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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第八幕「ありがとうとさようなら」
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「act12 最後の修行」

 思い出に耽っている場合ではない。目の前に自分の殺すべき敵が立っているのだ。相手だってヤる気マンマン、オレだってそのためにここに来たのだ。


 炎を纏った剣、周囲にいるだけで常人であれば肺を焼かれているであろう程の熱量を優に振るう相手が目の前に。


 ごくり、と唾を飲む音が聞こえる。汗が頬を滑る。手に汗握るとはまさにこのこと。いくつもの世界を渡り自分を殺してきた『ウリア・マスカレイド』という本能が告げている。


 ——アイツだけはヤバイ、と。


 とんでもないところに転がり込んでしまったなと我ながら今ほど後悔したこともない。だが。


 ごくり、とたまらずもう一度唾を飲む。


 先に動いたのはウリアだった。いつの間にか握っていたハンターナイフを投げると同時に土を蹴る。一撃目は避けられるまでもなく間合いに入った時点で消滅する。虚数から取り出した大槍を振り下ろせばそれに反応して炎剣で受け止めた衝撃で地面が砕ける。こんな軽いナリをしてこのような重い一撃を穿てるのはこの身体に宿ったウリアの技巧あってのもの。たがが数十年程度を生きただけの少年だけでは不可能である。


「う」


 力を込める。


「おおおおお!」


 目の前の敵を殺すために!


「うおおおおおおおおおおお!」


 振り下ろした先にあったのは固い大地。土煙があがる中一つの炎が奔る。あの俊敏さにこの取り回しの悪い槍は良くないとハンターナイフを取り出す。手数は勿論増えたがそれを全て剣一つでいなすウリエルとの剣戟。一瞬でも気を抜けば抜いたほうが死ぬ。《《見ている者が呼吸することすら忘れてしまいそうになる程》》の攻防。互いの熱は呼吸さえも焼き尽くす。


「何をしているの!?」


 肺が吸い込んだのは熱ではなく冷気。二人の間にはいつの間にかに大きな氷の柱が出来上がっていた。間に割り込んできたガブリエル、そして遅れてガイナとキールがやってくる。また厄介な存在がきたと内心舌打ちをする。タイマンでも厳しい相手に三人が相手なんて勝てるわけがない。いや、完全に勝てないわけではないだろうが分が悪すぎるしそんな無謀な賭けは正直やりたくないと思っていたところに、


「オマエらは手を出すな」


 その一言だ。その一言だけで彼らの動きはピタリと止まる。ウリエルは彼らの方なんて見ていない。ずっと、ずっと獲物を見つめ続けている。なんという集中力。なんという気迫。なんという執念。だが正直助かった。同時に四人相手はいくつ命があっても足りない。


「いいのかァ? 全員でかかってくればチャンスくらいはあるかもしれねェぜ」


 精一杯の虚勢。それを見透かしてか知らないがふん、と鼻で笑う。


「必要ない。これは最後の修行。オレがやらなくてはいけないことだ」

「テメェは——」


 続きはなかった。言葉でも斬ったのかと錯覚するほどの速さで身体を縦に一撃。この一撃だけで《《どれほどの意識が死んだのか》》。この衝撃は物理的なものではない。大きく後ろに跳ぶが既に後ろから一撃さらに斬られている。傷はないがやはり中にいる意識達は死んでいく。


「まさかテメェ!」


 話している間にさらに一撃。《《青白い炎》》が見えたと思えば刹那二回。次の一撃は槍を取り出してなんとか打ち合う。そこで初めてウリエルの変貌に気付いた。その髪は青く、さらに青白い炎を纏っている。かと思えばすぐにいつも通りの様子に戻り互いに距離を取る。


「その剣か」

「今更ながら気付いたかバカものめ。このレーヴァテインは物理、精神のどちらか一方をスイッチングして斬る霊剣。どちらかしか斬れんというのは不便極まりないがオマエのような相手ならばとりあえず意識を削るだけでも致命傷になりうるだろう」

「それに熾天使ウリエルとかなり深く繋がってやがるようだがどォも人間一人に行使できる魔力量じゃあねェ気がしやがる。もしかして魔力の前借り、寿命縮めてソレを使ってやがるな」


 答えない、というよりは答えられないと言った雰囲気。自分を心配している妹のためにも言えない。そう感じた。


「テメェが言えねェならオレが当ててやる。一秒に一年、いや五年は寿命を縮めてやがるな? そら、急激に一部の髪色が灰を思わせる白になってやがンぜ」

「……そうでもしないと勝てない相手だと踏んだ。魔法使いの名家に生まれようともその中でオレは平凡だった。平凡な人間が……」


 目線だけ一瞬自身の妹の方に向ける。


「天才に勝つ術なぞ、このような反則技しか残っていなかった」


 ウリエルから見える感情は嫉妬や劣等感などではなくただ誰かのために、想う誰かのために己の全てを投げうってもいいという静かなる覚悟。今まで優位にいたウリエルの息があがっている。おそらくそれほどまでに熾天使との接続は負荷が大きく、長期戦には向かないのだろう。


 ウリエルに計算違いがあったとすればウリアの意識ストックが思ったよりも多かったこと。それほどまでにウリアという存在の覚悟が大きかったことだ。


「とはいえオレだって正直満身創痍。こンな展開が続くようじゃあオレの方が死にそうだ」

「ならば互いの覚悟のために」

「ここからは」


 一方は剣を。


 一方は槍を構える。


「「出し惜しみ無しだコノヤロウ!!」」


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