「act20 カナメ」
虚数から出てきた時、目の前の少年が誰だかわからないほど魔力が膨れ上がっていた。その四肢は少年特有の細いものではなく、黒いモヤのようなものを纏っており、純白だった翼も漆黒に染まりその顔は何も見えず、唯一赤く光る瞳がギョロリ、と突如現れた動体に反応した。
その様子は知ってる人が見ればこういう感想を抱いていたことだろう。
——まるでタナトス、厄災獣みてェだな。
少年はその動体が久しぶりに会った知り合いだと確認すると、黒いモヤが拡散して本来の姿が露わとなる。
「おひさしぶりです、ってなんか雰囲気かわりました?」
「それはこっちのセリフだ、リヒート」
少し目を離しただけでこの変わりよう。子供の成長はあっという間だというが、ここまでとは思わなんだ。しかし、おかげで一つの仮説がほぼ実証された。
「厄災獣の中には人が核として組み込まれている。それもおそらくオマエと同一存在、つまり《《並行世界のルシフェルに対応する熾天使いだ》》」
その答えもリヒートにとっては意外ではなかったみたいで、「あっ、やっぱり?」なんて軽さで答える。
「実際厄災の子をかってみてわかったけど、ぼくとにたような魔力をかんじる。タナトスの核になってるヒトはべつの世界のぼくってことで間違いないと思う」
「確定ではねェが、確信は得たって感じだな。なら厄災戦の鍵になるのはやっぱりオマエで間違いねェみてェだ。……やれるか?」
自分からこの戦いに巻き込んでおいてなにを心配しているのだろうか。こうして相手の意志を確認して、《《もしその人が死んでも自分だけの責任ではないと安心したいだけなのではないか?》》 と心の中で自嘲する。だってこんな状況でこんなことを聞かれたら出てくる言葉なんて、
「大丈夫。できるだけ、やってみせる」
に決まっている。人の良心につけこんでなんて浅ましい。いくら世界を守るためだと言ってもこんな子供に戦わせるなんて。
不思議だ。自殺衝動が収まった途端にいかにも普通の人間みたいな気持ちがこうも溢れるなんて、本当に、今更だ。
「すまない……」
「ううん、あやまる必要なんていっさいないんだよ。ウリアさんが誘ってくれなくてもたぶんぼくはたたかいに行ってたし、むしろ拾ってくれたおかげでぼくもつよくなれた」
「……でも」
「それでもなにか言いたいっていうなら、こういう時はあやまるんじゃなくって、ありがとうって言うべきなんだよ」
その一言はカナメの胸の奥に深く突き刺さる。感謝、それはウリア・マスカレイドとして生きようと決めたその時から、いつの間にか口にすることが無くなっていたものだった。
「——オマエは、本当に強いな。ありがとう」
一つ呼吸を挟んで、
「一緒に戦ってくれるか?」
「っ! もちろんっ、やらせてください!」
自分の中からいくつもの魂が抜け落ちて自分だけが残った時、ガブリエラ達と一緒にはいけないと口にした瞬間から、自分は一人なんだと思っていたがどうやらそれは思い違いだったらしい。
自分を強く律するためにウリアでいようと覚悟していたが、今はもうそんな気はしない。ウリエルが導いたおかげか、他に外的要因があったか、自分でもはっきりとはわからないが、今後はカナメとしてこの世界を守るために戦おう。復讐鬼ウリアは、既にここにはいないのだから。
その為にもまず、厄災の獣をなんとしても叩く!




