かしまし仲良しお姉ちゃん
雪もすっかり溶けたある日の午後。
仕事がひと段落したリサは、ドラゴンのシロに会いにルイのもとへと出かけていた。
ルイの家に到着したリサは、はたと動きを止める。
何やら家の中が騒がしい。女の人の高い声が聞こえる。
(また半裸のお姉さんがいないといいけど)
そう思い、リサは少し緊張しながらノックをする。
「はーい!今出ます」
ルイの明るい声が聞こえ、ドアが開く。
「リサ、ごめん。今日姉さんが来てるんだ」
「あ、いいよ全然。またくるよ」
そう言って去ろうとしたリサを、家の中にいた綺麗な女性が止めに入る。
「駄目よそんなの。一緒にお話ししましょう」
その人は、ルイを女性にしたような雰囲気の人だった。
違うところと言ったら、女性の方には口元にホクロがあるくらいだ。
リサは「お姉さん?」と聞く。
初めて会った時、姉がいると聞いていたのを思い出したのだ。
リサの言葉にルイは頷いて肯定して紹介する。
「姉のレイっていうんだ」
「よろしくね」
「初めまして、りさといいます」
軽く挨拶を済ませると、レイはりさの手をつかみ、家の中へと招き入れた。
「ちょっと、姉さん!」
「いいじゃない、何か問題でもあるの?」
優しく問いかけるが、圧がすごい。
ルイは折れて渋々と姉の言いなりになるのであった。
***
レイがりさにお茶を渡しながら優しく問いかける。
「それで、リサさんとルイ君は恋人同士なのかしら?」
りさは淹れてもらったお茶を吹き出しそうになった。
「違うよ姉さん。これからだよ」
「そう、それは楽しみねえ」
「あの、なりません、なりませんから!」
慌てて強めに否定するりさ。
(誰がこんな軟派な奴と!……まぁ、優しい人ではあるけど)
先日背中をさすってくれたルイの姿を思い出す。実家の猫のようで可愛かった、とも。
「そういえば、お姉さんは今日はどのようなご用事で?」
穏便に、しかし露骨に話題を変えるりさ。
「今日はね、ルイ君にお見合いの話を持ってきたの」
「お見合い?」
「そうなの。ルイ君フラフラしてるでしょう?私心配で」
「あぁ……確かに」
「ひどいな二人とも」
ルイは口を尖らす。
「オレはただ可愛い女の子と仲良くしたいだけだよ。それの何が悪いんだい?」
真剣な表情で話すルイ。こいつどうしようもないなとりさは呆れる。
そんなルイを無視して女二人は話に花を咲かせるのであった。
「お見合い相手ってどんな人ですか?」
「いい人よ~。農家の娘さんで、麦を作っているそうなの」
「オレはまだまだ遊びたいの!姉さんは黙ってて!」
ルイが小さく悲鳴を上げると、レイは大人しく言うとおりにした。
が、それは一瞬だけのことだった。
「ねぇ、リサさんはこの国の人じゃないわよね?どこからいらしたの?」
「ええと、日本という国です」
「まあ!ニホン!知らないけれどきっと素敵なところでしょうね」
「そうですね、色々と便利な国でしたよ」
「そうなの!それでリサさん今恋人は?」
「おりません」
「ちょうどいいわ!ルイ君、リサさんとお付き合いしたらどう?」
「姉さんちょっと黙ってて」
「いやよ!りささん、うちにお嫁にいらっしゃい!そうすれば我が家も安泰だわ!」
嬉しそうにキャッキャと一人盛り上がるレイ。
ルイが頭をポリポリかいてそれ以上言うのを諦めた。
どうやら姉には勝てないらしい。
「あら大変、私もう帰らないと。またね、ルイ君、リサさん」
レイは窓の外を見て慌てたように言う。空はほんのり暗くなっていた。
「レイさん、ありがとうございました」
「しばらくこないでね、姉さん」
二人はレイを見送った。彼女は嵐のように去っていった。
「うーん」とルイは大きく伸びをしてりさに話しかける。
「ごめんねリサちゃん。騒がしいでしょ、うちの姉さん。悪い人じゃないんだけど」
「ううん、なんかすごい人だったね」
「姉さん頑固なところあるから」
ルイははぁと大きくため息を吐く。
「なんだか疲れちゃった。リサちゃん、頭撫でて?」
「ええ?」
「いいでしょ、ね?」
強引にりさの手を頭に持ってくるルイ。
「この前のいい子いい子気に入っちゃってさ~やっぱりリサちゃんが一番落ち着くね」
「『やっぱり』ってことは他の女の人にやってもらったんだ」
「あ、バレちゃった?」
アハハと軽やかに笑うルイ。
末っ子らしく、甘えたらしい。
ルイの頭を撫でながら、早くシロのことも可愛がりたいなぁと思っていたが、中々そう言えないりさであった。