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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第六幕「人類史誕生」
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「act07 魔術」

「……魔術?」

「私が提唱している新超常構築術式論というものを知っているかね?」


 伏している状態でそう尋ねたローズは少し考えてようやっと合点がいったかのような表情をする。勿論他の人間はそんなもの知らないのでちんぷんかんぷんである。


 新超常構築術式。魔法をゼロから一を生み出す技術だと定義すれば、この術式は一を以て一を成す技術。前にガブリエラが言っていた『氷を作るのに楽なのは無から用意する方か水を凍らせる方か』の違いである。


 可能なのであれば魔力の消費だってぐんっと減少させることができる上に、これは自力の魔力で発動させる術式。つまり《《天使などという存在も実証されていないモノに頼らずとも簡単に超常を行使することができるようになる》》ということだ。


 それを次世代の技術として魔法協会にて提唱したがそれを聞いた上層部は「今はまだ神秘を手放してはならん」と激怒。何度理由の説明を求めてもその一点張りで遂には研究所の解体に魔法協会永久追放となった。


「まあ、それでも研究する場所さえあれば勝手に研究自体は進められるわけで。君にも言ってなかったがそこはお互い様だ」

「……なるほど。やっぱりあなたは天才ね。私はそれに追いつこうとしたのに届かなかった。いや、めちゃくちゃ腹立たしいわ」


「まだ理論構築に時間がかかる上にかなりハイコストだがそのうち魔法に代わる技術体系になると断言しよう」

「でもね。あなたは勘違いしていることがある。それは」


 むくりと立ち上がる。あれだけのダメージを受けながらなお立ち上がるのかと感心していたが、現実はそうではないらしい。


 しっかりとした動作、ダメージが残っている様子もない。考えられる可能性として最も高いのは。


「君の着ているその白衣。それも魔法装具、しかも回復魔法が仕込んでいるな……!」

「回復量自体は微弱だけれど装着している限り永遠に回復魔法をかけ続ける装具。中々に便利なものを開発したと思わない? 実際私が最初に目指した装具はこれだったわ。回復魔法なんてあって腐るものじゃないから」

「完全に形勢逆転というやつだな。だが私が勝つという未来には変わりはない」


 事実のみを淡々と述べる研究者は不確定な事象を確定したものとして語りはしない。既に未来は決定しているのだ。


「私達も本気を出す。さて、君についてこられるかな?」


 自分の膝に発破をかけて無理矢理にでも足を動かす。思った以上に魔術の行使は身体に負担がかかるものだったがそんなことは《《コイツ》》には関係ない。限界を超えて自分の身体を動かすには必要な存在だ。


 動き出したのはアレイスターが先であったが、先に拳を振るったのはローズだった。当然振るえば轟ッ!! と爆発が起こるがそれは当たらない。何度も同じ手にやられるほどアレイスターは馬鹿ではないし、それが通用すると思っているほど女も馬鹿ではない。


 今まで振るっていたのは右手。次に左手を振るうと今度は空気を切り裂く斬撃が生じた。こちらは完全に不意打ちだったはずなのだが空気の斬撃という不可視の攻撃をまるで視えていたかのように回避してローズの顎を下から力一杯に殴り上げる。


 構えていなかったローズは盛大に体勢を崩したが即座に足蹴り。どうやら履いていた靴も魔法装具だったようで足先に氷の刃を生成して攻撃したが、それもわかっていたかのように寸で避けて足を叩き落とす。


「構想構築」


 魔術の発動詠唱。それを耳に入れたローズは再び右手を向けようとしたが、その前に腕を叩かれ、


「概念理解」


 左手を振るう動作をする前に振るう方向がわかっていたかの如くそれを避けるような動作をするが戦闘の素人故か《《何かの力が働いたのか》》力の振るう方向を修正できない。そうなれば彼の回避行動はローズが攻撃する前に完了しており一つ拳をその顔へと叩きつける。即座に手のひらへと意識を集中、


「物質変性」


 女は叫び声とともにどこに隠し持っていたのかありったけの魔法装具を発動させる。戦闘慣れしているガブリエラでも避けることは困難と思われる弾幕を涼しい顔で避けながら肉迫して、


「現象発動」


 ビキリッ、と額の血管が浮き出て今にも血液が沸騰しそうなほどに熱を持つが流石に二度目だと体力の消耗も激しいらしく意識をゆらりと揺らしながらも眼前の白衣を掴み彼女の放った魔法のうち一つを利用して超常を発動させる。


