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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第二幕「自然調律」
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「act04 神の手」


 温泉から出たガイナとエドガーは町から少し外れた森の中で対面していた。

「それで話ってなんだよ」

「単刀直入に言う、オレと戦え」

 エドガーは満面の笑みでそう言った。ガイナはあまり人の表情、感情を読み取れる人間ではないが、特に裏などなく本当に心の底から戦いたいだけなのだと言うことがわかった。

 戦闘狂なのだ。ただ強い奴と戦いたい、それだけが行動目的。

(これはガブリエラも嫌うわけだ)

 と思うと同時にガブリエラが止めた理由もわかった。

 あの時ガイナは疲弊しており魔法を使うことが出来ない状況だった。つまり《《魔法を使わなければマトモに戦える相手でもない》》ということだ。

 それはエドガーもわかっていたから待った。回復しきるまで。しかも今は魔力的にガブリエラと繋がっている状態、万全を通り越して万全なのだ。戦闘狂にとってはこれ以上に嬉しいコンディションは無いだろう。

(拒否なんて出来なさそうだな)

 素早く剣を取り出し構える。対してエドガーは無防備に見えてかなり隙が無いように見える。

 そこでふと気が付いたのだ。およそ武器と呼べるものがエドガーの何処にも見当たらないことに。ガブリエラ曰くどのような魔法使いであれ大なり小なり武器は構えておくものだと。

 ふとある可能性が過ぎった。だが有り得るだろうか? こちらは剣、それなのに。

「まさか素手……?」

 にやりと満面の笑みを浮かべると、エドガーは一言こう言った。

「素手以上だ!」

 と風が吹き、それが始まりの合図となった。

 地を走っているとは思えない程軽やかに駆けたエドガーは拳を振るい、それを避け──

「ぶぅるぉぉぉぉ!?」

 ──ることは出来ず、まるで《《風にでも殴られた》》かのような衝撃を頬に受けながら数メートル先の木へと勢いよく叩きつけられ肺から空気が吐き出された。

 飛びそうになる意識を真っ直ぐに、剣を構え直すと駆け素直に腕を振り下ろす。

 その数秒の間にガイナの戦闘本能は思考をフルで回転させる。

(拳は確実に避けたはずだ。避けられない速さで無かったのにそれなのに殴られた。見えない何かがある、のか?)

 振り下ろされた剣をエドガーは物怖じもせずに左腕一本で受け止めてみせた。しかし傷一つつかないどころか、《《直前で何かに阻まれた》》かのように腕に直接刃が触れることはない。

「やっぱり見えない何かがある、魔法か!?」

「そうでしかありえないだろうがぁ!」

 身体側面へとエドガーの右脚が叩きつけられた衝撃があったがやはり直接肉体が接触してはいない。そこでガイナはこの町に来た頃見た彼の魔法を思い出していた。

 エドガーはあの時風を操る魔法を使っていた。もしかしたら風を操るのが得意なのかもしれない。ならばこれは風の鎧とでも言うのか。

 蹴り飛ばされまいと即座に剣を地面へと突き刺し、その剣を軸として蹴られた衝撃をバネに今度は逆に頭部へと足を突き刺す。

 そこで新しい発見があった。肉と骨の感触があったのだ。そこから導き出される結論は一つ!

「頭には風を纏っていない。頭は優先して守らなければならない部位だというのにだッ!つまり風を纏えるのは四肢のみ。ならばやりようはあるというもの!」

 足を振り切ると大柄なその身体はその場で叩きつけられるが、負けじと自身を蹴り落とした足を掴み渾身の力を込めて遠くに投げ立派に聳え立つ木へと叩きつける。

 両者は同時に体勢を立て直すと片方はにやりと笑み、片方は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 ガイナの目線の先には地面に突き刺さったままの剣、戦う為の武器が失われたのだ。

 本気でやるというからにはあの男は武器を拾わせてくれるわけはないだろう。

「さて、どうする?」

 その様子から察するにやはりというか先程の蹴りは全く効いていないようだった。常に武器を使っての戦いしかしてこなかったガイナにとってはかなりの痛手。

 今までは、だ。

「俺にもまだ戦う為の武器はある!」

 周囲に冷気が零れる。瞬間、ガイナの両の手の中に現れたのは冷たい、氷の短剣(ダガー)

 強度もさしてない、数分持てば精一杯の急造の武器。こんなものではダメージを与えることは難しいかもしれないが、まだエドガーには見せていない武器もある。

 二本の短剣を投擲、同時にエドガーを中心に円を描くように駆ける。短剣を精製、投擲を繰り返しながらだ。

 それも当然かの如く全て素手以上の拳で迎撃していく。

 しかしそれも計算のうち。まだまだ未熟なガイナには離れた所に氷を精製することもダメージを与えられるような大きな氷も作れない。

(だけど小さな氷を操作することくらいは出来る!大きな氷を作れないのなら小さな氷を固める!)

