私ってどうすればいいんですかね
ヴェルニカ王国
ここは宇宙のどこかにある惑星の一つの国。
テクノロジーの発展はしておらず、剣と魔法が支配する、まるでゲームのような世界。
そこでは、貴族や国民を問わず文通、特に恋文を交わすことが流行っている。
元日本国民・永谷りさがそれをなぜ知っているかというと、少し話が長くなる。
***
仕事でヘロヘロになった永谷りさは、コンビニに入り缶チューハイと冷凍唐揚げを買った。
あぁ、いやだ。いつまで続くんだこんな生活。
ハゲ部長には嫌味を言われ、先輩には仕事を押し付けられ。
気づいたら歳は28になっていた。
あぁ、私の人生こんなはずじゃなかったのに。
今流行りの異世界転生ってやつをして、スローライフを送りたい……。
そんなアホみたいな考え事をしていたせいで、私は信号機が赤になっているのに気づかずトラックと衝突してしまった。
(あ、死んだ……)
そう思い、目をぎゅっとつむり、衝撃に備えた。
(死ぬときって、トラックにはねられても痛くないっていうか、眠るように意識が落ちるの……か…)
りさは意識を手放した。
***
次に目覚めると、ベッドの中にいた。
「お嬢ちゃん、目覚めたかい?」
昔の洋画の吹き替え声優さんのような、渋くてかっこいい声が意識をはっきりさせる。
「あの……ここは?」
「''恋文屋''サリューだよ。俺はここの店主」
恋文屋……とは……?
それにこの男の人、歳がちょっといってるようだけど、なんか、すごく、かっこいい。
「お嬢ちゃんが街はずれの森の入り口で倒れているのを見かけてね。放っておけなくて店まで運んだんだ」
ここは店の二階だよ、と付け足して言う。
辺りを見回してみると、ベッドのほかに小さな机と椅子、簡易的なキッチンが備われている部屋は、少し古いがよく手入れされていることが一目でわかった。
どうやら夢にまで見た異世界転移をしてしまったらしい。
そんな、もう実家で飼ってる愛犬と愛猫に会えないの!?
そんなのってあんまりだ!とめそめそしていたが、徐々に泣いている場合ではないと悟った。
衣食住、どうすんだ!?!?!?
まず頭によぎったのはそれだった。
見知らぬ異世界の土地で暮らしていくには冒険スキルがない。
そんなの学校でも会社でも教わらなかった。
顎ひげをたくわえた店主に「私ってどうすればいいんですかね」と情けなく尋ねる。
「お嬢ちゃん、字は書けるかい?」
「この国の文字がわからないのですが」
「これだよ、読めるか?」
そういってぺらりとした一枚の紙を渡される。
(読める……読めるぞ!!)
嬉しくなって紙とペンを店主に要求した。
脳内で思っていることがすらすらと日本語ではない、おそらくこの国の文字が書けるのだった!試しに
【君がため 惜しからざりし 命さへ 思ひぬるかな】
と高校時代に習った和歌を書くと、店主に驚かれた。
「こんな素晴らしい文章を書けるのかい!?字も綺麗だ!」
「いやぁ、それほどでも」
ボールペン字を習っていてよかった。
こんな形で役に立つなんて。
「お嬢ちゃん、見るからにうちの国の者じゃないと思うけど、どこから来たんだい?」
確かに、店主は彫りの深い顔をしていて同じ日本人には見えない。
「日本という国からやってきました」
「ニホン……聞いたことないな」
ふむ……と考え込む男の顔に惚れ惚れする。
うちの職場にもこんなイケオジいればいいのに。
あ、もう職場がないんだった。どうしよう。
そんなことをぐるぐる考えていたら、男が提案した。
「お嬢ちゃんさえ良ければ、うちで働かないか?ちょうど一人''書き手''が辞めたところなんだ」
「そのお誘いは大変嬉しいですが、書き手ってなんですか?」
「恋文を代行して書く者のことさ。お嬢ちゃんみたいに綺麗な文字をかける人は貴重だ。
この国では文通が盛んで、特に恋文を交わすのが一種のステイタスなんだ。
だが、全員が文字をかけるわけではないし、字が下手なやつはモテない。
そこで恋文代行屋ができたってわけだ」
店主にそう説明を受けた。
メールやチャットがなきゃそうかもな~昔の平安貴族みたいでかっこいいじゃん、なんて。
よし、決めた!
「店主さん、やります!ちなみにお給料はどれくらいですか!?」
「店主さんなんて堅苦しい、俺はケインだ。給料は基本給プラス出来高制な。たまにチップも弾んでもらえるいい仕事だ。よろしくな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんって齢でもないのでりさでお願いします、ケインさん」
「そうか。リサ、よろしくな」
こうして私は異世界で恋文代行業を行うことになったのであった。
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ケインの他にも、これからどんどん男性キャラが出てきますので、あなたの好みのキャラがでてくるかもしれませんね、なんて。
続きをどうぞお楽しみください。