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月が綺麗ですね


街の中央にある飲食街。

りさとケインは馴染みの店の扉を開けた。

古くて10人も入ればぎゅうぎゅうになる小さな店だが、二人はこの店が好きだった。


「いらっしゃい、ケインにリサちゃん。今日は何にする?」


店主のオヤジに挨拶をして二人はカウンター席に座る。


「大将、久しぶり。俺はいつもの」

「私はラベンダー酒ください」

「あいよ!ちょっと待っててな」


ガヤガヤと賑わう店内。

リサたち以外に男性客と、男女の客、女性客二人の客が酒と食事を楽しんでいる。


「はい、お待たせ!」


威勢よく酒を提供する店主。


「じゃあ大将、フライドドラゴンと、セロリの漬物、水牛のチーズをくれ」

「あいよ!」


りさは最初ヴェロニカ王国に来た時、ここに住む人たちは何を食べるのか気になっていた。

植生は日本とあまり変わらず、家畜もそう変わらない。

変わっていることと言えば、ドラゴンの肉を食べるということくらいだ。

家畜用のドラゴンと愛玩用のドラゴンがいるとケインに教えてもらった。

ちなみにドラゴン調教師のルイはドラゴンの肉は食べないらしい。軟派そうに見えてドラゴンのことは一途に愛しているようだ。


「それで?今日はどんなことがあったの?」


ケインが頬杖をついてりさの顔を見つめる。


「それが、カロルが魔法演出をすることになりまして」

「ええ?なんでまたそんな」


談笑していたら料理が届いた。

乾杯をして、酒を一口飲む。異世界の酒はうまい。

りさが今日あったカロルの話の続きをすると、ケインは楽しそうに聞いていた。


「あいつも名門出だから、色々葛藤があるんだよ」

「だからちょっと自信がないっていうか、卑屈っぽいんですね?あんなにすごい魔法が使えるのに」

「そうだなあ、ご両親が厳しい教育をしていたみたいだし」


あいつも大変だなあとこぼすケインは、そういえばと話題を変える。


「騎士団長に妹君がいるのは、リサもう知ってたっけ?」

「いえ、初耳です」

「アナベルっていうんだが、兄貴に似て綺麗な子なんだこれが。その子宛のラブレターの依頼が舞い込んで大変なんだ」


そうなんですね、とりさは返す。

フランツに似ているということは、確かに美人だろう。どの位似ているのか気になるところだ。

そんな会話を楽しみながら食事をつついて酒を飲んでいた二人だったが、少し面倒なことに巻き込まれる。

りさがお手洗いにたった隙に、女性客の一人がケインにモーションをかけていたのだ。

りさは声をかけられず、二人から離れたところで様子を眺める。


「あんな女ほっぽって、私と一緒に抜けましょうよ」

「いやあ、そのお誘いは嬉しいんだがねえ」

「なによ、不満でもあるの?」

「あの子と食事を楽しんでいるのでね、またの機会にしようお嬢さん」


ケインがそう言うと女性は逆上した。


「あんな女なんてどうでもいいじゃない!私の方がよっぽどいい女よ!」

「悪いがね、お嬢さん。俺の大事な人のことをそんな風に言わないでくれないか」


ケインの低く真剣な声が狭い店内に響く。


大事な人……大事な人……と胸の中で反芻するりさは頬に熱を感じた。

決して酒のせいではない。


「あっそ!いいわよ!店員さん!お会計して頂戴!」


よく見るとそんないい男じゃないしね!と捨て台詞を吐いて女性は店を出て行った。


「ケインさん」

「あぁリサ、悪かったな、いやな思いさせて」

「いえ、そんな」

「うちの大事な書き手を侮辱されるなんて、黙っていられなかったからな」


そう、あくまでもビジネスパートナーとしてケインはそう言ってくれたのだ。

変な勘違いをしないようにしなきゃとりさは襟を正す。


「さっきのケインさん、かっこよかったですよ」

「よしなさい、おじさんをからかうんじゃないの」


そう言ってりさのおでこをツンと指でつつくケイン。少々耳が赤い。照れているようだ。


***


「おいしかったれすね~」

「そうだな。でもリサ、呂律がまわってないけど大丈夫か?」

「だいじょうぶれす~」


あの後お酒をガンガン飲んだりさはだいぶ酔ってしまったようだ。

ケインがしゃがんで


「ほら、おいで」


という。おんぶを促しているようだ。


「いやでしゅ、恥ずかしいのれ」

「いいから、おじさんの背中で悪いけど、乗りなさい」

いやです、いいから乗りなさい、を何度かやり取りしたあと、結局りさが折れた。

「じゃ、おじゃまします」


ケインの広い背中に少々どぎまぎするりさ。熱を感じてあったかい。


「よいしょ、りさは軽いなあ。こうしてるとりさと初めて会った頃を思い出すよ」

「はじめてあったとき?」

「あぁ、森の入り口で倒れていた時さ。あの時もこうして運んだっけ。……お。みてみろ、月が綺麗だぞ」


そう言って月を見るようりさに話す。


「けいんさん、私の国では『月が綺麗ですね』は『あなたのことを愛しています』っていう意味なんれす」

「そうか……綺麗だな?リサ」

「きいてました?わたしのはなし。だから月が綺麗ですねってのは……」


続きを言おうとしたが、りさは眠気に勝てず眠りこけてしまった。


「ちゃんと聞いてたよ」


りさが寝たのを確認してケインが小さくつぶやく。

大人になればなるほど臆病になって、恋にまっすぐぶつかれない。


月明かりが二人を照らしている。二人が闇夜に包まれないように。

誤字脱字報告ありがとうございます。いつも助かっております。

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