はじめてのお客さん
恋文代行業を行うぞ!と意気込むりさだったが、何をすればいいのかさっぱりわからなかった。
ケインに
「まず何をすればいいですか?」
と聞いたところ、基本は依頼された仕事をこなすだけで、営業はかけないとのこと。
「そんなに多く依頼が舞い込むんですか?」
「まぁな。うちは人気の店だから」
ふふんと鼻を鳴らすケイン。それなりに繁盛しているようで安心したところでちりりん、とドアが開いたことを知らせるベルが鳴った。
「いらっしゃいませ。お客様は初めての方ですね?」
「ええ、あの、ここで恋文を代行してくれるって聞いて、それで……」
緊張した面持ちの、赤い髪に頬のそばかすが可愛らしい十代後半くらいの女の子がやってきた。
りさはやりとりを学ぼうとケインの横に立って様子をうかがっていた。
「ではまず貴女のお名前と、相手の方の情報を教えていただけますか?」
「はい。ロザリーといいます。花屋の娘です。先日、お客様がお見えになって、お花を買われた際にこちらの恋文をいただきました。」
「そうですか。そのお手紙は今お持ちですか?できれば読ませていただきたいのですが」
「あ、はい、ちょっと待ってくださいね」
そういって大事そうに手紙をかばんから取り出すロザリー。
花屋らしく、手が少し荒れていて痛そうだ。
手紙の内容はこうだ。
【花屋の君へ。
何度か店を通りかかるたびに、君に夢中になってしまった。
君の笑顔は何百もの束になった花もかすんでしまうほど美しい。
もっと君のことを知りたい。僕のことも知ってほしい。
七日後ににまた花を買いに行くから、その時に返事をくれると嬉しいな。
アーディより】
「なるほど……ありがとうございます。こりゃ相手はお貴族様ですね」
「えっ!? どうしてわかるんですか!?」
思わずりさが声を挟む。
「まず紙とインクの材質が良い。一般庶民には手が届かない代物だ。
あとは手紙に封してあった蠟だな。」
(あぁ、シーリングスタンプみたいなものか)
とりさは思う。
「この蠟に記されている家紋はアドリー家のものだ。お客さん、やりますねぇ」
にやにや笑ってロザリーに話しかけるケインは ちょっとおやじ臭い。
「それで、その、私もお返事をしようと思ったのですが、字が書けなくて……」
恥ずかしそうにうつむくロザリー。
「かしこまりました。このリサがお受けしますのでご安心ください」
ケインがそう言ったのでりさは驚き声をあげてしまった。
「もっと研修とか、弟子になるとか、そういうのないんですか!?」
「俺は弟子を取らない。いいだろ、お前向きの案件だ。」
金も要るだろう?とそっと耳打ちされる。
それを言われると弱い。
「わかりました。私が書きましょう!」
「ありがとうございます!あの、自分の気持ちをそのまま伝えたいので、私の話す言葉を代わりに書いてもらってもいいですか?」
なるほど、一から恋文を考えなくてよいなんて楽そうだ。
「もちろんです。この後時間はありますか?」
「ええ、大丈夫です。」
「では、このまま聞き取りましょうか」
そういってリサは紙とペンを手にする。
【アーディ様
お手紙ありがとうございます。私はロザリーと申します。
高貴な身分の方とこうやってお手紙を交わせるなんて、夢のようです。
私のどこをそんなに気に入ってくださったのかはわかりませんが、笑顔を褒めていただきありがとうございます。
私もアーディ様のことをもっと知りたいです。
こんな私でよければ文通を続けてくれると嬉しいです。
ロザリーより】
りさは聞き取りながらクゥ~と声を漏らさないように必死だった。
ロザリー、控えめであまりにもかわいい!アラサーには眩しすぎる!
と心の中が大変なことになった。
悶えつつ、ロザリーに手紙を確認してもらう。
字は書けないものの読めるらしい。
この国の教育制度はもっと改善されるべきだとりさは思った。
「大丈夫です。では、お代を……」
「あ、はい、どうも、えへへ」
そういって金貨2枚を受け取った。
「ありがとうございます!また来ますね」
そういってロザリーは去っていった。
「ねぇケインさん、金貨1枚って何円くらいの価値? ?」
「エン……?お前の国の通貨か?知らん。市場に行って金銭感覚を体にたたきこんできたらどうだ?」
「一人じゃ不安なんでケインさんもついてきてくださいよ」
「しゃあねぇなぁ、ほら行くぞ」
しょうがないと言いながらどこか嬉しそうなケイン。
面倒見がよいので頼られるのが嬉しいらしい。
こうして二人は市場へ向かった。
そこで大変な目に合うことはりさはまだ知らない。