「|この聖火を我が友に捧ぐ《バーン・オブ・アイワス》!」


 アレイスターを中心に大爆発が起こり更に炎柱が立つ。それから逃れようとするが生憎白衣をアレイスターが掴んでいるので逃げるためにはこれを脱がなくてはならない。やがてこれ以上ダメージを負うことはできないと白衣を脱ぎ棄て炎柱を脱出したが回復手段がないローズはそこを抜けたとて死なないだけ。熱を吸った喉は焼け、皮膚も一部火傷を負っている。それだけで済んだのも彼が手加減して魔術を発動させたのだとわかっていたローズは焼けて柔らかくなった唇を噛み締める。


「懲りたかね? それともまだやるか?」

「……完全敗北ね。煮るなり焼くなり好きにしなさい」

「焼きは先程したのだから充分だ。さて、私が勝ったのだから三つの要求をきいてもらおうか」

「はいはい。一つが協会に攻撃するな、だったかしらね。それは受け入れてあげる。あなたの研究がそこまで実践レベルまで上がってるなら私も諦めがつくというものよ。で、他二つは?」


「二つ目は彼女、アンナ・モルゲンシュテルンに謝罪したまえ。不本意ではあったかもしれないが君は親元から子供を一人手放させた。子が手元から離れる悲しみ、まさかわからないとは言わさんぞ」

「……謝って許される話ではないかもしれないわよ」

「それでも謝ることが大切だ。許せるかはアンナ嬢の心持ち次第だが何もないよりは幾分もマシだろうさ」


「……ごめんなさい。私は感情の赴くままに暴走してあの子を殺してしまった。あなたは私に報復する権利がある。好きになさい」

「えっ、え、えっとぉ……。これはどう返したらいいのかしらぁ……?」


 驚いたかのように目を見開くアレイスター。まさかローズまでもがリヒートが死んでいると思い込んでいるとは思わなかったらしくアンナの前で笑ったそれよりも大きな声で笑い声をあげる。


「はっ、抱腹絶倒とはまさにこのことだな! いや傑作傑作。役者も揃っているようだし言ってしまおうか。君が対厄災獣魔力圧縮消滅弾で殺したと思っているリヒート少年は間違いなく生きているぞ」

「「え、えぇぇぇ!?」」


 驚き声をあげたのは部屋の外で一部始終を見ていたガイナとガブリエラだった。その存在に気付いていなかったアンナとローズは肩をびくりと跳ねさせたがアレイスターはゆっくりと振り返り続ける。


「対厄災獣魔力圧縮消滅弾が爆発した後その空間を調べてみるとちょうど人一人が通れるだけの空間の歪みがあった。おそらく無意識的にだろうが虚数空間へ跳んだのかもしれん」

「かもしれないってことは確定ではない……?」


「いや確定だ。一般魔法使いのものであれば断定はできなかったがこんな独特な魔力なぞ間違えようがない。そして虚数空間から出てきたと思われる反応があったのがシューメンヘル王国付近、出てきたのがおよそ二人ほどの反応だったことから推察するに誰かに偶然拾われたのだろうな。というわけだが。異論があればシューメンヘル王国に立ち寄るといい。もしかしたらまだ近くにいるかもしれんぞ」


 ガイナとガブリエラはそれを聞いただけでどっ、と憑き物が落ちたかのように膝から崩れ落ちて互いに抱きしめ喜んだがやがてこっぱずかしくなったのかすぐに身体を離す。


 その様子を見ていたアンナはにやりとして二人の間へと入り肩を抱き寄せる。


「なになに、君達少し見ない間に結束力を高めてないかしらぁ? ふふ、良き良き。若き者同士お姉さんは応援してるぞぉ」

「そ、そんなんじゃあねぇって!」


 三人が笑っているのを傍目に研究者夫婦は自分の娘、リリスが生きていたらきっと良き友人となれただろうと事実のみを淡々と語る者のそれとは違う感傷に浸りながらほんの少しだけ微笑む。


 そして一つ、決意を新たにする。この優しい世界を必ず守り通すと。


 ――こんなものは我が友の力を借りずともその未来は約束されたものだと言い切って見せよう。その為に我ら大人はその力を振るうのだ。

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