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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第九幕「焦燥と躍進と」
99/128

「act13 生きて帰る理由」

「…………」

「で、じいちゃん。話ってなんだよ」


 正直に言えば昔から少しだけじいちゃんが苦手だった。寡黙で意地っ張り、悪い人じゃないのも、むしろ良い人だというのもわかっているのだが、それ以上に何を考えているのかわからないところがあるからだ。今も部屋に入って数分じっと孫の姿を見つめるだけで口を開こうともしない。


「……そろそろか」

「え、何が?」


 ようやく口を開いたかと思ったのにタイミングが良いのか悪いのか、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。そろそろ、と言っていたのはきっとこのことだろう。


「入りますよ、おじいさま?」


 どきん、と心臓が跳ねる音が聞こえた。おそらくどんなに衰えてもこの声を聞き間違えることは絶対にありえない人物の声。しかしなんでここにいるのか。城内も結界を張っているとはいえ必ずしも安全とは言い切れないここに。何故彼女が。何故、何故——


「っ、さっさと返事をなさいなクソジジイ!!」

「あっ——」


 返事を待たずして扉は勢いよく開かれる。姿を現したのは金髪ロング、鮮やかなストレートでおそらくガブリエラより手のひら一個分ほど大きい長身の綺麗な女性。守るべき世界の最たるものである幼馴染の、


「——アイカ?」

「しばらく振りね、あなた」


 すっかりお腹が大きくなっている想い人のアイカだった。そんなお腹で歩き回っていいのか、とか元気だったか、とか色々聞きたいことはあるが、そんなことよりなんでこんなとこにいるのか。それが一番不思議だ。


「どうしてここにいるのか、って聞きたそうな顔ね。妻である私が夫であるあなたに会うのに理由があるのかしら? もしかして浮気でもしていて罪悪感でも持っているとか? 別に浮気自体は咎めませんよ。最終的に私の傍にいればそれでよいと前から言っているでしょうに」

「してねぇよ!」

「あら、誠実。まあだからこそあなたを選んだのですけれど」


 くすりと笑うその姿にどきっとさせられる。アイカとは幼い頃からずっと一緒にいるがこのなんとも言えない妖艶さはいつまで経っても慣れることができない。そんなとこに惚れたとも言うが。


「でも本当にお……俺様に会うためだけにここに来たのか? まだあと一週間あるとはいっても国に入るまで厄災の子に遭遇する可能性だってあっただろ!?」

「俺様だなんて強がっちゃって。私はね、あなた。本当に、会いたかっただけなの」

「……まあそれはわかったからそんな顔をしないでくれ。俺様も落ち込んじまう」


 表ではこう冷静に接しているつもりだが、内心では嬉しさが勝ってしまって心が躍っている。本当は危険な場所に来ていることを咎めなければいけない立場にあるのに、こうも単純なことで喜んでしまうとはいくら戦いを経験してもまだまだ子供を抜けられていない証拠だ。そんな様子を読み取ってかアイカはまたもくすりと笑う。


「今日は激励に来ました。私達の姿を見れば死ねない理由が増えたのでは?」


 ——それは本当だ。絶対生き残ると言っても心のどこかで実力不足は自分の命をベットしてでもという気持ちが全く無かったか、と問われれば答えはイエスとは言えない。そうでもしないと勝てない相手だというのをここ一ヶ月で嫌というほど思い知らされたからだ。


 だが改めて愛する人の顔を見て、それは違うとはっきりと心で理解した。ウリエルも言っていたように自分達の勝利条件はなんとしてもちゃんと生きて帰ってくること。自分のためにも、愛する人のためにも。


「ふっ、顔つきが変わったな。キールよ」

「ありがとう、じいちゃん。一瞬ぶん殴ろうと思ったけど、おかげで覚悟が決まった」

「ダメよ、あなた。おじいちゃん殴ったらもう逝っちゃうから」

「はっはっは。流石にそげな脆くはねぇよ。さあ、目的は達したわけで、早く帰って安静にせんとなぁ」

「アイカは特に気を付けてな」

「はい。改めて、あなたの帰り待ってますから、絶対帰ってきてくださいね」


 互いに拳を突き合わせると満足したようにアイカとアプソバは部屋から去っていく。やがて足音が聞こえなくなったところで、どっと息を吐いてベッドに倒れる。見慣れた顔とはいえ半年ぶりに会うとこんなにも緊張するものなのだろうか。どこかよそよそしくなかっただろうか。素っ気なかったり距離があったりとかしていないだろうか。……そして嫌われたりはしていないだろうか。


 ——いいや、無いな。あの顔は。


『あの方がマスターの奥様ですか』

「うおっ、急に喋るなよ。びっくりしたぁ……」


 鼻を擦って一人、恥ずかしそうに笑っていると右腕から無機質な女性らしき音声が聞こえてくる。


『アイカと呼ばれて危うく返事しそうになったあなたのパートナーことアイカです。ぴーすぴーす』

「お前のことアイカって呼んでるのバレたらすっごい変な空気になるからナイスだ! そしてあなたって言うのはやめてくれないかなぁ!?」


『はぁい、あ・な・た♡』

「テメェぜっっっってぇ心あんだろ!!!! ……はあ。お前のことも信頼してんだぜ。たかだか数ヶ月の付き合いだけどさ。一緒に、生きて帰ろうな」


『……善処します』

「善処ってなんだよ、善処って。こういう時は生きて帰りましょう、だろ?」


『私は希望的観測で物事を語りませんので。そうですね、今のマスターであれば《《生還率九十八パーセント》》。まあ、ボチボチでしょう』

「っっっ……! あ、アイカぁぁぁぁぁぁ! お前って本当に不器用だよなぁ!」


『なんですか、気持ちの悪い』

「絶対一緒に生き残ろうな!」

『だから、善処すると言っているでしょうに!』


 モチベーションは双方共に抜群。これなら何の憂いもなく厄災戦に挑めるというものだ。


 さあ、心構えは出来た。その覚悟で以て厄災を払え!


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