「act03 中華料理って美味しいよね」
料理を待つこと二十分、ようやっと食卓に並んだソレは禍々しい黒に近い赤色の液体の中に白いブヨブヨとしたものがある初めて見る食材で作られた初めて見る料理である。
匂いは非常に香ばしく、しかし鼻を刺すような刺激もある。これは食べて大丈夫なものなのかもわからないが、何故か涎が止まらない。キールはソレを慣れた手つきで口へと運んでいて、変な様子はなく普通に美味しそうに食事をしているだけである。
これは――
「ええい、ままよ!」
掬いあげて、
「ぱくっ!」
口に放り込――
「な、なんじゃこりゃああああああああああああああ!」
あ、熱い! 料理自体が熱いとかそういう話ではなく、口の中が焼けるように熱く燃えているようだ。この味を表現する言葉が思い浮かばない。甘くはない、苦いでもない。慌てて水を飲むと熱さは大分引いてきたが唇のヒリヒリが止まらない。
「山籠もりだったらこういうのを食べる機会もなかったろう? これはめちゃくちゃ辛い料理で麻婆豆腐っうんだ」
辛い。辛い。これが辛いか。覚えた。
「なんか毒でも盛られたのかと思って焦ったぜ……」
しかしなんだろうこの気持ちは。この麻婆豆腐なる食べ物、あまりの辛さに唇が未だに痛いというのに食べないという選択肢が浮かばず、むしろもっと食べたいと唾を飲む。
たまらずもう一口! 当然辛く口が焼け仰け反るがまだまだと言わんばかりに次々に口に放り込む。
熱い、痛い、辛い。
しかし――
「うっめぇぇえええええええええええええええ!」
止められない、止まらないとはまさにこの事。気付けば辛いのその奥に存在している美味しいに味覚のレベルが到達できていた。
「……あぁ。これが『辛い』か――」
「なんかいけねぇ扉開いちまった気もするが、まあ相棒が気に入ってくれたのならそれで良し、だ!」
となると次に気になるのはこの茶色の棒状の食べ物。どうやら揚げてあるようだが。
……匂いを嗅いでみても油の匂いしかしない。
「それに目をつけたか。だけどそれを喰う時は十分に気を付けろよ 」
片目を瞑った状態で茶目っぽく言うキール。何を気を付けることがあるというのか。辛いとかそういう未知の味覚か? それとも別の何か。
知識のないガイナではいくら考えてもやはり答えはでない。ならば経験してみるのが一番だろう。
ぱくり。
「単純にあっっっっっっっつ!!」
「やっべぇだろ! 皮の中の具材がジューシーでめちゃくちゃあちぃケド、うめぇんだわ。置いてある店に入ったら必ず頼む一品だね!」
そういうのも納得の食べ物である。手間がかかっている分美味しさも普段自分が食べているものと比べ物にならないくらい美味しい。
次は半透明の汁物。これは口当たりが優しくて非常に休まる。米と卵、肉、野菜を一緒に炒めてある炒飯、ってのもおいしい。手間がかかっていれば美味しいと先程言ったが前言撤回。これは簡単に美味しく作れそうなので試しに今度作ってみようと思う。
その後も勧められるままに料理を口にしていく。どれもこれも知らない不思議な味ばかりで、まるで宝石箱のようにガイナの目には映った。
お腹いっぱいに食事をした後向かったのは射的。流石に満腹状態でジェットコースターに乗るのはかなりゲロなのでノットチョイス。実は射的、そもそも射撃をしたことがないのだ。基本は剣を振り回す戦闘スタイルのうえ、魔法も近距離範囲で使うもんだから遠いところに標準を合わせるなんてことをすること自体ない。
水属性の魔法が使えるなら遠距離攻撃の感覚は育てておいた方がいいと言われ言われるがままにここに足を運んだというわけだ。
遊び方は至ってシンプル。弾五発、銃で遠くの標的を狙い撃つ。倒した標的の総得点に応じた景品がもらえるというもの。
まずは自分なりに狙ってみる。
……標的は全く動いていないというのに標準がブレる。
一呼吸置いて。
ダンッ! と勢いよく飛んだが斜め下の方にずれて的の置いてある台に当たった音が虚しく店内に響いた。
「もう少し気持ち上を狙わねぇと。あと手を震えてる。それじゃあ当たらないぜ」
「わ、わかってるっての……」
気持ち上、震える手。それらを意識して第二発目は標的の頭上の空気を貫いていった。
「少し上すぎたな」
動いてすらいない的に当てるのがこんなにも難しいとは思っていなかった。これではせっかく魔法を習得できても実践では近距離での使用に限定される。戦術の幅は今よりは増えるだろうが結局その距離なら魔法を使わずに剣で戦った方が早いわけで。
「ん、お前お菓子の詰め合わせを狙ってんのか?」
先程から外している的の景品、それはお菓子の詰め合わせであった。少しだけ遠い距離が遠いので初心者におすすめできるようなところではないのだがそれを狙っているってことは……。
「お菓子の詰め合わせとは割とお子様なチョイスだな」
冗談めいた口調で言ったキールに対してガイナは頬を膨らませながら第三発目を撃ったがやはり当たらない。
「だ、だってさ――」
一拍置いて。
「だってガブリエラにもなんか持って帰らないと悪いじゃん……」
口を尖らせ下を俯きながらバツが悪そうに言ったガイナは若干照れ臭そうで、なんというか一人の男であった。
「ははぁん? 惚れた女のために頑張ろうってのか」
「ばっ、ほ、惚れたとかそんなんじゃ……!」
「はいはい、わかってるわかってる。それにそういうのは俺もわかってるつもりだぜ?」
「えっ?」
「俺にな、将来を約束した女性がいるんだ」
ガイナの構える銃の向かう先を微調整してやるように手を添える。その声色は優しく温かく、きっとその女性のことを心から好きなんだと、そういう恋愛事情? に疎いガイナですら感じることが出来た。
「俺はこの世界を守る」
標準が合った。
ダンッ!
