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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第八幕「ありがとうとさようなら」
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「act07 光臨_Gabriela」

 深い深い思考の海のそのまた深く、底など見えない海の果て。


 ——アナタはどこにいるの。お願いだから力を貸して。


 力を求めてその海の深く、更に深くまで潜る。ウリエルに言われなければここまで深く潜ることも無かっただろう。


 契約を持続するためにたまにここに潜ることはあるが「あぁ、なんて綺麗なんだろう」と思う、いつ見ても飽きることがない光景。これが《《彼女》》の心の中、アトランティスの海でもここまで透き通った青は無かった。少しだけ寒いがそんなことは氷の熾天使いには関係がない。


 ——綺麗。いつまでもここに居たくなっちゃうくらい……。


 ふと、奥の方が光ったように見えた。気になってもう少し目を凝らして見ると……。


「ッ!? あ、agagaaaaaaaaaaaAAAAA!」

「バカめ、あの女のセンチメンタルな部分に触れすぎだ!」


 感覚としては炎のついた縄を身体に巻き付けられ海から引き揚げられる感じ。助けてくれたのは勿論兄であるウリエル。ウリエルでなければ『ガブリエル』の意識に飲み込まれそうになった人間性を戻すなど不可能だ。それだけ《《彼女》》の力は強力なのだ。


「ga……っ、がっば! ごがっぶ……、た、助かりましたありがとう、ございます……」

「Phase4までいけたのは流石我が妹だと褒めてやりたいところだが、あまり深くまで行き過ぎると人間部分を一気に手放すことになりかねん。オマエがそれを捨てるのは、少なくとも今ではない」

「わかっています。けれどここに来てからもう三週間が経とうとしてるの。キールもガイナも先に進んでいるのだからワタシだって早く!」


 そこまでだ、と言わんばかりにいたずらっぽく口元に人差し指を立てる。


「焦る気持ちはわかる。オレが一緒に居てやれるのもあと一週間少しが限度だろう。だがな、なにも焦る必要はないのだ我が妹よ」


 燃えるような熱い大きな手で氷のような冷たい自分の手を握る。この熱さがが自分をここに還してくれた。深い海の果てにいようとも引き揚げてくれる熱い手。


 ——そうか、今まではワタシだけの力で《《彼女》》の意識を探ってたけれどこの熱を以ていけばもう少し深くまでいけるはず。少し前のワタシなら恐れて想像もしなかった《《心に炎を宿しながらの探索》》。これだってもう立派にワタシの力なんだから。


 そう熱い手に握られながら、握られながら……。熱い、熱い……。


「いや、本当にあっついわ!!!!」

「おっとすまない、まだオレの手が燃焼していたままだった」

「ふぁっきんほっと!」

「コラコラ、女の子がそんな言葉を使ってはいけないぞ」


 まあ、冗談は置いといて、だ。


「……もう一度お願い。今度はできそうな気がする」

「ようやっとコツが見えたか。とすればこの兄から言えることは一つ」

「ん」

「常に心に炎を持て。どんな氷でも止められない、どんな水でも消すことのできない炎を。大丈夫だ、その炎は敵ではない。オマエの味方だよ」

「……ん、ありがと」


 気を取り直して再び集中。


 海の果ての果て、今は先程より深くまで潜れている。今度は寒気など感じない、むしろ熱い。


 ——常に心に炎を。


 身体が熱いままならまだ深くまで潜れる。


 ——ワタシと話をして!


 奥に光るものを見つけた。前は見ようとすれば意識を飲まれていたが今ははっきりとわかる。あれがガブリエルの意識片、触れることができれば会話ができる……らしいとウリエルから聞いていたが半信半疑だ。


 しかし熾天使と会話ってどうするのだろうか。そもそも言葉が通じるのか、と思ったが魔法詠唱が届いているのだから誰かが中間で通訳しているとかでない限りは通じてると思っていいのか。


 ウリエルの時は相手がシステムのようなヤツだったから交渉なんてしなくても正式な手順を踏めばそれ相応に力を貸してくれたという。だがガブリエルの場合はそういうことはなく熾天使間で一番自由意志が強いのだと。


