「act14 さようなら」
ウリエルの胴を何かが貫いたのは間違いないがそれはウリアの拳ではなく先程まで存在すら感知できなかった第三者。白の長髪、瞳は禍々しい紫毒色、本当に同じ人間なのかと疑いたくなるほど血の通っていないように見える白い肌。そしてウリエルの身体を貫いた《《見覚えのある古びた大槍》》。
「これで会うのは二度目、だね。ガブリエル、それと罪無き子」
間違いない。雰囲気どころか口調、風貌も変わってしまっているが、ウルティーナ村で出会ったあの老人その人だ。
違う、そんなことを考えている場合では——
槍を抜き取りウリエルの身体をまるで石でも飛ばすかのように蹴り上げる。
「きさ——」
怒りで目先の敵に飛び掛かろうとしたガブリエラは何かに制されて踏みとどまる。その何かは眼前の敵にめがけて肉迫し組み合う形でその姿を現した。
「なにをやっているの貴女達! 早く彼を向こうにやって逃げなさい!」
「ラスティーナさん!?」
そうか、彼女の魔法なら瀕死状態のウリエルをも助けることができるかもしれない! しかしそんな期待を打ち砕くかのように、
「先に言っておくけれど、愛のないモノを私は救えないの……」
「なにを——」
「説明している暇はないから早くここから去りなさいッ!」
「っ!?」
唇から赤いものが垂れる。何故かわからないが彼女の蘇生魔法ではウリエルを救えないということを納得も理解もできていないが彼女が嘘をついているようにも見えない。むしろ縋るように、救いを求めるように、とにかく必死なことだけは理解できていた。
氷結治療を傷口に施してすっかり身体が冷えてしまっている兄を抱えて、ガイナ、キールも手伝いその場から逃げるように離れる。
「貴方も早く行きなさい」
「でも、オレが行ったところでなンにも……」
「助かる助けるの問題じゃなくて、貴方が行ってあげないと彼が報われないのよ」
「…………わかった」
ここに残っていた少年も先に行った者達の後を追ってやがて姿が見えなくなると、少し距離を空けて相手の出方を窺う。どうやら自由になったからと言って今すぐ彼らを追うのは危険だと理解しているようだ。そのまま無視して追ってくれれば話は早かったのに、と期待が外れたことに少しだけ残念そうに笑う。
「……行ったわね」
「……なんのつもりだ? まさかキミは捨て石になったのか?」
「あら、石っころでも貴方を止められるわよ。今さっきだって組み合えてたわけだし」
「ボクが本気でない可能性を考慮していないな」
「《《いいえ、貴方は全力よ》》。それでも私が貴方を止めていられたのは罪無き子だって愛を知る生き物だからじゃないかしら」
「この、オンナは戯言をッ!」
「戯言かどうかは今から試してあげるから焦らないの。がっついてる早漏なんて目も当てられないわよ?」
——組み合えてた時点でこの子に私の術が効くのはわかった。なら勝ち目はあるはず。禁忌を犯しさえすれば、ね。
「ダメだって言われてるけれど」
可愛いあの子達のために。そして少しの間だけでも外の空気を吸わせてくれた彼に報いるために。仮に二度と会えなくても。
「私のささやかな愛。人類の大罪が貴方を魅了させるから覚悟しなさい♡」
——これで、さようなら。




