「act6.5 乙女の場合」
――目の前の少年は自分より弱いはずである。今の今まで山に籠っていてずっと人ともあまり接してこなかったようなこの少年が今はとても頼りに見えて、強く見えて、そして……。
卑怯だなワタシ。ツヴァイスがいないからってこんなに甘えてる。アノコの気持ちを理解してるクセにカレから離れることができない。
そうこうしているとカレは向けていた背中を向こうにやったと思えば顔元にオトコノヒトの胸板が迫ってきていた。
……え、やばい。オトコノヒト特有の匂いが顔中に……。いや直接嗅いだことがあるわけじゃないけれどなんとなくわかる。酔いそう……。
「昔俺が狩りに失敗して飯が無かった時に親父がこうやって慰めてくれたんだ」
「……ふーん。じゃあ落ち込んでる人がいたらこうしてあげるのね」
そんなことがあったのね、という理解と、ほんの少しの雑念。隠せない。表に出てしまう。ダメなのに。
「えっ、いやあよくわかんないけどさ? こんなことマリンにしかできない、そんな気がするんだ」
「っ~~~~~///」
胸の動悸が止まらない。顔を見せられない。見たらダメ。
でも期待しちゃってる自分がいる。聞いてはダメなのにその先を知りたがっている自分がいる。
「何でワタシにしかできないと言えるのかしら?」
「お前のことが大切だと思えるからだよ」
即答。今度はなんの迷いも言い淀みもなく即答してみせた。おそらくカレはそういう深い意味で言ったわけでもないだろうしそんなことまだ知らないだろう。普段なら自分も軽く流してたかもしれない。
――でも。
……ばっか、今それは殺し文句ってヤツでしょ。
カレに聞こえないように小さく、小さくそう呟いて顔を見上げる。
その少年は顔を赤らめてどこかバツが悪そうに頬を指先で搔く。
「アナタまさか――」
「ばっ、気恥ずかしいから言うな! ……でもさ、少しくらい恰好つけてもバチは当たらないよな」
……完全にワタシの負けだ。
諦めるように。流されるように。卑怯だと罵られようと。甘えだと言われようとも。確かめるように。ワタシは――




