彼と同じ屋根の下で
とある日の早朝、りさの部屋に大きな音が響き渡る。
(何! ?私ベッドから落ちた! ?)
体に痛みを感じたりさは慌てて飛び起きる。
目に入り込んできたのは、二つに割れたベッドの姿だった。
(壊れた……)
ケインから家具ごと部屋を借りているりさは、真っ先にケインの顔を思い出した。
あわあわと辺りを歩き回るりさ。
(と、とりあえず顔を洗おう)
なるべく平静を装って、いつもの朝のルーティンをこなすりさだった。
***
「そんなわけで、ベッドを壊してしまいまして」
りさはすみませんと、出勤してきたケインに謝る。
「大丈夫?怪我は無かった?」
壊れたベッドより、リサを心配するケインの優しさが身に染みるりさ。
「はい、怪我は無いです。壊れるなんて、私太ったのかな」
「そんなことはないさ」
「そうですかねえ……それより、今夜どこで寝よう……」
りさは朝一番で魔法ドコロに行ってカロルを叩き起こし、
「ベッドを直して!」
と懇願したが、
「今日は隣町まで行かなきゃいけないから明日ね」
と言われてしまったのだ。
うーんと悩むりさに、ケインは優しい声で言った。
「リサさえよかったら、俺の家のベッドを使うかい?」
「えっ!?悪いですよ、ケインさんはどこで寝るんですか!」
「俺はソファにでも寝るさ。大丈夫、たまにソファで寝ることもあるから」
「駄目ですよそんなこと!それならせめて私がソファで」
「ダメダメ、女の子にそんな真似させられないよ。おじさんの言うことを聞いてくれ」
そう言われてしまい、りさは折れた。
***
仕事を終え、外で軽く夕食を済ませてからりさとケインの二人は家路についた。
「ボロくて狭いけど、我慢してね」
とケインは言ったが、全然ボロくも狭くもない。
綺麗で広々とした部屋だった。
確かにこれなら一人くらい泊まりに来ても問題は無い広さだ。
「リサ、俺から誘っておいてなんだけど、おじさんと一晩一緒に過ごすなんて、本当に大丈夫?」
「大丈夫ですよ。ケインさんのこと信頼してますから」
何変なこと言ってるんですか、と笑い飛ばすりさにつられてケインも笑った。
***
夜も静まった頃。
りさはすうすうと静かに寝息を立てていた。
ケインはソファから身を起こし、りさが布団を蹴飛ばしてないか様子を見に来た。
案の定、布団がめくれていたのでケインはりさを起こさないよう、そっと布団をかけなおす。
「無防備な顔しちゃってまあ」
静かに笑ったケインは、りさの綺麗なおでこに、一つ唇を落とした。
「ごめんね、信頼してくれてるのに。おやすみリサ」
ケインは小さくそう謝り、ソファに戻った。
秘密を隠すような、濃く暗い闇夜が国中を包み込んでいた。
***
「あ~!よく寝た!」
すっきり目を覚ますりさは、ふと自分の寝間着からいい香りがすることに気づく。
(ケインさんのにおいだ)
ふわりと香るお日様と、ほのかな木の香り。
りさがいつも近くで嗅いでいる香りだった。
(私の体からケインさんの香りがするなんて、なんだか変なの)
ふふ、と笑ってケインのいる部屋に向かう。
ケインはすでに起きていて、りさの分の朝食も用意してくれていた。
***
「忘れ物はない?リサ」
「はい!大丈夫です」
家を出るりさとケイン。
すると、隣の家のおばさんが声をかけてきた。
「あらケイン!ようやくお嫁さん貰ったの?」
見当違いなことを言われて二人で慌てて否定する。
「あらそう、違うの?お似合いだと思うけどねえ」
おせっかいなおばさんはそう言って、市場の方向へ歩いて行った。
「困りますね、夫婦なんて」
「ごめんねりさ、間違えられた相手が俺みたいなおじさんで」
「いえ、そこは問題ないんですけど」
「……そうかい?」
朝日に照らされた木々が優しくざわめく。
今日は少し風が強い。
ケインはりさが飛ばされそうだと心配になり、思わず手をつかみそうになったが、思い直して手を引っ込めた。
(手を取る勇気が俺にあれば)
と自嘲気味に笑い、りさと仕事場に向かって歩き出した。
いつもブックマーク登録や評価などありがとうございます。
連載更新の励みになっています。
当面は一日一話を目標にしたいと思っています。お楽しみに!




