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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第三幕「狂犬は夜に吠える」
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「act02 毒」

「建物内部も黒い霧があって視界がかなり悪いわね」

「視界が悪いっていうのもそうなんですけど、この鼻を刺すような臭いはなんなんでしょうか。何か腐ったような臭いが……」

「血の臭いも強くなった、人の気配もない。何か獣の気配すらしないぞ」

「……いや、いたみてぇだぜ」

 そう言ってエドガーが指さした先にあったのは《《人間の腕のようなもの》》。何かに喰いちぎられたかのような惨状。

 施設内をしばらく見て回ったが何かいる様子もなく、また何の研究をしていたのかさえ分からなかった。

 そこから施設を出て山に入ったところにもあった《《肉塊》》はもはや元が何だったのかわからないほどぐちゃぐちゃで、ガブリエラも思わず口を押えた。

 ツヴァイスには見せないようにそれを避けて歩みを進める。

「……そういえばガブリエラさんって本名ではないんですよね。ミハエルさんも。熾天使いになる前に名を捨てる、とは聞いたことがあるのですが」

 熾天使いは互いに目を合わせ少し笑ってみせる。こんな状況だからこそ雑談で雰囲気を和らげようというツヴァイスなりの配慮を受け取った二人は警戒は怠らず、しかし肩の力を抜いて歩みを進める。

「そうね、熾天使いは人としての性質を一部捨て、そこに天使の性質、いわば天性を付与するわけだからね」

「ちなみにオレはもう数十年前のことなもんで旧名なんて忘れちまったがな」

「アナタは無頓着すぎるのよ。ワタシはブリテンウィッカ家の長女だから忘れることなんてないわね」

 名前を聞いて驚いたのはツヴァイス。信じられないものでも見たかのような反応だった。

「ブリテンウィッカといえば代々魔法使いの超一流一家で噂によると熾天使いを歴代で二桁輩出しているとか!」

「はは、二桁は流石に無いわね。ワタシと兄さん含めて歴代五人ってところかしら」

「お兄さんですか! お兄さんはちなみにどの位に!」

「……ウリエルよ、火の魔法に特化した熾天使いね」

 若者の純粋な興味憧れに押されて渋々そう答えたガブリエラはどこか少し恥ずかしそうであった。

「教員時代を思い出すか?」

「次に口を開いたら殺す」

 エドガーの口から教員時代、という単語を聞いてそれも聞こうとしていたツヴァイスは氷のような彼女の放つ空気に呼吸も忘れそうになってしまった。

「……話の途中にすまない。さっきからただ歩いてるだけなのに妙に息苦しくないか?」

 そう? と強がったガブリエラ、エドガーも呼吸が荒く、ガイナは明らかに足取りが重く、話すのに夢中で気付いていなかったのかツヴァイスなど顔中汗だらけで今にも倒れそうなほど顔色が悪い。

 皆の異変に誰も気付けないほど何故かそれぞれ消耗していたのだ。

 一行は我慢ならずそこらにあった岩のようなモノに腰を落ち着かせ一旦休憩をする。

 ——その岩のようなモノが妙に柔らかく赤黒い液体で濡れていたことに気付く余裕など既に無くなっていた。

「この黒い霧自体、何か毒性のあるモノだったり、ね……」

 重くなった口を最初に開いたのはガブリエラ。その当たり前のように思えることをわざわざ口に出さなければならないくらい疲弊していたのだ。

「その線はある、かもな……。ならオレの出番だ、自然調律(ゴッドハンド)!」

 周りの環境に適応した属性を得ることが出来る魔法。この霧がなんであれ、エドガーはこれに適応できるようになる

「つまりそれをオレの中で解析し、その情報を元に薬の作製ができる!」

とはいえリスクも勿論ある。これを身体に取り込むということ、この黒い霧がもし本当に毒性のあるモノだとすれば、だ。

 毒とは身体が受け付けないから毒と呼ぶのだ。それを受け入れれば当然――

「ごぶっ……!」

 吐血。小さな呻き声をあげながら赤黒の血糊を口から、鼻から、眼から、耳から吐き出す。

 ——数分経っただろうか。苦しそうにしていたエドガーが落ち着きを取り戻し、ガイナの腰に提げてあった小型のナイフを手に取り、それで指を切り意識朦朧としていたツヴァイスの口へと運ぶ。

 それを摂取した後にすぐ目に光が戻り始め、座り込んでいた腰をゆっくりとあげた。

「即効性のある薬だ。これを飲みさえすりゃあしばらくは大丈夫なはずだぜ」

 そう言われた残りの二人は次々に口に含み、また回復していった。

「とりあえず危機は脱したみたいね。礼を言うわ、エドガー」

「はっ、お前さんから礼を言われるたぁ、こりゃ良くないことの前触れかもなぁ」

「礼くらいアナタにだってするわよ、助かったのは事実だし。それに良くないことの前触れというのは間違っているわ。何故なら《《もう既に始まっているのだから》》」


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