違います!誤解なんです!信じてください!
ヴィンセントの部屋をあとにしたりさは、王宮の廊下でばったりとフランツと出会う。
「どうしたの?鍛錬場に行ってたんじゃなかったの?」
「あぁそうなのだが、貴族連中に呼ばれてな。そこに向かうところだったんだ」
「そうだったの。どれくらいかかりそう?」
「くだらん与太話に付き合わされる程度だろうから、すぐ済むさ。リサもくるか?」
いや結構と断ろうとしたところ、派手な服装の女性三人がどこからともなくやってきた。
「あらフランツ様、ご機嫌よう」
「これはこれは、エリー殿。ご機嫌よう」
一際派手な女性がフランツに挨拶をする。知り合いだろうか。
「それで、横の子ネズミみたいな女性は誰ですの?」
(子ネズミって私のことか?)
りさは驚いて声も出せなかった。
横のフランツの顔を見ると、あからさまに不機嫌な顔をしている。
苦手な人たちなのだろうか。
「失礼だが、エリー殿。この方は恋文屋のリサだ」
「まぁ、この方がリサさんなの、へえ」
3人組がざわつく。恋文屋の名は王宮で知られているようだ。
「あなた、フランツさんの恋人だなんてうそぶいているんですってね」
エリーに言われ、目を白黒させるりさ。
「誤解です!」
「そうだ誤解だ。うそぶいていない。正真正銘りさは私の恋人だ」
「それも誤解です!」
「まぁ貴女!どういうことでして!?」
ギャーギャーやかましく王宮の廊下で喋り散らす五人。
「ひどいわフランツ様!私がいくら手紙をお出ししてもお返事をくださらないのは、この子ネズミがいたからなのですね!?」
誤解だ。多分普通にフランツはエリーに興味がなかったか、忙しかったのだろう。
「そんな小汚い女が恋人だなんて、フランツ様は何か騙されているんです!きっと悪い魔法をかけられたのですわ!私、聖女様に言って呪いを解いてもらうよう頼みます!」
(小汚いだの子ネズミだのなんとも失礼だな)
と沸々と怒りがわいてくるりさ。
今日は怒ってばかりで嫌になる。
そう思っていると、辺りに響く大きな声が廊下を包んだ。
「そこまでです!」
ぴしゃりとエリーをたしなめるフランツ。
「私の好きな人に酷いことをいうのは辞めてほしい」
フランツは毅然とした態度でそう言い放つ。
「まぁ!好きだなんて!本当ですの!?」
「あぁ、本当だ」
りさの肩をぐいと寄せてそう言う。
「待って違うんです誤解です、この人私の文字が好きなだけで私のことは別に好きじゃないんです!文字オタクで私が推しってだけです、信じてください!」
「オタク……?オシ……?」
ぽかんとするヴェルニカ王国民達。
(そうか、この国にオタク文化はないのか……)
「うーんと、説明するのが面倒くさいな…好きなものを応援したい気持ちがあるってことです、恋愛感情じゃないです」
「リサ、そんなことは」
「ええいあんたは黙ってなさい」
そう言ってその場を何とかやりこめようとするりさ。
その時、王宮の警備員が二人やってきて、五人の騒ぎを止めようとした。
「何か問題がありましたか?」
「いいえ、ただの誤解でした。なんでもありません」
王宮を出禁になるのはまずいと判断したりさはそう言い放つ。
りさが説明すると、警備員たちはうなずいて去っていった。
沈黙が五人の間に流れる。
「リサさん、あなたはとにかくフランツ様のオシ?ってやつなのね?恋愛感情は二人の間にはないのね?」
沈黙を破ったのはエリーだった。
「ええ、はいまあそうです」
「リサ!」
情けない声を出すフランツ。
「黙ってて!」
静かな声でフランツを制すりさ。頭がくらくらしてきた。
「好きな人の好きな人は、好きにならないといけませんわね」
エリーがため息を吐いて言う。
「リサさん、でしたっけ?これからもフランツ様が誇れるオシになるんですよ」
「は、はい」
そう言ってエリー達三人衆は帰っていった。
なんかどっと疲れた。
「リサ……私はリサの恋人ではなかったのか?」
しゅんとうなだれるフランツにリサは
「最初からそう言ってるじゃない」
と憐れんだ声で答える。
「そうか……わかった。これからはリサの恋人になれるよう精進する」
「え?ああ……そっちが勝手に頑張る分には、まぁ……」
「オシじゃなく、恋人になってみせるからな、リサ」
ガチ恋オタクを産んでしまっただけだとりさが気づくのは、数分後のことだった。




