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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第九幕「焦燥と躍進と」
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「act10 乙女天使達の聖戦(?)」

「————ってことがありまして……」

「ふーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん? それでヒトのイナイ間に恋仲になった、ってワケですかーーーーーーーーーー」

「はい……。何も言い訳しようがありません……」


 ガイナとのことを話すついでにこれまで起こったことを話す。流石に恥ずかしかったので彼とのことは多少誤魔化して話したが、もしかしたらバレてしまっているかもしれない。途中ガイナと全く関係のない話をしたので興味無さそうに聞いていたツヴァイスだったが、兄のことを話すと少しだけ悲しそうな顔をしていた。


 一通り流れを話して、彼と恋仲になったところまでを聞いた彼女の視線はやや痛い。それはそうだ。いつからかは知らないが、前から好きで、しかも自分が旅に出た理由だった男があちらからすれば取られたも同然。自分だったら感情を露わにして相手を襲っているかもしれない。


 しかしツヴァイスの反応は意外なもので、


「まァ、それがナンダトいうものですか」


 淡白。あっさりとしたもので安心した反面、それが恐ろしかった。世の中には怒りを通り越して逆に冷静になる、なんてこともあるのだ。これからの問答、一個でも間違えればここで戦いが始まっても不思議ではない。


 ごくり、と唾を飲む。生暖かく、不快な粘度の唾だったがそんなことは気にならないほどに、かつてないほど緊張をしている。まるで相手方の親に会って「娘さんをください」なんて言った時かのような空気。いや、言ったことはないけれど大体こんな感じじゃない?


「ふふっ」


 ふ、不敵な笑みが逆に怖い……。


「さっき言ったトオリ、ソレがナンダトいうのでスカ。いいですか? 恋仲ナンテ何の保証もナイ。《《アタシがカレを寝取ればいいだけの話デスよね?》》」

「————あァン?」


 しまった。あまりにも予想外すぎて思わず喧嘩腰になってしまっていた。でも仕方ないよねェ!? だって目の前で堂々と寝取り宣言だよ!? 確かにワタシの蒔いた種かもしれないけれど……。それでも倫理的にそれはどうなのさ!


「ふふっ、倫理観、ナンテ甘いこと言ってラレル立場ですかぁ?」


 《《あくま》》で余裕そうに甘くそう嘯く彼女。しかしその瞳には確かな意志が籠っている。間違いない、アレは本気(ガチ)でヤる目だ。


「だってこのセカイには《《ホウリツ》》もナイ。《《人の善性、倫理観でのみ支えられテルセカイですよ》》。極論、殺人だって許サレルのデスから寝取りくらいワケないでしょう?」


 ——今までは。


 今まではカレの友達、人畜無害な一般人だと思って遠慮していた部分があったかもしれない。


——寝取り云々は最悪ワタシとカノジョ、そしてカレの問題だからいいとして……。


 確かに魔法協会の定めた魔法使いとしてやっていくための規則(ルール)はあるが、基本的に人の善性に依るところが大きい。それを極論とはいえ殺人まで許容する発言はとてもじゃないが許せるものではない。本来悪魔は文字通り悪い魔という意味ではなくただの当て字だった説が濃厚であり、その分類も妖精(フェアリー)子鬼(ゴブリン)と同じ魔族だが、ツヴァイスに憑いている悪魔は間違いなく文字通り悪魔。憑いた者の心も身体も犯す邪悪だ。


「——その発言は見逃せない。今すぐに撤回しなさい」

「ふふっ。——撤回しなケレバ、ドウシマスか?」


 ツヴァイスから殺気が漏れだす。その圧力(プレッシャー)に飲まれそうになるがそんなものに負けるわけにはいかない。これはもうガイナが取られる取られないという次元の話ではなく、この世界を守るために。そして彼女の手を汚さないためにも……。


「今、ここでアナタを処断する」

「——大きくデマシタね。タナトス、いいえ対厄災獣戦の戦力が減ってシマッテもイイのですかぁ?」

「あの程度の厄災、ワタシ達だけで充分よ。とはいえワタシも悪魔じゃない。今すぐその悪魔と契約を解除しなさい。そうすれば——」

「違う、違いマスよ。前提カラ間違っテル」


 ……何を間違っているというのだろうか。話を逸らしたいだけか、それとも本当に何か勘違いをしているのか。とにかく彼女について情報が無さすぎる。


 ——結果を急いでも悪い方向に転がるだけ、かしらね。


「——いいわ、何を勘違いしているのか聞こうじゃない」


 ツヴァイスが不敵に笑う。段々その思わせぶりな仕草にイライラしてきたが、何事も落ち着いて対処しようと決めたばかりではないか。思えば口論に発展してしまったのもこちらが短気だったせいもある気がする……。つくづく短気は損だと思い知らされる。


「《《ソモそもアタシが契約してイルのは悪魔ではなインです》》」

「——なんて?」


 ガイナが見ていたらおかしな表情をしてる、って腹を抱えて笑っていたところだろう。それほどに驚きの発言だったのだ。ツヴァイスという存在の前提が覆る瞬間、何もかもの思考が止まってしまっていた。


「イエ、正確には悪魔デモある、ですかね? コノコは《《元天使》》、だからガブリエラさんが考えてるような邪悪ではないですから心配しないでくださいっ。アレはただ言ってみただけなので! ごめんなさい、ここまで怒るとは思ってなかったから……。反省ですね……」

「————」


 情報量が多すぎて言葉が出ない。えっと、ツヴァイスが契約しているのは本当は悪魔じゃなくって天使だった何か。それを便宜上悪魔と呼んでいるだけなのだろうか? それにあの発言は嘘のように聞こえなかったが、この発言も嘘であるようには聞こえない。……わからん。よく考えれば大好きな人と旅をするために命すら投げ出すような《《善性》》の持ち主があんなこと本気で言うわけがないか……。


 無理矢理自分を納得させると、


「ワタシもまあ喧嘩売って悪かったわよ。今日はもう遅いしそろそろ寝ましょうか」

「ふふ、アタシこそ挑発するヨウことを言ってごめんナサい。ガイナちゃんのコト、ホンキだとわかっテヨかったです。シッカリ頼みますネっ」


 そう言われるとむず痒いものがあったが、照れ隠しついでにおやすみ、と言って足早に部屋を出る。明日からは周辺の厄災の子狩り、実践を積みながら特訓するしかない。せめてガイナが起きた時笑われないように、頑張らないと……!


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