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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第八幕「ありがとうとさようなら」
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「act13互いの覚悟の末に」

 あの男の言う通り『ウリエル』の扱う人の身にて天を歩む者セラフィム・フェイカーには大きな弱点がある。それは一秒の使用ごとに五年も寿命を縮めてしまうこと。他の熾天使と契約をしてきちんと話し合った上で力を借りていたのならばこのようなデメリットは無かったかもしれないがウリエルという熾天使は言わばシステムのようなモノ。力が欲しいというならば貸すしその代償もきちんといただく。そこに例外は存在しない。そんな熾天使だからこそ名家生まれの凡人でも人類の現時点での限界値に踏み込めたのだ。


「がはっ……!」


 身体にガタがきている。もう四秒は使っただろうか。実年齢と肉体年齢の差が四十も離れているとか頭がおかしくなりそうだ。


 だが——


「うがあああああああああああ!」


 ここで《《力をつけさせる》》!


 一、二、三と斬りあいやはり接近戦では不利と悟ったのか足早に距離を空けようと下がるが目の前の敵にめがけ《《あろうことか剣を投げた》》。


 それには流石に驚いたのか手元に握っていた大槍で受け止める。当然頭を狙ったのだから目の前に大槍をやる形で。


 おそらく戦闘技能はウリアという存在に自然と身についているものを引き出しているのだろうが驚いた瞬間にこそウリアではない少年の意識が行動させる。


 ——だがな少年。戦闘において視界を塞ぐというのはもっともしてはいけないタブーの一つ。視界を塞いでしまってはどれだけ素晴らしい戦闘技能を身に着けていようと必ず反応にラグが生じる!


 死角から炎を纏った拳で鳩尾を殴り上げると苦しそうに唾を飛ばしたがその瞳から力は消えていない。いつの間にか握られていた《《ロングソード》》を振り上げ右腕を切り落としたのだ。距離を取って即座に《《弓》》で虹色に輝く矢を一度に七つ放ち的確に身体を討ち貫く。


 ……なるほど。肉を切らせて骨を断つ。命のストックがいくつもあるからこそ身に付いた技能の一つか。


「これで終わりか、ウリエルさンよォ」


 思わず笑いがこみ上げる。これで終わり? 本気で聞いているのならば一回頬を叩かせてほしい。右腕は砂に塗れて音もなく地に転がっていて身体中も穴だらけで普通なら即死してもおかしくないほどの傷。


「だがッ!」


 ぐっ、と腹に力を入れる。しっかりと足で大地を踏む。眼前の少年を全力で迎え撃つことこそ少年のためであり、世界のためにもなる。


 その為に。


「ぐ」


 その残り少ない命を。


「ぐがが」


 燃やせッ!


「がらあああああああああああああッ!」


 剣はない。


 片腕もない。


 しかしこの世界には神秘がある。


 傷口を焼いて強引に出血を止める。気を抜けば気絶してしまいそうだが今はそんなことをしている場合ではない。


 大地を蹴った途端に目の前で不可視の爆発が起きて仰け反るが——


「ぎゃはははははははははははハハハハッッ!」


 そんなことされてももう面白いだけだ。止まらない止まらない止まらない。何をされようと何が立ちふさがろうと止まらない。


 人の身にて天を歩む者セラフィム・フェイカー発動。


 仰け反った姿勢のままで即座に懐へと潜り込み敵を睨みつける。それに気圧されてかウリアの動きがほんの少しだけ止まった。


 今まで幾度となくガイナ達に向けてきた気迫。視線だけで人も殺せるのではないかと錯覚させるほどの圧力、執念、覚悟。


「ふんっ!」


 炎の拳を振り切るとそれを防ぐように大槍を挟んでくるが関係ないとばかりに《《打ち砕く》》。


「なンっ——」


 流石のウリアもこれには驚いたのか次の対応に遅れをとる。


 ——いいか、魔法の利点の一つは物理的な武器と違って構える必要がないことだ。まあ、確かに天使いクラスであれば詠唱という構えはイメージを固めるため必要かもしれないが魔法使いとして一人前になった人には基本的に必要のないものだ。


 頭の中でこの状況に適した神秘を選択する。イメージは既に固まっているので詠唱も(かまえる)必要がない。


 ——二つ目の利点。実はこちらの方が重要なのだが、魔法はどこから発生すると思うかね? 自分の手元? 足元? 頭上? 答えはどれも当たらずとも遠からずだ。魔法の発動は基本的に《《視界》》を基準とする。場所のイメージができるからと言って数キロ離れた場所での魔法の行使はよほど優れた魔法使いでなければできない。このウリエルにもできない芸当なのだから多分現状片手の指で数えられる程度なのだろう。


 ——なに? 意外と不便だな、と思ったか? ふっ、それはとんでもない思い違いだ。言い方を変えよう。魔法使いの間合いは《《視界に入る光景全てだ》》と言えばその凄まじさが実感できるはずだ。


「権能発動」


 ——だからこそどこで発生させるか照準を瞬時に合わせなければいけないから大変なのだが。それが面倒ならば、


「灼式」


 ——照準を合わせる必要がないほど大規模な魔法を使えばいい。


「バカ、避け——」

永獄劫火(プロミネンス)……。神の、炎だァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!」


 駆けるより速く、音より速く、周囲一帯に炎、いや炎と呼んでよいのかすらわからない何かが溢れ何もかもを溶かす。例外があるとすれば直撃しながらも命のストックを保有しているが故に間一髪で回避できたウリアと人の身にて天を歩む者セラフィム・フェイカーを発動して創造したガブリエラの氷壁。本来なら決して溶けないはずの氷さえ徐々に溶かしているが重ね掛けをしてなんとか持ちこたえる。


 ガブリエラはいつも青い髪が青というより水色に輝いており相当に人間離れした魔力を感じるが額から汗は止まらない様子を見るとそれでも余裕とはいかない、むしろ防ぐだけで精一杯だと言ったところか。


「…………」

「…………ガブリエラが防いでくれなければ俺様達は全滅だった」


 やがて地獄の劫火は終息し中心には立っているのがやっとと言ったところのウリエル、それに同じく満身創痍のウリアがいた。


「嘘だろ。あの一撃だけで他の意識が全て焼き殺された……」


 呆然としている。それほどまでに目の前の熾天使いがしたことは衝撃だったはずだ。だがウリエルは立っているだけしかできないほどに消耗している。


 ガブリエラはもういいとその瞳から涙を零す。


 ガイナ、キールは自分達の無力さ、疎外感に打ちひしがれる。


 ウリアは震える足を叩いて拳を握る。


 ウリエルも拳を握り一歩を踏み出す。


 同時に駆ける。それぞれの覚悟を拳一杯に握りしめて、


 ——あぁ、カナメ。なんて顔を、しているんだ。キミはなんて優しいんだろうか……。


 直後胸を貫く衝撃があった。ウリアの拳がボロボロの身体を貫いた、《《わけではない》》。




「盛り上がってるところすまないがこれで終わりだよ」


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