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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第九幕「焦燥と躍進と」
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「act04 焦燥と」

 ガイナが目を覚まして再び眠りについてからもう二週間が過ぎようとしていた。呼吸はしているので死んでいるわけでもないがこれはあまりにもおかしい。タナトスとの戦いもあと二か月きったというのにぴくりとも動かないのは非常にまずい。いやそれ以上に彼のことが心配で何にも身が入らない。


「ガブリエラさんよぉ。ガイナが心配なのはわかるけど食事くらいちゃんと摂ってくれよ。お前さんまで倒れちまったら俺様一人なんて、とてもじゃねえが荷が重すぎるぜ」

「……そうね。ワタシが倒れちゃ元も子もないわ。でも合計で二週間も寝っぱなしなんて異常よ? ワタシの魔法だってかけてもすぐ砕けちゃうし……」


 氷結治療は患部の傷が治った時点で自動で砕けるようになっている。つまりガイナの外傷は全て完璧に治ってしまっているということだ。他に考えられる可能性があるとすれば……。


「厄災の子の攻撃による毒、あるいはそれに類する呪いのような何か、か」


 びくりと肩を跳ねさせる。この聞き覚えのあるゆったりとした声の主は、


「……アレイスター・クロウリー。アナタも来ていたのね」

「あぁ、私はこの厄災戦の総合的な指揮を任されているからな。しかし君らしくもないな。こんなもの、毒でも呪いでもなんでもない」

「アナタはどういう状況かわかっているっていうの?」

「なんとなくだがね。そこの、自律型思考兼戦闘補助機なら分析できるはずだ」

『そのダサい名前で呼ぶのはやめてください。魔術展開式自律兵装『アイカ』と改名してますので』

「はぁっ!? 私が付けた渾身の命名をダサいと捨てたのかお前は! 流石の私の動揺が隠せんとよ!」


 あのアレイスターがここまで動揺するということは相当自信のある名前だったのだろうか。それをダサいの一言で切り捨てられれば確かに落ち込まないでもない。彼には少しだけ同情するが、そんなことよりも聞き逃せない言葉があった。


「今アイカならわかるって言ったわよね? ホントにわかるの?」


 返ってきたのは肯定。その返事にかなり苛立ってしまったのは何でもっと早く話さなかったのかというのと、ガイナの状態を自分より他の存在の方が理解しているという嫉妬。早く目を覚ましてほしい焦燥感で自分が冷静でいられなくなるのがわかった。


『といっても私も詳しく理解しているわけではありませんが。むしろ契約が繋がっているガブリエラ様の方が理解しているものかと思っていましたが……。なんてことはない、熾天使いもただの乙女だったということですね』

「————ナンですッテ?」


 刹那、部屋中を決して自然現象ではありえないほどの冷気が満たす。その言葉は我を忘れさせるには充分すぎる衝撃だ。


 ——このバカ、ワタシに喧嘩を売っているのかしら?


 冷息を吐くと、ごつんと頭を殴られる。殴った主はアレイスター。少しだけいらっとしはしたが、おかげで頭が冷えた。アイカに当たっても仕方がないし、実際自分が理解できていないのも事実だ。氷の魔法使いであるというのに戦いのときでも、日常でも冷静でいられる時が少ないような気がする。お兄様は心を常に燃やし続けろと言ってはいたが、それとこれとは多分別の意味だろう。精神性の未熟はいつまで経っても治らない。嫌でも自分がまだ子供なのだと思い知らされるようだった。


「お前も煽るなよ、アイカ。俺様まで死ぬかと思ったぜ」

「ワタシも悪かったわ。……で、話を戻すけれど、さっきのはどういう意味かしら?」

『詳しく理解しているわけではない、というのは先程と同じです。ただ、ガイナ様の身体は動いていないのに、意識が活動している。そんな感覚を微かに感じるのです。ならば私には感じられないくらいでも、魔力が動いているのではないですか?』


 言われて即座に胸の契約印に触れると、確かに微かだが魔力反応を感じる。なんでこんなことに気付かなかったのか今までの自分を殴り倒してやりたい気分でいっぱいだった。そしてもう少し集中しているともっと奥の方に何かの存在を感じる。これは、何かと戦ってる……?


「深みに潜るのはいいが、そろそろこちらの用も聞いてもらいたいな」

「……そういえばそれがアナタがここに来た本題だったわね。それで何の用かしら?」

「王の間に行くぞ。魔法協会お抱えの師団長と私と君達を集めろと、この国の王であるヴィクテム・シュメーロ様が仰せだ」


 どの段階の話をするのかはわからないが、大まかな理由は当然わかっている。


 ——厄災戦。それがもう目の前に迫っているのよ。ガイナ、アナタは今何をしているの?




 少女は小さく呟くと、アレイスターらと共に部屋を後にした。


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