二つの人格
俺の名前は水石啓介。写真部に所属している高校1年生だ。
「おい、幸」
「は、はい」
この女は、花崎幸という女だ。
幸は、俺と同じ高校1年生で、いつも前髪がちょっと眼にかかっている。見た目はかなりの地味女だ。話しかけても弱そうな声しか出さない。
幸は、俺と同じ写真部の部員でそして、同じクラスメイトでもある。
「今日の部活どうすんだ?」
「そ、その、今日も部室でやるよ」
「おう、わかった」
話し方が何か自信がない話し方だし、話している間もずっと下を向きながら話している。
「ちょ、ちょっと待ってください。今日も遅くなると思うので、了解しといてください」
「それだけか。わかった。俺は行くぞ」
「は、はい」
ただ、俺に対してふつう話せるのはこいつぐらいしかいない。なぜなら・・・
「ねぇ、幸ちゃんどうしてあいつと話せるの?」
「あいつ元ヤンじゃん。何されるか分からないよ」
そう俺は元ヤンなのだ。中学生まで、つまり去年までヤンキーをやっていたのだ。その名残で頬の所に一線の傷が入っている。
そのため、俺に話しかける奴なんかはほとんどいない。特に女子は。しかし、女子の中で一人だけちゃんと話してくれる人がいる。それは・・・
「水石君は、そんな悪い人じゃないよ。話したら意外と普通だし。な、何も知らないのに、そ、そういうこと言うのやめなよ」
幸だけだ。
幸だけは俺と普通に話してくれる。俺はそんな彼女が好きだ。
「でも、ねー」
「うん。やっぱり元ヤンっていうのがね。もしかしたら幸ちゃんが見る目がないだけじゃない?」
正直俺のこと言われるのはどうでもいいのだが、幸の悪口いるのは腹が立つ。
「おい。誰か俺のこと呼んだか?」
「い、いえ・・・」
イラつきがオーラとして出ていたのか、幸に話しかけていた二人の女子は俺の圧を前にさっきまでの俺に対する悪口を言っていた勢いがなくなっていた。
「そ、それじゃ幸ちゃん。また後で」
「う、うん」
二人の女子は幸、いや俺から逃げるように教室から出ていった。
「幸すまん。俺のせいで」
「う、ううん、大丈夫。み、水石君の方が大丈夫?」
俺のことを心配してくれている。優しい。好きだ。
「ああ、俺は大丈夫だ。言われ慣れているからな。むしろ、普通に話せているお前の方がすごいと思うぞ」
元ヤンなんかと関わることなんて普通は避けたいはずなのに、話ができる方がすごいのだ。
「そ、そんなことないよ。水石君は話しやすいし、面白いから。話していて楽しいよ」
話しやすいなんて初めて言われた。
元ヤンだからと言われて避けられていた俺からするとジーンとくる言葉だった。
「キーンコーンカーンコーン」
「あ、チャイムが鳴った。じゃあ、この授業が終わったら部活で」
「う、うん。また」
幸は俺に対して手を振った。
その時に見える幸の優しい笑顔がとてつもなく可愛い。好きだ。
授業が終わった後、俺は部室へと向かった。
俺は、部室に着き扉を勢いよく開ける。
「幸は・・・まだ来てないか」
ちょっとがっかりした。
「まぁ、良いか。すぐ会えるし。二人だけだし」
我が写真部は俺と幸以外にも3人の部員がいるが、来たことがない。ただ、4人はいないと部活として成り立たないので籍だけは置いてもらっている。
教室の窓から人が歩いている影が見えた。
その影はドアの前で止まり、ドアが開かれる。
「あっ、水石君。もう来てたんだ。ご、ごめんね」
「おう、大丈夫。俺もさっき来たから」
「ちょっと待ってて。い、今から準備するから」
幸は、上に着ていたブレザーを脱ぎ、髪の毛をまとめる。
多分、前髪がかかっていない幸を見れるのはここぐらいじゃないだろうか。
そして、あまり知られていないが実はめちゃくちゃかわいい。そこら辺の女子よりもかわいい。
「それじゃ、やろうか!」
「おう、分かった」
俺は、幸の声掛けと同時に幸に撮られる準備をする。
イスに座り、机に肘をつき窓の外を見上げる。
そう、俺は幸のモデルとしてこの写真部にいる。