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頼庵のエッセイ集

抱きしめた 【前編】  【冬の詩企画参加作品】

作者: 藤谷 K介(武 頼庵)

この作品は以前、志茂塚ゆり様主催で行われた「冬の詩企画」参加作品です。

ちょっと書き足したりしたもの。


えぇ~と、家庭的なものが一段落しましたので前後編にしました。その前編です。

後編は完全書き下ろしです。

その日は突然訪れた――。



それはもう13年程前の事。


3月17日午後23:28

 一本の電話が仕事中の自分の机で鳴り響いていた。現場に出ていた自分はその電話を取れなかった。


同日23:35

 電話を取った上司より社内放送にて呼び出される。急いで事務所へと向かう。そして自分の机にもどったその時まで保留のままの電話。


 電話口に出た瞬間に事務所内部にまで響く大声が聞こえる。

「あんたやっと捕まった!! ちょっと早く病院に来て!! 上司の人には許可貰ってあるから!! 今よ!! すぐに来なさい!!」


 俺は自分の言葉を言えなかった。通話は姉のその言葉だけを最後に切れていた。この時姉の言っている病院とは『母が入院している病院』の意だ。


 呼び出されたことにも納得できなかった。どうしてこの時間になのだろうと、頭の中で色々な思いが駆け巡った。この電話の7時間前に俺は行ってきて、母親と共に一緒に夕飯を食べてきた。


だから呼び出されるなんて思ってなかったのだ。


 そのまま呆けていると上司から声をかけられて気を取り戻し、慌てて上着だけを着込んで会社を出て行く。急いでいるせいで上手くエンジンキーが回せない――焦る。焦れば焦る程回らない。




同日23:46

ようやく病院へ向けて車を走らせ始める。会社の駐車場は制限速度10kmなのだが、そんなの気にしちゃいなかった。でも心で急いで車は冷静に運転しながら向かい始める。


――なんだ? なにがあった? 母ちゃんか?

頭の中はぐちゃぐちゃだ。考えることは纏まらないし、心臓は高鳴っている。




3月18日 00:08


病院に着いた。

車の止める白線など気にしないで、ドアを投げ捨てるように開け閉めし病室へと急ぐ。




そこには――。


 姉弟が大好きだった、何も話さない姿の母ちゃんが横になっていた……。


 周りでは看護師さんが忙しそうに動き回っている。それまでついていた生命維持装置を外し横になったままの母ちゃんに新しい病院着を着させようとしている。


「な……なんでもっと早く来れなったの!!」

「母ちゃんはあんたを待ってたのに!!」

「…………」

周りで泣き崩れている三姉妹。特に三女は母ちゃんが大好きだった。自分の母親として大人として尊敬、目標にしている人と言って憚らないほどに。だから言葉も発せず泣き崩れていた。

 そんな三姉妹を見ながら、親父は腕を組んでそっと見守っていた。


「か、母ちゃん……は?」

 親父に聞くと一言だけつぶやいた。

「誕生日……おめでとうって言ってくれって……な」


 それを聞いて時計を見た。既に到着から五分経っていた。

「いつ!? それっていつだよ!?」

「00:02分よ……あんたを待つって……言ってたんだけど」




 母ちゃんは17日の23時過ぎから容体が急変したらしい。俺が駆け付ける10分前までは意識もあって話も出来たらしいけど、着いた少し前にその言葉だけを残して逝った。


 約30年にもわたる腎不全との闘いを必死に戦い抜いて――




 そのあとは色々と続きなどが有って、全ての事が一通り病院で終わった時には時計は6時を指していた。




      その日が母ちゃんの命日になり、俺の三十数回目の誕生日だった。



会社へ連絡しなくちゃいけないし、葬儀の手続きもしなくちゃいけない。三姉妹は母ちゃんに付き添うと言っていたので、親父と俺で手続きをするために行動をおこした。



 俺は独り病院から出て泣いた。誰彼はばからず泣いた。

 母ちゃんは立派に戦って逝ったのだ……悲しむことは無い。

 痛みにも、辛さにも、もう耐えることは無いのだ。

それは知っている。知ってはいるが流れる涙は止められない。

 


 どうしても流れる涙を留める事が出来なかった……。




一通り泣いて、涙の後を拭い、連絡するべきところへ電話をしてから病室に戻る。俺が側に行ったで気づいた三姉妹が場所を開けてくれた。



「ありがとう母ちゃん……そんな時まで俺の誕生日気にしてくれて……」

そしてまた泣いた。




 これが、冬が終わりを告げる季節にあった出来事――

お読みいただいた皆様に感謝を!!


これは事実を基にしたもの。経験談です。

後編はその10年後の話になります。


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