②
「やあ、カトリーヌ。おはよう」
「おはよう、ジョシュア。今日も良い天気ね」
爽やかに挨拶をして私は朝食の席に着く。
テーブルを挟んで前の席にはジョシュア。
少し長めの金髪を寝癖でボサボサにしている。
青い瞳はまだ寝ぼけているみたいでぼっーと好物のフレンチトーストを見つめている。
嗚呼、なんて可愛いのだろうかっ!
母性本能をくすぐられるような感覚っ!
愛しくて堪らないっ!
これで昨夜のモヤモヤも吹っ切れた。
ありがとう、ジョシュア。
……ってこれじゃダメなんだった。
私はスパイだぞ。スパイ。
恋をしている暇なんかないーー、
「どうしたのカトリーヌ? 最近悩んでいるみたいだけど」
と、ポケポケとした寝ぼけ口調でジョシュアが私に聞いた。
「え、ああ。いえ、別に何でもないわ。ちょっと寝付きが悪いかな~ってだけよ」
「そう。枕変えてみたら?」
「そ、そうねっ! 今度メイドのサラさんに相談してみるわ」
「うん。そうするといいよ。サラは寝具選びのセンスがいいからね」
毎朝ジョシュアの顔を見て心を癒し、しかし、同時に心の重荷を増やしていく日々。
いつかバレるのではないだろうか、これ?
自国と連絡を取り合っている手紙や私のスパイ活動の痕跡はほぼ完璧なまでにコントロールできているけれど、仮に『君、スパイだよね?』と突然ジョシュアに問い詰められたら私は嘘を突き通せるだろうか。
はあ、とため息を吐く。
せっかくジョシュアの顔を見て元気出したのにな。
「またため息吐いた」
と、気がつけばジョシュアが私の隣に立っていた。
朝食も食べ終えている。
エネルギーを摂取して力がついたらしく、お寝ぼけモードも解けて本来の凛々しい好青年モードだ。
ギャップ萌え。
「元気になーれ」
ちゅ、とジョシュアが私の唇にフレンチキス。
なっ!
きゅんっ!
初めて出会った頃はおどおどしていたくせに、今はこんなに立派な王子様になっちゃって。
スパイ女はきゅんきゅんですよ。
「ありがとう、ジョシュア」
「ふふ。今日は会議があるから遅くなりそうだ」
「あら、そうなの」
「ごめんね。夜は先に寝てていいから」
「わかったわ。いってらっしゃい」
「うん。行ってくる」
ハグをして私はジョシュアを見送る。
これではまるで夫婦だ。
一応婚約はしているから何もおかしくはないのだけれど。
……私がスパイであるという点を除いて。
「どうしたものかしらね……」
残された私は頭を抱えた。
いかん。何も考えられない。
さっきのキスばかり頭に浮かぶ。
「あー、ダメダメ」
頭をぶんぶんと振って忘れようとする。
忘れろっ!
「とにかく、朝はやっぱり腹ごしらえからよね」
今日のことはお腹を満たしてからじっくり考えるとしよう。