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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第八幕「ありがとうとさようなら」
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「act11 少年の覚悟」

 それから十年程して、技術的革新、いわゆるブレイクスルーってものが起きて一気に魔法という技術は衰退し代わりに誰でも簡単に扱える科学技術が発展していった。盾城要(たてじょうかなめ)としてもこちらの技術体系の方が馴染みあるものだったためすんなりと受け入れられた。といってもその技術革新に一枚絡んでいて、あの世界でただの高校生だった少年だがそれでもそのものが存在していない世界にとってはどんな小さな技術も画期的だ。世界の躍進、そのキッカケの一つになれたのは少しだけ嬉しかった。


 一方盾城要(たてじょうかなめ)を世話していたメイリーンはこちらには滅法弱く、今までとは逆にモノを教えることが多くなったがそれでも彼女に勝てないものはある。


 それは料理。特にメイリーンの作るクリームシチューは今では一番好きな料理となっている。


 そして更に十年、魔法の姿が表舞台から消えて使っている人間なんてたった一握りになった頃、時はきた。


 存在自体が摩訶不思議なものになっていたウリア・マスカレイドは外見上の変化が起きにくく意識が盾城要に変わってから二十年は経つというのに外見上は多く見積もっても二十代前半、もうすぐ二十になると言われても納得できる程度の若さを保っている。一方メイリーンは普通に年を取っていったので現在では少しだけ顔に皺が増えていった。


 この世界の端で密かに創られていた神殺しの為の兵器が暴走した。神殺しを想定していただけあってソレはあまりに強大な力で瞬く間に世界の半分は焦土を化した。


「クソッ! 神殺しだと? ンで今更そンな力が必要だったってンだ!」

「……神様が世界を壊しにきた……?」


 なにをバカなことを、と言いかけた時にふと自分が意識の中に埋もれていた時に聞いた言葉を思い出した。


『神殺しを成そうとしている』


 それは本来ウリアが成そうとしていた目的だ。並行世界の自分を殺してまわって、何度も何度も殺しまわって。何度も何度も何度も。


 ……では神殺しをするキッカケ、理由とはなんだったか。誰かが言っていたはずだ。信仰心が無くなった世界を、近代化が進んだ世界を壊している『神』がいると。


「いやそれにしてもンなの、カミサマってヤツに世界を壊されるより先に人類の方があの、黒い獣に滅ぼされるじゃあねェか!」

「私もアレを、倒しにいかなきゃ……」

「バカ、ンなもン全盛期のオマエならともかく今のオマエじゃとても勝てる相手じゃねェ。オマエが一番それをわかってるはずだ」

「……悔しいけどその通りよ。確かに私は、今弱い。ついていっても足手まといになるだけ……」

「だけど別になにもするなと言ってるわけでもねェ。オレ達にだって避難誘導くれェはできるはずだぜ」

「っ! わ、わかった!」


 一年後、世界人口のおよそ半分は死に絶え大陸も、文明も破壊尽くされる。それでもあの獣は止まることを止めない。自分に課せられた命令を遂行するまでは、止まらない。


 三年後、あの獣は恐ろしいがそれでも広い世界から見ると小さな豆粒程度の大きさ。定期的に移動をしていればたまにくるハリケーンの方がよほど恐ろしい存在だと思えるほど遠くの出来事に感じることができるまでになったが、あんなある日空が光ったと思えば多数の魔力槍が降り注ぎ数少ない生き残った人類さえも屠っていった。


 投擲していた存在に見覚えはなかったが意識の中の誰かが声を震わせて、


『天使だ』


 と確かに言った。


 アレが天使? と疑問を持つ。確かによく見る真っ白な翼を持っているし真っ白な衣を纏っている。だがその表情、雰囲気から神々しさというものは欠片も感じずむしろ邪悪の塊にさえ見えて吐き気を催す。これが『天使』だというのなら『神』が自分に対して信仰のない世界を壊しているって話にも合点がいく。