「なっ!?」

 三桁本程壊されたかというところで壊れた短剣の欠片、大量の氷が一斉にエドガーを覆う。

 一瞬驚いた後、《《一秒後に》》氷を砕いて中からエドガーが現れた。

「ははっ!こんな小細工はオレにゃあ効かねぇぞ!」

 視界が晴れた瞬間、目の前に剣とガイナはいなかった。背後に気配を感じて振り返ろうとした時には既にガイナは今まさに剣をその大きな背中に突き立てようとしていた。

 時間加速(クロックアップ)。普通の時間で測ること一秒の中に五秒分の自分だけの時間を創る魔法。

 剣を拾って背後まで回るのに五秒もあれば充分すぎる!

 充分すぎるのだが──

「確かに驚いた、こんな超高速で動けるとはな。しかし、それがお前の切札というのならお前の敗北が今決定した!」

 背中を剣が貫いていない。《《風の鎧があって貫けないのだ》》。

 何でだ、手足だけでは無かったのか。身体も守れるなら何故他の部位も守らなかったのか。全身守れるというのならばどうこれを破ればいい。

 思考を巡らせている間にその脳天へ大きな拳が刺さり無抵抗のまま地へと放り出された。

 ゆっくりと立ち上がったところで既に目の前へと迫っていたエドガーの拳を咄嗟に左腕で防いだがそんなものは無かったと言わんばかりの衝撃が全身を覆い、また身体は吹き飛ばされた。

 再び立ち上がろうとしたがそこで左腕が動かないことに気が付いたのだ。

「……折れたか。ちくしょう、いてぇ」

 口角を上げて笑顔を作るがそれも痩せ我慢。本当は今すぐに声をあげてしまいたいほどの激痛が走っている。

 しかしまた気付いたことがある。先程顔を殴られた時とガードをした時の拳の重さがまるで違ったのだ。

 前者は確かに衝撃はあったがまだ軽かったのに対し後者はまるで《《固めた土で殴られた》》かのような衝撃があった。

 奴を倒す為にはどうすれば良いかがまるで思いつかない。今までの経験がまるで役に立たないのだ。

「やっぱり魔法っておもしれぇ」

 まだ戦う意思が残っていることを確認するとエドガーはにやりと満面の笑みを浮かべ一歩前へと出た。

自然調律(ゴッドハンド)、それがオレの魔法の名前だ」

「ゴッド、ハンド……」

「周りの環境に適応した魔法を自身の身体にフィードバックすることが出来るものだ。通常時は何処にでもある空気を纏っているが、当然これも何処にでもある土も付与させることも出来る。獄炎の中なら炎を、氷の大地でなら氷を、海なら水をといった具合に様々なパラメータを追加出来るのがこの『自然調律』だ」

 その時だ。勝ちをほぼ確信していたエドガーが一歩を踏み出した時だ。不自然な冷気に歩みを阻まれてしまったのだ。

「……く、くく。私にその《《神の手》》を向けるというのか。面白い、では私も本気を出そうじゃないか」

 そう言って立ち上がったガイナの瞳は反転しており、色もかなり薄くなっていた。

 折れた腕に《《回復魔法をかける》》と、自分が握っていた剣と同じくらいの大きさの《《炎の剣》》を生み出し駆ける。

 何かおかしいと本能的に察したエドガーは数歩後ろに下がったがその時に奇妙な現象を目に入れていた。

「なんでテメェは複数人いるように見えるんだァ!?」

 あの女魔法使いに倣い、シン・時間加速クロックアップ・コンテとでも名を付けようか。

 その名の通り連続で発動した時間加速のことだ。一般の時間の流れで言う一秒の中に五秒を作り、更にその作った五秒の中の一秒の中に五秒を作るという行程を何回も繰り返す《《神秘》》。

 速すぎて残像が発生しているわけではない、実際に全員そこにいるのだ。人間の体感時間ではそれを区別出来ないというだけの話。

「だがオレにはまだ風の鎧がァァッッッッッッ!?」

 易々と破られ皮膚を焼かれたエドガーは叫び声をあげたくなるのを堪え自分を斬りつけているうち一人を掴もうとしたがそこには既に誰もいなかった。

「風の鎧、風を文字通り纏っているというのであれば空気中の物質を燃料に燃える大火力の炎で焼けば空気なぞ容易く崩れ去る!」

 そう口を動かしながらガイナは非常に冷静にこう思った。

(俺はなんでこんなことを知ってる?なんでこんな魔法を使えるんだ?)

 その問いに応えよう、と言ったのは誰だろう。

 君は今はまだ産まれたばかりの赤ん坊のような状態なのだ。これは言わばチュートリアル、ここで私が《《神秘》》の使い方を教えるから身体で覚えるんだ。

 自然とその言葉に逆らうことは出来なかった。その言葉はまるで父親が子に言い聞かせるかのようなものであったからだ。

 魔力の動きを感知。

 エドガーは自分を中心に爆風を吹かせたが周りに既にガイナはいない。

 数メートル先にガイナの──

「本気だって言っただろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 姿があった筈なのに気付いた時には目の前に炎の剣を構えた二人に見えるガイナ。

(間に合わな──)

 その先は無かった。《《思考が凍りついた》》のだ。

「そこまでよ、バカ共」

 冷気を纏ったその言葉はガブリエラの魔法によって凍りついた彼らには聞こえてはいなかった。

 ただ欲求を満たす為だけの戦いは一先ず幕を閉じたのだった。

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