「act06 再誕の時、至らず_Gaina」
アトランティスでの修業が始まっておよそ一週間と少しが経った頃、ガイナは一ヶ月前までと同じくひたすらに組手を続けさせられていた。
『一本、だな』
「また負けたぁぁぁ! ……なあ、俺はいつになったら本修行に入れるんだ?」
ガブリエラの進捗は話さずとも魔力で繋がっているのでわかっているが、この一週間で飛躍的に魔力が増加しており火属性魔法でさえいつぞや見たツヴァイスの姉であるファインに迫るほどに力を付けている。
キールの方でもなにやらいつもと違う魔力反応がするので何かしらの成長があったのだろう。
あったのだろう、と曖昧な言い回しをしているのはここ一週間他の誰とも会えていないからだ。三人はそれぞれ違うところで修行をして違うところで飯を食べ違うところで寝ている。今の自分を客観的に見てくれる人間が一人しかいない上にその一人であるウリエルが何も言ってくれないので成長できているのかイマイチ実感がわかない。しかし他の人の成長はこうして感じられるのだからそろそろ焦ってきているガイナであった。
『本修行という意味ならキミだけが一ヶ月前からそうだがな』
「?」
『キミは単純に高出力の神秘に耐えられるだけの身体を作らなければならないのだ。我が妹からの魔力支援があったとしても時間加速を使えるのは現状連続三、踏ん張って四回が限界。本来の総魔力量なら優に十は使えている』
生まれ持った魔法を使いこなせる身体ではない、なんて言われたら普通にショックである。ガブリエラ的には「その魔法使えるなんてすげぇじゃん」って感じなのだが、ウリエルから言わせてみれば「え、そんな初級魔法も十分に使いこなせないの?」って感じらしい。
うん、訂正。かなりショック。
だがこれで納得はいった。要するにシンプルに未熟なのだ。それだから一か月前の組手ではキールに迷惑をかけてばかりだったのである。ほぼ自分のせいで負けていたようなものだったからこれで修行にも身が入るというもの。
『しかし未熟とはいえ流石《《罪無き子》》というべきか。筋はいい』
「あー、そのいい機会だから聞くんだけどその《《罪無き子》》ってどういう意味なんだ?」
罪無き子。
ガイナを見た人が度々そう呼んでいることは知っているが何故そう呼ばれるのか呼ばれている本人が知らないのだ。学がないガイナが知らないだけかとも思ってガブリエラにも聞いてみたが答えは「知らない」だけ。呼ばれる機会自体は少なかったのでさほど気にしてはいなかったがその真相が今わかりそうだ。
『おかしなことを聞く。罪がないとはそのままの意味だろ』
「その罪がないっていう意味がわからないんだけどぉ!」
『ははぁん? さては自分がどう生まれたのか父親から聞かされていないな?』
図星。押し黙るしかなかった。確かに今考えればどう生まれただの、《《そもそも母親が誰だのの持っていて当たり前の情報がない》》。
世界を知りたいどころか自分の起源すら知らないなんてお笑いにも程がある。
『逆にそれでよくあの神秘を振るえていたものだと感心したいところだ。それとも中に別の上位存在でもいるというのか?』
「待って! 教えてくれ俺がどういう存在なのかを!」
『あぁ、いいとも引きずり出してやる』
どすっ、と鈍い音がした瞬間お腹のあたりが少しずつ熱くなるのを感じた。喉を昇ってくる鮮血を勢いよくせき込み吐き出すと今度は身体中の温度が逃げていくのを感じる。
明確に自分の命の炎が消えていくのを感じる。なんで、という疑問はあったが本当に死ぬ時はこんな感じなんだと意外と冷静でいられた。否、おそらく考える余裕すら残っていないということだろう。
——随分とこう、あっけのない……——
『……ふむ、まだ機は熟していないみたいだな。ラスティーナ、こちらだ』
「ばぶぅ!?」
『おっ、罪無き子ジョークか?』
「オ、俺今死ななかった?」
『? 見ての通りピンピンとしているが。きっと疲れて夢でも見てしまっていたのだろう。今日はここまでとしよう』
今絶対死にかけたと思ったが傷痕も残ってないし言われてみれば前後の記憶も曖昧である。もしかしたら本当に疲労かなにかで倒れてしまったのかもしれない。意気込みだけあっても身体がついていかないのではせっかくの修行も効率が悪くなってしまうというもの。
「じゃあ今日はお言葉に甘えてお休みしとくかね」
『あぁ、そうしたまえ』
こうしてある日の一日は終わった。自分の魔力出力が急激に増加していたことを知るのは翌日の修行中であった。
——まだ《《再誕》》、ボクが出てくる盤面ではないさ。