 ——つまりお兄様がやった時より天を歩む道は険しいってことかしら。ワタシとガブリエルの性格が近いものだったら話しやすいのだけれど。


 まあ当たって砕けてみればいいわね、と少しだけ気楽に、だけど力は抜かずに光の元へと触れた。




『アラ、ワタシニふれテくるニンゲンがいルなんテメズラシイわ。アナタタチとワタシデアリカタがニテイルのかシラ』


 姿は見えていないが少し不安定ながら言葉が通じるようだ。しかしそれ以上に声を聞いているだけ呼吸を忘れてしまいそうになるほどのプレッシャー、震える足を抑えて、どれほど意味のある行為かはわからないが確実に一歩を踏み出す。


 それに驚いたのか微かに向こうの方で反応があった。


『アラ』

「こんちにはガブリエル様、ワタシはマリン・ガブリエラ。地上の当代ガブリエルの熾天使いです」

『コン、ニチハ……? ソレにシテモマァ、ワタシにニテイルトオモエバまさかケイヤクシャサマタチだったとは。ワザワザコンナところマでゴクロウサマでス』


 ……思ったより腰が低い?


『ソレデ、ワザワザコンナおくフカクまデアシヲ、いやイシキを? ハコンダというこトはナニカY……ヨウがあったのでハ?』


 少し言葉が歪んだ。かなり無理をしてこちらに言葉を合わせてきてくれているということなのだろうか。だとすればこの女(?)かなりドン引きするほどの善性の塊かも?


 いや、油断はしてはいけない。天使なんて存在がそもそも人間と違いすぎるものだというのにその上位種なんてその最たるものなはず。単なる善性だけでは片付けられないなにかがあるはずだ。だが慎重に相手の出方を探るほどの余裕もマリンにはない。


「意識がいつまで持つかわからないからワタシには悠長に話している余裕はないの。単刀直入にアナタの力をワタシに貸してほしい」

『イイデスよ』

「そうよね、そう簡単には貸して……なんて?」

『アナタタチニチカラをカシテあげるトイイマシタガ』


 ——試されている……?


「そ、そんなあっさりといいの……?」

『ダッテアナタタチヨユウがナいのでしょう? ナラハヤクハナしがツイタホウがヨイノダトオモッたノだけれドナニカイケナかったカしら?』


 違う。その声色から察するに《《本当に良かれと思って話を迅速に終わらせようとしてくれている》》のだ。どこまで純粋、どこまで善性の塊。


「ワ、ワタシはその方が楽でいいけれど、アナタはそれでいいの?」


 早急に話がつくのであればそれに越したことはないというのにそんなうまい話があるわけがない簡単に終わるわけがないと思い込み話を継続させる。


『アラ』


 その一言だけで『なにか悪いことでもしちゃったかしら。ごめんなさいね』という言葉まで聞こえてきそうなほど柔らかい口調。


 ……どれほどの力があればここまで自分の力を利用されない自信がつくのだろうか。


 これではっきりしたのは天使と人間は全く違う存在、人間の尺度で彼かと語ってはいけないということ。


「……わかったわ。アナタの力、素直に受け取る。ありがとう」

『フフッ、こちラこそアナタタチかラタノシイものヲイタダイタわ』

「え?」


 言葉の真意を問いただそうとしたがそろそろ意識が限界のようだ。もうひと踏ん張りだけして元いた水面へと浮上する。


 意識を戻した時身体から冷気があふれ出るのを感じて歯を食いしばりそれを押さえる。しばらくして収まったと思えば身体が軽くなったのを感じる。今まで見ていた空、海、大地、人、それら全て視え方が変わっていた。


「コレが、人の身にて天を歩む者セラフィム・フェイカー


 言葉と共に冷気を放ち、歩んだ地は凍り、瞳の先に広がるは絶凍の彩国。


「……なるほど。タシかにこのハコニワはセマすぎる」

「Phase5へと至った、か……」


 少しだけ悲しそうに、嬉しそうに、苦しそうに、ウリエルは彼女の意識を沈めた。


 人の身にて天を歩む者セラフィム・フェイカーPhase5、光臨。






『アナタタチのキオク、スゴくタノシそうでした。ハコニワ、ではなくニンゲンのセカイがどこまでもツヅきますように』


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