「act04 遊んだ後には」
日も落ちて来た頃、水着姿のウリエルと合流して彼が用意していたお店へと入る。なんの偶然か先程キールが話していた魚の専門店であった。
ウリエルは店を貸し切りにしていたようで店内には《《この五人》》以外に客はいない。なんか申し訳ないような気もする、このお店はよく要人がきて貸切られるそうなので気にすることではないとのこと。それでも山育ちのガイナ、田舎に住んでいたキール達はなんだか少し落ち着かない。
出てくる料理も一流のそれで味に余計な雑味がなく素直に食事を楽しめる。こういうのは初めてだがなんとなく「ああ、上品だな」と感じることができるものだった。
「魚ってこんなにうまいんだな……」
「ワタシもこんなに美味しいのは初めて食べたかも。流石兄様、良い店知ってるじゃないですか」
「そうだろうともそうだろうとも。もっと褒めてくれてもいいのだぞ我が妹よ」
生魚、初めて食べるがこれもうまい。生、ってことで警戒していたがなんのことはない。ただただうまい。このソースも良いがすごいのはそのまま食べても脂が乗っているのか十分にうま味が感じられることだ。
「へえ、これすごいな。俺様もここまでうまいとは想像しきらなんだ」
「あら、このお魚も美味しいわよガイナくん。はい、あーん」
「ん、あーん。……うん、美味しい!」
「な、なんとぉ!? ガイナ、こっちも美味しいわよ! あ、あーん」
「え、あ、あむっぐ……。っとこれもいけるじゃないか。ありがとなマリン」
「ど、どういたしまして……」
ガブリエラとラスティーナの二人からあーんされるなんて羨まし……は置いといて。
「なんでラストがいるのよぉぉぉぉ!?」
「あら、私だって美味しいごはん食べたいわぁ。それとも私との食事、嫌かしら?」
「い、嫌じゃないけどぉ……。お兄様と入れ替わりって聞いてたからぁ」
「カノジョにはもう一ヶ月オレ達と行動を共にしてもらのだ。一緒にいてもらった方がかん……都合がいいからな」
「ふふっ、私頑張っちゃいます」
心にもないことを、とウリエルは思ったがそれは口に出さない。形は違えどラスティーナのことをそれぞれで信頼しているようだ。それを無暗に崩すことはしたくないしするメリットもない。今はこうしておいた方が上手く使える。
——元々カレラに会わせる予定はなかったがこれはこれで良い傾向だ。このまま一ヶ月は何もなければいいが。
一ヶ月。長いようで過ぎてしまえばあっという間だというのはもう前一ヶ月で身に染みているはず。厄災獣との決戦まで半年を切っている。それまでに自分の教えられることは全て教えよう。巻き込んだモノの責務としてせいぜい悔いの残らないように。
「お兄様?」
「ん? ああ、少し考え事をな。してなんの話だったかな」
「明日の修行内容のことについてだぜ。俺様達は明日からどういうことするのかって話」
なんだそんなことか、とウリエル。別に急かさなくても明日教えるのに、っていうのは何故か通じない雰囲気。考え事をしている間に適当に返事でもしてしまっただろうか。隠すようなことでもないから別に教えても問題はないが。
「一人一人の強みを伸ばしていく予定だ。詳細は明日話すがオレは蜃気楼を二体出してそちらでキミ達の指導に当たる。本体は勿論我が妹だ」
「いつも思ってたけれどお兄様の妹贔屓が凄いのよ」
「我が妹を可愛いと思うのがいけないことかい? だが今回はオレが直々に教えねばならないことがあるからだ」
教えなければいけないこと? と首を傾げたガブリエラは口に運ぼうとした料理を皿へと戻す。教えることがあるならばそれこそ蜃気楼だけで良いのだがそれをしないのにはそれ相応の理由があるとみた。
ウリエルは一気に水を飲み干すと傍に控えていた店員におかわりを求める。よく飲み物を飲んでいるイメージがあるが喉が渇きやすいのだろうか。
「ガブリエラ」
「っ! は、はい。なんでしょうかウリエル」
我が妹とは呼ばずにガブリエラと呼んだということはマリン・ブリテンウィッカではなくマリン・ガブリエラに用があるということ。それを察して咄嗟にウリエルと熾天使名で呼ぶと自分でガブリエラと呼んだのに関わらず鼻で笑ってしまう。
「ガブリエルとの定着率は三割ぐらいだな。それを一気に五割まで引き上げる」
聞いたガブリエラは思わずテーブルを叩いて立ち上がり、
「無理です、無理ですよ! アナ……ウリエルは過去に暴走した熾天使いの話を知らないの?」
「ん? あぁ、勿論知っているとも。うっかり世界が滅びかけたせいで定着率を三割超える時はそれ相応の手順を踏むことと止められるだけの実力者がいなければ許可されない魔法協会三大禁忌、『人の身にて天を歩む者』。それを解禁する時が来たというのだ」
「普通の火属性魔法ですら暴走させてるのにまた暴走させる気か。誰も達したことのない境地へ一ヶ月でいけるとでも?」
キールの指摘はもっともである。ガブリエラがいくら天才とはいえ未だ成功例のない人類未踏の領域に踏み込む準備が一ヶ月しかないなど無茶にも程がある。
ラスティーナは何かを知っているのか止めることもなくただ状況を静観している。
再び鼻で笑う。
「やれるとも」
その応えは非常に簡潔だった。
「オレだ」
続く言葉もこれ以上ない程簡潔に、事実だけを淡々と告げる。
「歴史上たった一人、オレのみが到達できたのだから我が妹でもやれるはずだ」
からん、とコップの中の氷が溶け鳴る音が静かに響いた。




