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あなたしかいないんです


仕事がひと段落したある昼下がりの午後。

りさはうーんと伸びをして、執務室にいるケインに声をかける。


「ケインさん、お茶飲みませんか?」

「あぁ、気が利くね。貰うとするか」


そう言って、執務室と客間にある小さなスペースに椅子を置いて腰掛ける。


「この国っていいですね、常春で」

「リサのいた国は春以外の季節があるのかい?」

「そうですね、夏、秋、冬がそれぞれ訪れましたよ」

「そうか、この国は春しかないから、いつか秋の国に行ってみたいな」


遠い目をして異国にものふけるケイン。

確かに私も秋は好きだ。気候が穏やかで美味しいものが沢山とれる。


「常秋の国なんかもあったりするんですか?」

「あぁ、あるよ。ちょっと遠いけど」


馬車で三日くらいかな、と話すケイン。

確かにそんなに長く休みを取ったら仕事が回らなくなる。

そんな他愛もない世間話をしていたら、扉が開いた。


「いらっしゃいませ。おや、魔法ドコロの旦那じゃないか」

「どうも。今日は用事があってきたんだ」


そう言って被っていたフードを外すカロル。

部屋にさす陽の光がカロルの暗い茶髪をキラキラと照らす。


「カロル、こんにちは。今日は何の用事?」

「これ、劇のチケット二枚もらったから二人で行って来たら?」


しずしずとチケットを差し出すカロル。


「今話題の劇じゃないか。人気で中々手に入らないって聞くぞ?いいのか?」

「うん。二人の予定があえばだけど」


ケインはチケットの日付を確認する。


「だめだ、この日俺仕事が入ってる。リサは行けるだろう?」


そう残念そうに言うケイン。


「はい、この日は大丈夫です」

「そうか……うーん、一人で行かせるのもなぁ…」


うんうん考え込むケイン。別に一人で行っても構わないのだが、確かに話題のチケットが余るのはもったいない。


「そうだ、カロルは一緒に行けないの?」

「ぼ、僕?」


あからさまにうろたえるカロル。


(そんなに私と一緒に行動するのが嫌か)


「確かにその日は用事ないけど……」

「じゃあ決まり。一緒に行こう!」

「うん、カロルも一緒ならおじさん安心だ」


わいわい盛り上がる恋文屋たち。


それを横目で


「気を利かせたつもりなのに……」


とぶつぶつ言うカロル。

はてさて、こうしてりさとカロルは共に劇を見に行くことになったのであった。


***


劇を見に行く日。

リサはカロルと恋文屋の前で待ち合わせすることになっていたのだが、約束の時間になってもカロルは現れない。

徒歩三分ほどの距離だし、迎えに行こうかなぁと考えるリサに二人の男が声をかける。


「ねぇねぇお姉さん、もしかして恋文屋の人?」

「はぁ、そうですが」

「いいなー俺にも恋文書いてよ」


なんだ、ただのヤカラか。ケインさんを呼ぼうかな。

そんなことを思っていたらカロルがやってきた。


「あ!遅いよカロル」

「誰、その人たち」


カロルはジトとヤカラを見上げる。


「知らない。さ、行こ」


そう言って歩みを進めるリサにヤカラが騒ぎ立てる。


「おい姉ちゃんそりゃねぇんじゃねぇの!?」

「もうこの店に依頼しねぇぞ!いいのか!?」


りさは無視して行こうと思っていたが、カロルは違ったようだ。


「ムカつくな。えい」


カロルは男たちに向かってぶつぶつと呪文を唱えた。

すると、ヤカラの服が燃え盛り、慌てて二人はその場から立ち去った。


「すごいね、カロル。でもちょっとやりすぎじゃない?」

「いいんだ。すぐ消える魔法だし」


さあ行こうとスタスタと歩みを進めるカロルを慌てて追いかける。


***


広場に設営されたテントに人が沢山詰めかけていた。

適当に席に座ったが、なにやらステージ側が騒がしい。


「何かあったのかな?」

「さぁ……」


すると、周囲の客が


「どうやら演出の魔法使いが病欠でこれないらしい」


と教えてくれた。


「魔法使いだって、カロル代わりにやればいいじゃん」

「やだよ、面倒くさい」


今日はもう劇見れないかな、と呟くカロルに一人の男性が声をかける。


「あなたはもしや、あのモズレー家のご次男ではないですか?」

「……そうだけど、何?」

「やはり!どこかで見かけたことがあるかと思いました!お願いします、あなたしかいないんです!どうか我らをお助けください!」


「はぁ?」


カロルの声が小さくこだました。


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