ?! ?! ?」
三者三様驚き、男性陣は慌てふためいている。
外交先の、しかも王子に下手なことはできない。
(やめろ!この変態!)
りさが胸板を叩き、いい加減に唇を離せと訴えかける。
どのくらいの時間が経ったろうか、ようやくベルナルドが唇を離す。
「急になんてことするんですか!」
りさが珍しく怒りをあらわにする。
「何って、俺様の国の挨拶だ」
あっけらかんと言ってのけるベルナルド。
「あ……挨拶でしたか。それは失礼しました。さすが情熱の国はすることが派手だ」
ヴィンセントがハハハと乾いた笑い声をあげる。
ケインはベルナルドから解放されたりさに駆け寄る。
「リサ! リサ!大丈夫か ! ?」
「無理……酸欠起こしそうです」
くらくらとケインの腕の中に倒れこむりさであった。
***
「じゃあな、お前ら!また来いよ!」
ベルナルドが大きく手を振り魔法陣の中に入る三人を見送る。
先ほどの件で胸中穏やかでないケインは、りさにそっと耳打ちをした。
「【エルフに射られたと思いな】ね、リサ」
少し苛々した声でケインが話す。
(犬にキスされたと思え、というような意味合いだろうか)
りさは疲れた頭で考える。異世界のことわざは難しい。
波乱があったものの、外交は無事成功に終わり、ヴェルニカ王国に戻る三人だった。
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