ショーマストゴーオン!
こうしてりさはいやいやながらもショーに出演することになった。
やたらと露出の多い衣装に着替え、テントの外に出ていたルイに
「着替えましたよ」
と苛々した声で呼びかける。
「あぁ、いいね」
「よくないっつーの」
「うーん、でもちょっと化粧が地味……いや素朴だな。ちょっと化粧を足そう」
そういって、椅子に座らされる。
(悪かったな、地味で!)
いそいそとメイク道具を持ってきたルイに化粧を施される。
「この国って男も化粧するの?」
「おかしなこと聞くね。男女問わずしたい奴はするさ」
「そう、いい国だね」
そう言うと、
「ちょっと喋らないで」
と言われ口紅を筆で塗られる。
その次はアイライナーを引かれ、ラメがざくざくのゴールドのアイシャドウを塗られる。
仕上げにチークも塗られた。頬にかかる筆の肌触りが心地よい。
りさは、日本にいた頃、デパートの一階で美容部員さんにメイクされたことを思い出した。
「ねぇ、この国って、お客さんに化粧品を売るために、化粧させてあげるような人はいるの?」
「化粧師のような人か? 貴族たちには専属でついてるが、庶民は自分で化粧するだけだぜ」
(そうか。良いことを聞いた。恋文屋が廃業になったら美容部員として働こう。)
りさはそう思った。
「さあ、できたぜ。我ながら良くできたな」
そう言って手鏡を渡すルイ。
鏡を見ると、そこにはいつもより華やかな自分がいた。
「すごいね、ルイ」
素直にそう褒めると、ルイは少し照れ臭そうにした。
「姉貴がいてさ、よく化粧してやって遊んでたんだ」
鼻をこすって笑うルイの姿は好感を持てる。
「さぁ、ショーの始まりだ!」
そう言って二人でテントを出る。
客席には多くの客がうごめいていたが、ケインは背が高く目立つのですぐに見つけることができた。
ケインにこの姿見られたくないなぁと思いながら、ケインの顔を恐る恐るみる。
ケインの耳が赤くなり、目線をきょろきょろさせて、きまり悪そうなかおをしていた。
やっぱりこの格好はちょっと……と思っていたところ、客席の男性陣がピューと口笛を吹いた。
ブーイングじゃなくて良かったと一瞬思った。
が、やっぱりやるんじゃなかったと思う。しかしショーは始まってしまったのだ。やりきるしかない。金貨ももらうことだし。
「さぁ皆さんご覧あれ!見るも珍しい美女とドラゴンだ!」
ルイが大きく声を出すと、客席はさらに歓声に沸く。
「こちらに見えます大きなドラゴンが、美女に炎を吐きだします!果たして美女の生死はいかに!」
(宣伝のためとはいえ、美女美女いうのやめてくれないかな。私はそこらにいる女だよ)
苦笑いをするりさに、いくよと口をパクパクさせて見せ、指笛を大きく鳴らす。
すると、りさはたちまち炎に包みこまれた。
(あったか~い。毛布にくるまっているみたい)
りさ本人は夢心地だったが、客席は「大丈夫か!?」とざわざわしていた。
炎が消え、無事なりさの姿を見た観客は大きな拍手をしてルイを称えた。
「すごいぞルイー!」
「お嬢ちゃん大丈夫かー?」
野次も飛ぶが、人生でこんなに大きな拍手をもらったことは、小さい頃習っていたピアノの発表会以来だったので、ちょっと嬉しいりさであった。
拍手に沸く会場だったが、突然ドラゴンが「ギャオン!」と大きな声を出した。
慌ててドラゴンの方を向くと、小さな子供がドラゴンの尻尾を踏みつけていた。
「こら!危ない!!」
ルイが大きな声を出すと少年は逃げてしまった。
しかし痛みに悶えるドラゴンは苦しげで、今にも暴れ出しそうだ。
刹那、ドラゴンがりさ目掛けて鋭い爪を向けた。
「リサ!!!」
大きな声が客席から聞こえる。ケインの声だ。
(し、死ぬ!!!!)
そう思って目をぎゅっと瞑るりさ。
しばらくしても痛みがないので恐る恐る目を開けると、目にルイの背中が飛び込んできた。
「ダメでしょ、乱暴しちゃ」
りさをかばいながらドラゴンに対峙するルイ。
その背中は大きく逞しくとても頼りがいのあるものだった。
ドラゴンは「グルル……」と声を出し、爪を引っ込めた。
すると、また客席からひときわ大きな歓声が響いた。
「いいぞー!」
「ルイ様~!!かっこいい~!!!」
男性と女性の声が入り乱れ、その日一番の盛り上がりを見せた。
***
「悪かったね、リサちゃん。怖い思いさせちゃって」
「いえ、それよりだまし討ちであんな衣装着せたことを謝ってください」
「いいじゃん、似合ってたよ」
「よくない!」
テントに戻り、化粧を落として普段の服装に着替えたりさは怒ってそう言った。
「はいはい、ごめんね?これ約束の金貨」
「どうも。で、ドラゴンとはいつ遊ばせてくれるんですか?」
「街はずれの森の入り口あたりに住んでるから、いつでもおいで」
「遠慮なく」
そう言ってルイと別れた。
テントの外で待っていてくれたケインと合流する。
ケインの顔を見て、りさはふにゃ、と力が抜けた。
「おいおい、どうしたリサ」
慌ててりさの体を支えるケイン。
「いえ、なんか、色々あったなって」
「そうだなあ」
夕陽を背に笑うケインは、いつもの五割増しでかっこいい。なにより安心する顔だ。
「もう大丈夫です。ありがとうございます」
そういって体を離し、ケインににこりと笑って見せる。
「やっぱりリサは、いつものが似合うよ」
へらっと笑うケインに、りさは顔が真っ赤になった。
「忘れてください! !あの衣装のことは!!!」
「はいはい、わかったよ。さ、暗くなる前に帰ろう」
そう言って二人は仲良く恋文屋に戻るのであった。
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