弾は目標に命中、したが揺れることもなくびくともしていない。少し遠いから玩具では威力が今一つ足りないという感じでもない。明らかに的が台に固定されている。最初から取らせる気がない設計だ。
「あっ、ずりぃぞ! 俺が折角かっこよく決めてたってのによぉ!」
「はんっ! 知らんなぁ!」
「あ、あんのオヤジィ……。お菓子の詰め合わせくらい普通に取らせろっての」
しかし困った。明らかに不正されているわけだが証拠もないのに言及するわけにもいかない。的を調べれば簡単にわかることだが万一魔法で固定されていたとしたら物理的に証拠が残らないためものすごく厄介である。だが関係ないとばかりにキールは次弾を装填。
「普通に狙っても当たるだけで多分倒れないぞ」
「照準は俺が整える。引き金はガイナ、お前が引け。少し、カチンときちまった」
「お、おう?」
先程と状況は一緒、キールが微調整をしてガイナが引き金を引く。おそらく店主は心の中でほくそ笑んでいるはずだ。
しかし先程と同じことをするわけがない。
魔力の流れを検知。
ダンッ! と放たれた弾は先程と段違いの速度で的を貫き、その先で腕を組んで構えていた店主の額にクリーンヒット。痛い、とのたうち回っている。
「ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああみろ! これが俺達の実力だぜ!」
これはもらっていくぜ、とキールはお菓子の詰め合わせを持って店外へ、それをガイナに渡すと嬉しそうに鼻歌を歌いながら出店に繰り出す。
さっきのは素の銃の威力ではない。引き金を引く直前に感じたのは間違いなく魔力反応で自分はやっていないとなるとやったのはキールということになる。
つまりキールの魔法は魔力を何かに通すことで強化すること、という推論が成り立つ。
「え、ちげぇよ?」
魔法素人の推論、役に立たず。
「物に魔力を流してその物を強化する。これは魔法学校に入学したら必ず第一限で習う基礎中の基礎、魔法ですらないただのテクニックってやつだ。まさかできないのか?」
静かに首を縦に振るガイナ。今の今まで山で生活してきて、魔法に触れてこなくて(正確には自分は知らず知らずのうちに使えていたけれど)、親父もそれを教えてくれなかったし、なんなら魔法の師匠とでもいうべきのガブリエラでさえ教えてくれなかったのだ。そりゃあ知らなくても仕方がない。
「本格的な魔法を教えるってことはまだ出来ねぇけど基礎を教えるくらいなら俺でもできるからなんだったらこれから教えようか?剣に魔力を乗せればただの剣でもそれなりに厄災の獣にも通じるものになるんじゃねぇの?」
「助かる!」
「うお、即答か。やる気十分、ならまだ集合まで時間あるからここ出て街の外れで練習しようぜ」
「おう! でももうこんな楽しいところから離れるのは少しだけ名残惜しいな」
「なぁに、これからは修行とかで忙しくなるだろうけどタナトスを倒した後で存分に遊べばいいさ!」
「それもそうか。じゃあそのためにもうーんと強くならないとな!」
勿論だぜ相棒! と互いに拳を合わせる。厄災獣、タナトスと打ち破り再びこの遊園地へとに遊びにくるというはたから見れば子供のような約束、アレを撃ち破ること自体が夢物語。
――だが彼らは成し遂げられると信じている。それは共に行動している熾天使いも、別のことろで奮闘している少年少女も。自分の大切なものを守るために必死に頑張っているんだ。さて、まだ彼らの物語は始まったばかり。これからの活躍にこうご期待。




