「act10 それは奇跡のような地獄」
こうして盾城要は殺され定められた運命を覆すものの一つに加えられ、その中で数年の時を骸のようにただ生きた。彼の意識の中はまさに地獄で今まで迎え入れて来たであろう意識達が永遠と会話をしている。その中で俺は意識を保つのが精一杯で言葉を発することすらできなかった。
とはいえ何年も同じような会話を聞いていれば最初は知らない事ばかりだろうと嫌でも覚えるらしい。
とりあえずコイツ、ウリア・マスカレイドと名乗っている男はいくつもの並行世界を渡り自分殺しをしているということ。自分殺しをする目的は『ウリア・マスカレイド』という存在の強化。世界ってものはうまく出来ていて一つの世界に二つの同一存在がいる場合その二つを一つの存在として扱うらしい。盾城要の世界風にわかりやすく説明すれば総合ステータスが百の同一キャラが二人同じ世界にいるとその合計二百を百として扱う……とのこと。それを何回も繰り返していけば『ウリア・マスカレイド』という存在を強化できる、つまりスーパーウリアの完成って寸法だ。
では何故そこまでしてウリアという存在を高めようとしているのか。
『ヤツは神殺しを成そうとしている』
神殺し。ヤツは昔『神』と呼ばれる存在に痛い目に合わされたらしい。その『神』が本当にいるのかまではわからないが、意識A曰くソイツは自分への信仰心が無くなった世界、いわゆる近代化が進んだ世界を問答無用で壊しまわっているとのこと。どこまで本当かはわからないがとんだはた迷惑なカミサマもいたものだと思う。
いつものように外の様子もわからずただ意識が生きているだけの状態だったある日の奇跡が起きたのだ。
どっ、という衝撃と共に意識が浮上したと思えば久しく感じていなかった空気の味を感じた。
「っ……。がっ……!」
人は長らくしていないことは忘れる生き物らしく生まれたての赤ちゃんよろしくうまく呼吸すらできていない。胸を叩き無理矢理にでも心臓を動かすが手足の動かし方すらまともに覚えていないのかどうにもできない。
「…………その様子だとずっと表にいたウリアは殺せたみたいね」
久しぶりの空気に戸惑っていて忘れていたが声が降ってきて咄嗟に腕で身体を守ろうとする。ヤツの意識にいる中で得た重要な情報を忘れていたのだ。
それは表にいる人格が死んだ時無数にある意識の中からランダムに意識が表層に浮かぶということ。普通、意識が死ぬ直前に別の意識と交代して死から免れるので表の主人格が死ぬことは滅多にないのだが完全な暗殺且つ意識する間もなく瞬間に絶命するようなことがあれば話は別だ。
しかしこの方法で意識を表層に浮かばせたとして最大の問題点がある。それは表のウリアを瞬間的に殺せる相手が目の前にいる状態でのリスポーンであること。もしソレが完全にウリアという存在を消そうとしている相手なら表に出れたとて無慈悲なリスキルにより即ジ・エンド。
そんな相手には手も足も出るわけなくただうずくまって身を固めているが一向にあちらからのアクションは起きない。
「あなた死んだ時点で何歳だったの?」
……変な質問をする、と思った。とはいえその声から威圧感は感じられずむしろ本当は優しい人なんだろうってことが伝わってくる。
「…………十六」
チッ、と明らかに不快感を含んだ舌打ちが聴こえてきてマズイと思ったがどうやらそうではなく、
「あの男、お兄様だけでなくこんな子供まで手をかけていたなんて。やっぱり殺しておいて正解だったわ」
お兄様、ということはこの声の主の兄も自分と同一存在だったってことになる。おそらく無数の意識の中にいると思うが残念ながら今の自分は自分の機能も満足に使うことができない生まれたばかりの赤ちゃん同然の状態、特定の意識だけを表に出すことはかなわない。
それはともかくとして目の前にいるこの人物は先程まで表にいたウリアを恨んでいるだけで今の自分に対して敵対心があるわけではないことはわかった。恐る恐る顔をあげてみると、
「……澄海?」
少し大人びているがかつて盾城要の妹であった澄海とそっくりな人物が腕を組んで立っていた。いや、よく見れば髪も赤いし瞳は青だし身長は自分より大きそうだしと割と違うとこはあるみたいだけど。
あぁ、この人が並行世界の妹なんだとすんなり理解できたのは自分でも驚きだった。そりゃあ数年も意識だけ生きてるなんて不思議な状況に置かれていれば大抵のことはあっさりと受け入れられる。同時に澄海がきちんと大きくなればこういうキレイな大人になっていたのだろうかと悲しくもなる。
「マリン……、アイツの語ってた並行世界の同一存在ってヤツかしら。私の名前はメイリーン、これからよろしく」
「……オレはた、盾城要。よろしく、お願いします」
こうしてオレは並行世界の妹、メイリーンと共に奇跡のような第二の人生を歩むこととなった。




