魔法使いカロルの姉
朝から人でにぎわう市場で、買い物をするりさの姿があった。
今日は恋文屋の定休日なので、食料や生活用品を調達しようと街で一番大きな市場にやってきたのだ。
(異世界の市場ってほんとに面白いな)
市場に並ぶ品々を眺めりさは思う。
ヴェルニカ王国の植生は日本とそう変わらないので、野菜や果物は見慣れたものばかりだったが、
モンスターが落としたアイテムを売る露店や、りさがみたこともない不思議な動物を売る露店もあり、ついきょろきょろと目移りしてしまう。
見慣れないものを買うのは怖かったので、りさは馴染みのある果物を買うことにし、色々な果物を並べている露店の店主に声をかけた。
「おじさん、りんごといちごをかご1つ分だけください」
「はいよ!おっお嬢ちゃんべっぴんさんだねえ!おまけしとくよ」
「あはは、ありがとうございます」
社交辞令を素直に受け取るりさだったが、おじさんの提案を断ればよかったと後悔した。
(果物もらいすぎちゃった。食べきれないなこれは)
店主の優しさが仇となってしまった。
(早く食べないと傷んじゃうしなあ)
ぼーっと考え事をしていたら、通りの邪魔になると考えて慌てて市場の隅っこに移動した。
どうしようとうんうん悩んでいたら、途端にある一人の男性の顔が頭に浮かんだ。
(そうだ、いつもお世話になってるし、カロルにおすそ分けしよう!)
そう決めて、りさは魔法ドコロに向かった。
***
「ごめんくださーい、りさでーす」
魔法ドコロの重い扉を開けてりさは言う。
店内はカーテンを閉めているので薄暗く、ろうそくのあかりだけが灯る。
「いらっしゃい。今日はどうしたの?もうインク切れた?」
フードを被ったカロルが出迎えてくれる。
男性にしては少し高めの声だが、中性的な雰囲気のカロルによく似合っているなとりさは思っている。
「あ、ごめん、今日は買い物じゃないんだ。果物のおすそ分けに来たの」
りさはそういって紙袋に入った果物をはいどうぞ、と渡す。
カロルは紙袋の中を興味深そうに覗く。
「へぇ、美味しそうだね。ほんとにもらっていいの?」
「うん。いつもありがとうって気持ちとして受け取ってくれると嬉しいな」
「そう……ありがとう」
ポッと花びらが舞う。
カロルが照れた時に出る花びらだ。
邪魔そうに、肩に乗った花びらを払いのける。
(気に入ってもらったようで良かった)
と思いながら、りさは腕を大きく回した。
「重い荷物持ったから、腕痛くなっちゃった」
「よかったら回復魔法かけてあげようか?」
「いいの?」
「うん。果物のお礼」
そう言って、2人は奥の魔法陣が書かれた部屋に向かった。
(なんか、ちょっとお化け屋敷みたいで気味が悪いんだよね)
ゴブリンの剥製や瓶に詰められたスライムが並ぶ、薄暗い部屋に通されたりさはそう思う。
魔法陣の中央に置いてある椅子に座るようカロルに促されたので、その通りにした。
カロルはりさに向かって手のひらを向け、呪文を口にすると、部屋に青い稲妻のような光が一瞬光る。
りさはぎゅっと目を瞑る。
すると、徐々に体が軽くなってきたので、恐る恐る目を開ける。
「終わったよ」
カロルはふう、と息を吐いて腕をぐっと上に伸ばした。
「すごい!体が楽になった!ありがとう。カロルは魔法を使うのが上手なんだね」
りさがストレッチをしながらそう言うと、カロルはハッと動きを止め、瞳を揺るがす。
「……それ、姉さんにも言われたことある」
「そうなの。お姉さんがいるんだ。どんな人?」
「僕が小さい頃死んじゃった。自慢の姉さんだったよ」
そう言って、カロルは昔話を始めた。
「姉さんは、とても優しい人だった。体が弱いのに、いつも僕に魔法の使い方を教えてくれたんだ。
魔力は僕たち兄弟の中でもダントツで、
周りのみんなも、姉さんはきっと大聖堂の聖女様になるとばかり思ってた。
まさか、流行り病であっけなく死んでしまうなんて誰も思わなかったよ。
僕がもっと大きければ治してあげられたのに。今の僕なら救えたのに。」
後悔のため息をつくカロルに、りさは何と声をかけようか考えあぐねていた。
やっとの思いで出てきた言葉は、
「お姉さんのことが大好きだったんだね」
だった。
カロルはこくんと頷いて
「自慢の姉だよ。……ちょっと雰囲気がリサに似てるかな」
と答えた。
「ええ?そうなの?どんなところが?」
「呑気なところとか」
「お、生意気~」
「あと周りに流されがちなところとか」
「カロル、私のことよく見てるね」
りさがそう言うと、カロルはポポポと花びらを舞わせた。
「ごめんごめん、照れちゃったね」
「……最悪だ」
「ふふ、そうふてくされないで。そうだ、私がお姉ちゃんの代わりになってあげようか?」
「やだよ、リサはリサだ」
「それもそうだね」
そう言って二人は顔を見合わせて笑いあった。
カロルは滅多に笑わないのだが、今日は久しぶりに口を開けて笑った。
(なんだかちょっとだけ、カロルと距離が近づいたかも)
りさはそう思い、カロルの前髪に隠れた大きく綺麗な瞳を優しく見つめるのだった。
その姿は、はたから見るとまるで本当の姉弟のようだった。
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