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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第七幕「神殺しを為す者達」
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「act04 兄妹の場合」

「カレラは今頃遊園地で楽しんでいる頃か。オレ達も今日くらいは共に語らおう。何年振りかな、こうして腰を据えて話すのは」

「五年振り、くらいですかね。そんなに久しぶりというほどでもないわ」

「十代の五年は相当だと思うがな」


 少年達が遊園地で青春を過ごしているその頃、ガブリエラとウリエルは城内にある熾天使い専用の部屋で対面していた。


 苦手な紅茶は妹に、自分は好みであるホットミルクをぐっ、と一杯飲み干す。曰く、ホットミルクは少し温かいくらいが一番甘いとのことだ。


「相も変わらずお兄様は未だにホットミルクがお好きなのね。子供舌は変わらずなようで」

「相も変わらずというなら我が妹は未だに火属性魔法を使っていないようだな。臆病は変わらずか」

「……別に。火が使えないとて今のワタシは水を司る熾天使、ガブリエルと契約をしている魔法使いです。これだけでも世界最高クラスの魔法使いであるという自信があるので大丈夫」


 顔を伏せるようにして言ったガブリエラは確かにその言葉の通り世界最高の魔法使いの一人なのだろう。


 だが足りないのだ。これから襲い掛かる数々の困難を乗り越えるためには世界最高クラス程度ではほとほと足りないのである。


 ウリエルは眼帯をしている方の目を手で押さえながら、


「《《本来ならばオマエがウリエルの座に就くはずだった》》」

「その話は五年前、既に終えています」

「火属性ならばオレよりもオマエの方が才があったというのに何故だ?」

「わかっているくせに説明させるそういうとこが昔から嫌いです」


「そうやっていつまでも逃げるのか?」

「あんなことがあれば逃げ出したくもなります」

「それではいつまでも弱いままだぞ」

「…………」


 大きくため息をついたのはウリエル。そのため息の意味は呆れ、というのが大きいだろう。


 我が妹がここまで腑抜けだったとは思わなかった、とでも言わんばかりに人を馬鹿にしているため息。


 魔力の流れを検知。


「……けているのか」

「え?」

「ふざけているのかァ!」


 轟ッ! という激しい爆音と共に外へと投げ出されたが地表から氷を伸ばして地面とキスするのだけは辛うじて回避、今までいた部屋を見上げる。あそこは三階、一般人であれば致命傷だろうが熾天使いのガブリエラにとってはこの程度は危機でもなんでもない。そのことはあちらもわかっているとは思うがそれでも急に攻撃されれば誰でも驚きはするもの。


 どうやら今回のバトル要素はこの兄妹に任せられたということらしい。


「なあ、妹よ」


 彼から発せられる言葉一つ一つに熱がこもっていてそれを耳に入れるだけで火傷してしまいそうだと錯覚するほどだ。


「オレへの情けのつもりか。オレ程度の魔法使い、キサマのような才能のある者に席を譲ってもらわなければ成立しないとでも言いたいのか」

「っ……」

「神秘を握れ」


 ウリエルの右手に握られていたのは昔、父から譲り受けた家宝の剣。耐熱性に優れており、たとえ熾天使いの権能魔法をもってしてもソレを歪ませることはかなわないとされる至高の逸品。歴代のウリエルはそれに自分の魔法を重ね、炎を纏わせることで神秘を振るってきた。それは当代も例外ではなく今も炎々と纏わせている。


 ガブリエラは自身の魔法で生成した短剣を構えると走り出す。どういう意図があって戦いを挑んできているのかはわからないが頭に血が上っているのは誰から見ても明らかであった。故に、


「まずはその頭を冷やさせる!」


 のだが――


「その言動が既にオレを下に見ているのだと言っているのだァ!」


 一振りだった。たった一振りしただけでその剣撃は唸り声をあげて空気を焼く。それは勿論少し離れたところにいたガブリエラにも容赦なく振りかざされた。


 その熱量は凄まじく、氷の短剣なぞ一瞬で最初からなかったかのように消滅させ、ガブリエラでさえ身体中を氷で覆っていなければ皮膚も内臓も焼かれ即座に絶命していたかもしれない。しかし結論から言えば彼はまだ本気ではない。


 現在剣に纏わせているのは権能魔法でもなんでもない、火属性を操る人なら誰でも使用できるような名前すらない初歩も初歩の魔法である。ガブリエラが同等級の水属性魔法を使ったとてここまでの出力は出せないだろう。


 最後に兄と会ったのは五年前でその時はここまでではなかったはず。そこからどのような修行を積めばここまで狂気的な火力を出せるのだろうか。文字通り、血液すらも蒸発しかねないほどの努力でもここまでの境地に辿り着けるのか疑問でならない。


 そしてこの狂気は、世界最高峰の魔法使いを恐怖させるに十分足りるものであった。


「あ、あっ……」

「情けない、情けない。これだけの狂気を浴びて倒れないことは流石我が妹だと褒めてやりたいところだが、この程度の熱量で戦意喪失するとは――」


 ぐっ、と剣を構える。またあの攻撃が来る。


 恐怖で戦意を喪失していようとそこで反応できるのはガブリエラが優秀な証拠でもあるがやはり気持ちがついていかないのであれば動きも鈍くなるのは必至である。


「苦しみはオレが終わらせてやる。ここでその旅、終わらせてやる」


 爆発があったと思えば既に炎の剣が自分の首を、喉仏の辺りまで切り裂かれていて当然声を発することすらできない。血は出ない。斬った傷口は剣の纏った炎によって焼かれ塞がれているからだ。


 痛い、と思う隙すらない。熱い、と感じる余裕さえない。あるのはただ終わるという感覚。


 骨など障害にもならない。剣を振り切った時、ガブリエラの意識はそこで途絶えた。


「さようならだ、我が妹よ」

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