 天使が光臨してからはこの地上のどこにも安息の地など存在しなかった。まず彼らに対して魔法は発動しない。当然だ。魔法とは天使なるモノから神秘を借り受ける形で使用しているのだから。自分を倒すものに神秘を貸すわけがない。とはいえ人間も全くの無抵抗ってわけでもなかった。


 まず何故か火属性の魔法なら使えたこと。メイリーンも火属性を得意としていたのでなんとか応戦できている。


 次に魔法以外にも人間が操る神秘があったこと。一つは魔術。自らの中にある魔力を直接神秘に変換する術。ウリアもこれを習得していたので常に最前線で戦い続けていた。


 二つ目は科学。他の超常に比べれば見劣りはするものの通常兵器も全く効果がないわけではなかった。


 これらの要因もあり人類はこの奇跡のような地獄を生き続けることができていたがそうも長く抵抗が続くわけもなかった。


 周囲が暗闇に支配される。


 《《世界が壊れたのだ》》。


 そこには本当になにもない。何もないところに生命は存在できない。あの地獄を生き残った生命も容易く死んでいった。


 最後まで生き残っていたメイリーンも足元で苦しく悶えている。


 それだというのに。


「なンでオレだけ何ともねェンだ……」


 答えは驚くほど簡単に自分で見つけ出せた。ウリア・マスカレイドは並行世界へ移動する時必ず虚数空間を経由しなければならず、普通の生命ではいるだけで毒な虚数への耐性すら身に着けておりその世界に存在するが存在しない空間に無意識的に逃げ込んでいたようだ。


 ……もはや今消えゆく命をいくつも救えるだけの猶予はない。けれど目の前にいるこの女性だけは。


 当然彼女は虚数への耐性なんてない。だが一瞬だけならば生きていられるはず。少なくとも現状死を待つよりはマシのはずだ。そして虚数空間に逃げた瞬間に別の世界へと跳ぶ。


 自分でも何を考えているのかわからない。並行世界へと跳ぶ方法も自分は知らないが、身体は覚えているはずだ。ちょうど今無意識下で逃げているように。


 ここでやらなければ一生後悔する。


「……だい、じょうぶ。あなた、を……。信じているわ」


 言葉を発する暇すら惜しかった。


 彼女の腕を引くと目の前の暗闇から気味の悪い様々な色が捻じ曲がったような空間に出る。違う。こんなとこに意識を割いてる場合ではない。


 刹那あるようでない蹴る。祈るように。どうか平和な世界へと行けますように、と。






「……………………ここは?」


 目を開けた時には見知らぬ森で力が抜けたように倒れていた。近くでは楽しそうな人々の声が聞こえる。森を抜けてみるとそこには小さいが活気に満ち溢れた村があった。ところどころで魔力反応を感じるということは魔法を捨てずに神秘と共に発達した世界なのだと理解して少し胸をなでおろす。


 次にメイリーンのことだ。目を覚ました時には彼女がいなくて焦ったがよく集中してみれば先程まで近くにいたらしいことは魔力の痕を感じればわかった。


「一体どこに行ってンだ、ったく」


 頭を搔くととぼとぼと歩き出す。ウリアの身体を使っているとはいえ自分で知れるのはここに彼女の魔力反応が残留しているという事実のみ。彼女の足跡をたどれるほど優秀な探知魔法も持っていないが必ず彼女はこの世界に来ているという謎の確信はあった。あてはないしカミサマだのなんだのと問題は山積みだが調査ついでに世界を回っておくのも悪くないと思った。


 こうして一人の少年は世界を知るための旅に出ることとなる。自分が知らないうちに《《ウリア・マスカレイドとなっていくのにも気付かずに》》。






 さて、物思いに耽るのもこのくらいにしてそろそろ時を動かそうか。

 そう、ウリエルとウリアが対面していたあの時へと。


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