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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第二幕「自然調律」
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「act03 ヒロインレース」

「疲れたぁぁぁ」


 あれからしばらくずっと簡単な魔法の練習をさせられていたガイナは疲れを癒すべく、宿にある露天風呂へと身を浸していた。

 どうやら水属性に適正があったらしく簡単な水魔法と、水を三分程度だが凍らせることが出来るようになった。

 魔法を使うという感覚をなんとなく掴んでいた為か習得も早かったのだがやはり疲れるものは疲れる。

 しかしこの温泉、魔力の回復を促進する効力があると言われるだけあって疲労が回復していくのがわかる。生命の源が魔力だという話もこれで実感が湧くというものだ。

 この温泉に他には人はいない。何故かと言えば今が結構遅い時間で閉湯する間際だったりするからだ。


「しっかし熱いな」


 当然、少年はずっと山篭りで近くの川で身体を洗うことしかしてこなかったのでこんな熱いお湯の中に浸かる経験など無かったのだ。

 最初は熱いお湯に驚きはしたもののすぐに慣れて今ではゆったりと身体を休めることが出来ている。熱いと思えば氷を少し表面に纏い冷やせばいい、休みながら魔法の練習も出来るというわけだ。

 と、戸を開けるような音が聞こえた。

 こんな時間に俺達以外入る人間がいるのかと意識、視線を向けた途端心臓が跳ね上がり目を逸らす。


「あれ、ガイナちゃん? こんな時間にお風呂なんて珍しいね」


 そう声をかけてきたのは町長の三人娘の次女、ツヴァイス・アンデ・シュタインであった。

 彼女とは昔からよく交流があり、山で生活をしているガイナ達に仕事の依頼を持ってくるのはいつも彼女であった。

 歳の近い知り合いがいないのを気遣ってかよく話をしてくれて、彼にとっては初めての友達と言っても差し支えない存在だ。


「そんなことよりこっちは男湯じゃねぇのかよ……!」

「ここ、混浴って言ってなかったっけ?」

「聞いてないッッッッ!」


 あはは、ごめんねー、と軽い調子で言ってガイナの隣に来ると距離が近いのか肩が少し当たってしまう。

 昔からの知り合いとはいえタオル一枚しか羽織っていなければ流石に意識してしまう。

 静かに距離を取ろうとするとそれに合わせて少しずつ近寄ってくる。

 やがて諦めたガイナは動きを止めて、互いに肩が少し当たっている状況で空を見上げた。


「何度見てもやっぱり綺麗だな」


 一拍置いてツヴァイスがえ? と返すと、


「空に散りばめられた星の輝き、人工の灯り、自然の風、空気、活気。ここは本当に良い町だと思う。……って他のとこに行ったことない俺が言ってもって話ではあるけどな」


 一瞬驚いた表情をした一人の少女はしかし笑い、当たり前じゃんと一言呟いた。


「そういえば旅に出るんだっけ。あの女の人から聞いたよ。大変だね」


寂しそうな声色でそう言った少女に対し、そうでもないさと言った少年の声色は希望に溢れていた。


「確かに少し不安もあるけどな。何処に行きたいとか何をやりたいとかもわからない。それを探す為の旅、それはとっても楽しみなんだ!」


 それも始まりは親父に言われたからだけどな、と照れくさそうに笑う少年。

 その顔を見た少女は迷いながらも一つ決心をする。否、どうするかは既に決めていたのだ。


「これは止められないな」

「ん、今なんて──」

「私も一緒に旅に行きたい!」


 およそ少年が予想もしなかった言葉をツヴァイスは大きな声で叫んだ。

 ガイナはどういうことか聞こうとしたが少女の表情を見るに言葉を詰まらせ、そして笑った。大きな声で。つられてか少女も大きな声で笑っていた。


「確信はないけどもしかしたら大変な旅になるかもしれない。それでも大丈夫か?」

「大丈夫だよ。覚悟は決めてあるから」


 一頻り笑った後に問うたガイナは愚問だったか、とまた少し笑う。

 そろそろあがるか、とガイナは腰をあげる。

 さて、皆様はお気付きだろうか。

 彼は温泉というものは初めてで、ずっと父と動物しかいない川で水浴びをしていたのだ。周りの目など気にする必要も無かったので隠すことなど無かった。

 ──つまりだ。肩が密着するような距離で腰をあげれば少女の目の前には何が見えるだろうか?

 ……これも簡単だろう。

 少女は顔を真っ赤にしてその湯を後にし、残されたのは頬を真っ赤に腫らした少年だけであった。


「なんだぁ? シュタインんとこの娘が足早に出ていったと思えば、今度は『閃光のマキナ』の息子が倒れてやがる。何してんだ?」


 腰にタオルを巻いて現れたエドガーを見てガイナはまた一つ学んだのだった。

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