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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第九幕「焦燥と躍進と」
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「act09 恋バナしよっ!」

「……なんかフツウにいいヒトでしタね」

「まあ癖が強いだけね。それで話の続きだけれど、アナタその悪魔とどこで知り合ったわけ? 普通に出会えるレベルの格じゃないわよソイツ」


 そう、知りうる限り熾天使より格上の悪魔なんていないのだ。それと知り合って、かつ契約まで出来てる時点でおかしいのにそれと交われているなんて、常識ではありえない。いや、熾天使と半々で混じっているような自分が言うのもおかしな話だが。


 その疑問にツヴァイスは笑って答えてくれた。


「まずアタシの家って代々アクマと縁ガある家系ナンです。《《タブン、お姉ちゃんも何かシラのアクマを従えてるハズデスよ》》」

「——なんですって? それは、初耳ね」


 ファインとは八年前にあったある出来事で知り合って以来の腐れ縁だが、そんな悪魔だのの姿なんて見たことがない。いやそれ以前に今ではあまり見られないが、出会った頃は悪魔や天使といった存在を嫌っていたと記憶している。


 と考えたところでまたもや扉が叩かれる。やれやれ、今日は来客が多い日らしい。


 入ってきたのは金の髪に碧眼、身長はツヴァイスより頭一個近く小さく下手をすれば十歳くらいの子供と混じってもわからない容姿の持ち主であるコメッタ・ディセイヴァーだった。その幼い容姿に不釣り合いな鎧を纏い、腰にはざっと数えただけでも十二もの短剣を提げている。歩くたびにカチャリと音を立て、やがて部屋の中心に立つと飛び跳ねながら半回転、手を後ろで結び前かがみの姿勢で満面の笑みを浮かべる。


 第一師団は秩序を守る使命感に燃えている者が、第四師団は技術を磨く者が、第五師団は信神深き者が集められるが、第二師団はその中でも最も戦闘に優れた集団である。


「ははっ、なんだかお邪魔しちゃったみたいだねー」

「ううん、ダイジョウブですよ。コメッタさんもガイナちゃんに用事でキタんです?」

「うーん、他の人はどーか知らないけどー、私はきょーみないかなー。そ・れ・よ・り! 同じ年頃の女の子とお話がしたくてここに来たんだよっ!」

「えっと、もしかしてワタシ達?」

「そそっ。私ねー、私達にとってとーーーーーーーっても大事な話をしに来たんだよー!」


 話し方がとても緩いせいでなんとなくあほっぽく、とても重要な話をこれからしようと言う雰囲気ではないが、その若さで第二師団長に任命されるほどの実力の持ち主がわざわざ自分で足を運び、しかも二人を名指しで指名しているのだ。とてつもなく大事な話に違いないと身構える。


「ズバリ聞くけどー、『恋』ってしたことある?」


 …………身構えた自分が馬鹿だった。


「恋、ってあの恋です?」

「そうー! 私ってば昔から魔法と剣の修行ばっかりでそーゆーセイシュン? ってゆーの残念だけど知らないんだー。だから同年代の子はどーなのかなーって思ったの! 戦う理由の半分もそれでー、セイシュンをする前に死ねるかー! ってね♡」


 このコメッタ・ディセイヴァーという女、想像していたより数億倍もふるふわであまあまな頭脳の持ち主だった! 戦う理由なんて人それぞれだとは思っていたが、こんな理由で命を懸けられるなんてどうかしている。もしかしたらコメッタがあの中で一番頭のネジがぶっ飛んでいるかもしれないと思い始めているところだ。


「恋、かー。アタシもそんなニ多く知ってルワけじゃないケド……。——うん、その人のためになら自分の人生を投げうってもいい、って思える気持ちのことかな?」


 ツヴァイスの口から出た言葉はいつものように淀んだ言葉ではなく、その瞬間だけは綺麗に透き通った、人間としてのツヴァイスから出た言葉だった。ツヴァイスは完全に消えているわけではないことを知れて良かったと思う反面、どうしようもない罪悪感が胸の奥に溢れる。


 だって彼女が彼のことを想っていることくらい最初から気付いていたのに、彼女のいない時に彼とそういう関係になっているなんてあまりにも卑怯だ。


「ワタシは……。ワタシには恋を語る資格なんてないわ」


 えー、つまんなーい、と口を尖らせているがやがて一人で納得したかのように頷くと笑顔でこう言った。


「《《じゃあまーちゃんは少なくともあの集まりの中では一番、それもとびっきり異常だってことになるよね》》」


 まーちゃん、とはマリンからとった適当な呼び名だろうが、それ以上に聞き逃せない言葉があった。


「ワタシが、異常……?」


 勿論まともだとは思っていないが一番異常だとはどういう意味なのだろう。怒りなどではなく単純にそう疑問に思った。


「だって人が戦う理由ってとどのつまりー、全部恋とか愛とかの感情にまとまるじゃん? ぐー君は王に、すたー君は研究に、ぷー君は妻に、はう君は神様に、えっ君は戦う自分に、ふぁーさんは家族に、いもーとちゃんはさっきの通り、私は恋する私に恋して、それぞれがそれぞれの恋を原動力に戦ってる。でもまーちゃんにはそれがない。ってことは王様と同じくらい歪で狂った存在だって証左じゃない? ただ戦わなければいけない、なんて意味不明で漠然とした無責任な心持ちで戦ってたら多分、いや絶対あなたは道を踏み外す」

「————」


 今なら。今ならアトランティスのウリアの家で何故自分に怒ったのか、それが理解できてしまった。自分の気持ちも知らないで無責任だなんて決めつけられれば怒るに決まっている。


「ワタシは——」


 これは自分の気持ちに整理をつけるのには良い機会だ。それに——


 ——言われっぱなしってんじゃあワタシの気が収まらないわ!!


「ワタシは! ワタシのために、ワタシと一緒に居たいと言ってくれた人のために戦う! いつ目を覚ますかなんてわからないけれど、恋だとか愛だとかはっきりどういうものか理解できてるわけじゃないけれど……。カレが好き、だからワタシはそれだけで戦える。それを無責任だとか異常だとか言われる筋合いは、ねえええええええッッッッ!」


 ——言ってしまった。


 周りの反応が怖く俯いていたが、くすりと笑う声が聞こえて思わず顔を上げる。


「なーんだ、ちゃんと持ってるじゃん」


 一瞬馬鹿にされたのかと思っていたが、それとは逆、今までより優しい顔で口を押えて笑っていた。


「心配して損したー。私が聞きたかったのは恋を知ってるかどーかだけだったで、対象の話なんてしてないんだけどなー。ふふっ、《《あとは頑張ってねー》》」


 それだけを言うと上機嫌にスキップをしながら部屋を去っていく。結局彼女は何をしたかったのだろうか。いや、それ以上に今《《あとは頑張って》》と言ったか? 何を頑張ると——


 と思ったところでもう一人この部屋には乙女がいたのを忘れていた。その乙女はこれ以上にないにこやかな笑顔で座るように促す。


「なんとなくわかってましたけど、やっぱりそういう関係になってたんですね」


 満面の笑みが逆に怖い。人は笑顔でこうも気圧すことができるのだと初めて知った。


「何があったのか説明、勿論してくれますよね? ガ・ブ・リ・エ・ラ・さ・ん♪」


 ——あぁ、助けてお兄様。ワタシは今人生で一番命の危機を実感しています……。


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