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おじさんまだまだ捨てたもんじゃないね

店のカギをかけて、ケインと二人で徒歩5分の市場に向かう。

りさは日本にいたころと同じく白いパーカーにワイドパンツを着用していたのだが、

この国ではこの服装は浮くらしい。市民たちの視線をバシバシ浴びているのを感じる。


まず女性はみなスカートで、ワンピースのような丈の長い服を着用している人がほとんどだ。

パンツスタイルの女性はまずいない。


「ケインさん、この金貨で洋服って買えますかね?」

「買えるが、その服装もいいと思うけどなぁ」

「いやぁ、あまりにも浮いてて……」

「そこの2人、少しいいか?」


そう後ろから声をかけてきたのは、黒髪に翠の目を持つ精悍な若者だった。


「はいはい、どうかしましたか?」

「この辺で放火魔が出てな。こういう人相なんだが見覚えはないか?」


男性が人相書きを2人に見せる。


「いやぁ、ちょっと分からないですね」


そういうケインとこくこく頷くりさ。


「そうか。協力感謝する」


そう言って男は去っていった。


「今の警察ですか?」

「ケイサツ?いや、我が国の誇る王国騎士団だ。勲章の数からするに、ありゃ騎士団長だな」

「へえ」


そんな会話をしていたら、食料を売っている若い女性がケインに声をかける。


「ケイン、今度いつ飲みに行く?」

「あぁ、ちょっと今子分ができて忙しいんだ。先になるな」

「子分?その横の女のことじゃないわよね?」

ジロリと睨みをきかされ、りさは思わずビビってしまう。

まぁでも無理はないかとケインの姿を見て納得する。


180cmはあろう背に、程よい筋肉を感じさせる身体。

それに、無精ひげは生えているが目鼻立ちのはっきりした顔。

優し気なたれ目にふわふわの茶髪。

トウはたっているようだが、確かに女は放っておかないだろう。


「あぁ、リサってんだ。ちょっと変わった子だが字は綺麗だぜ。お前も依頼してみな」

「ふん、誰が」

「そう言うなって、じゃあな」


そういって店先から去るケインとりさ。


「ケインさんってモテるんですね」

「たはは、やっぱり?おじさん、まだまだ捨てたもんじゃないね」


そう笑うケインは満更でもなさそうである。

そのあとも女たちがとっかえひっかえケインに声をかけ、その度りさは女たちにけちょんけちょんに言われたり、睨まれたり、足を踏んづけられたり、大変な目にあったのだった。


さて、肝心の金貨の価値だが、金貨1枚で大体1万円くらいだと体感した。

しばらく店の2階を住処にしてもいいとケインさんに言われているし、当面は食事の面倒もみてくれると言ってくれた。

衣食住、残る問題は衣だった。


「市場に服屋さんはありませんよね?」

「そうだな、ちょっと行ったところに店を構えてるとこがあるからそこに行こうか」


そう言って、服屋に向かう二人。

その道中、ケインはりさに以前いた国について聞いた。


「どうやら俺たちの国と全然違う文化みたいだな」

「そうですねぇ、ここはいわゆるナーロッパって感じですもんね」

「ナーロ……?知らない言葉だな」

「あぁいいんです、お気になさらず。でもよくよそ者を受け入れてくれましたね」

「困った女性を放っておけないからねえ」


照れもせずさらりとそう言いのけるケインにリサは思わず赤面してしまう。


「なるほど、よくわかりました」


あなたがモテる理由が、という言葉は胸にしまった。


***


「いらっしゃいませ、ようこそ」


りさ達は路面の洋服屋に入った。


「金貨2枚分で全身のお洋服ください」

「かしこまりました」

「リサ、俺店の外で待ってちゃダメ?」

「試着したとこみてくださいよ、似合うかどうかわからないので」


へいへいと答えるケイン。


店員にどっさりワンピースを持ってきてもらう。

よかった、オーダーメイドとかの店じゃなくて。そしたらいくらになるかわからないし、時間がいくらかかるかもわからない。

価格を聞くとけっこうリーズナブルだったので、一安心した。


「あ、この色かわいいな」

「お客様によくお似合いかと思います」

「試着できます?」

「もちろん、どうぞ」


試着室に入り、着ていたパーカーとパンツを脱ぎ、ワンピースを着用する。

ネイビー色のその服は、街で見かけた女性達の服装とそうかわらない。

オーソドックスな型なのも気に入った。


「ケインさん、どう?」


そう言って試着室からでたりさはケインにみせびらかす。


「あぁ、前に着ていた服もいいが、こっちも似合うな。かわいいよ」

「ふふ、お上手だこと」


そういってすぐに店員の方に顔を向ける。

ケインに顔が赤くなっていることを知られたくなかったからだ。


「店員さん、これ買います。着て行っていいですか?」

「ありがとうございます。着ていた衣服はどうされますか?」

「うーん……持って帰ります」


一応ね、念のためね。また日本に戻れるかもしれないし。

決してケインさんが褒めてくれたからじゃないからね。


着ていた服を紙袋に入れてもらい、店を後にした。


「せっかくだから、帰りにロザリーの花屋に寄っていこう」


とケインに提案されたので、りさは快諾した。


緑の屋根のこじんまりとした店先に、たくさんの色とりどりの花が置いている。

ここがロザリーの花屋さんだだとりさはなぜだかすぐわかった。


「こんにちは、ロザリーちゃん、きちゃった」

「……リサさん?ケインさんも」

そう答えるロザリーの目尻が赤い。泣いたのであろうか。

「ロザリーちゃん、何かあったか話してくれる?」

りさがそう問いかけると、ロザリーはわんわん泣き出した。

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