「act01 追悼から始まる物語」
町から逃げるようにして離れた一行が四日かけて向かったのはおよそ二週間前にとある事件があった名もない上に地図にも乗っていない本当に小さな村に来ていた。
「……まさかまたここに寄ることになるなんてね」
「…………」
「ガブリエラ、ツヴァイス……」
「わかってるわよ、行きましょ。とりあえず挨拶だけでもしておかないと」
四人はその村にある墓地へと行き『リヒート・モルゲンシュテルン』と刻まれた墓の前に立ち目を閉じる。その墓はかつて少年が好きであったオレンジの木の下に作られていた。
「あら、あなた達来てたの」
振り返るとそこにはこれから四十代かと予測できそうな金髪長身のすらりとした女性がいた。先程四十代とは言ったが正確ではない。実はこの墓の人物の祖母で見た目年齢の倍ほどの歳をとっている。
「お久しぶりです、といってもまだ二週間も経ってないですけれどね」
ガブリエラは笑って見せたつもりだったがうまく笑えた自信はなかった。
エドガーはいつも通りあっけらかんとしているが、他の二人は顔を向けられないでいた。《《人の死》》というものに連続的に遭遇してしまったのだ。小さな世界で生活してきた彼らにとって人の死とはそう簡単に受け入れられるものではなく、あんなに小さな少年さえ守れなかった非力さに口の中に鉄の味がするのではないかというほど強く噛んだ。
「……俺は非力だ。知識も無ければ剣術なんて上品なものも持ち合わせてない。ただの一人の少年も守れない」
「私もだよ。皆のステージが上すぎて手を出せなかった、の。見ているだけしかできなかった自分が嫌だ、あの存在が遠いッ! ――《《私が躊躇などせずに悪魔との契約をしていれば》》……」
最後の一言を小さく呟いた後誰にも聞こえないような声でぼそぼそとツヴァイスが言っていたのでガブリエラが読心魔法を試みるが、
――聞こえない? 何か異様なプロテクトがかかってる、か何も考えていないかだけど何も考えていないなんて人間ならあり得ない。どういうことかしら?
「それで今度はどうしたの? てっきりサランバーナに行ったとばかり」
「ちょっと色々とありまして戻ってきたついでにカレに挨拶をしていこうと」
あぁ、と初老の女性は頷くと何かに気付いた様子で周りを少しだけ見渡した。
「ちょうど良かったみたい、あなた達私のうちにいらっしゃい。話さないといけないことがあるみたいですし」
ざっ、と土を踏む音が聞こえてそちらを向けば金髪短髪で綺麗な金色の瞳を持つ十代くらいの少女らしき人物がそこにはいた。そして彼らはその人物に見覚えがあり、彼女もまた彼らの顔を知っていた。名前は確か――
「アーニャ・トライデンター、さんだったかしら。なんでここに?」
「それは偽名。本名は《《アンナ・モルゲンシュテルン》》よ。そして、《《お母さん》》、これは、どういうことか説明してくれる?」
「それを説明するために彼女達を家に招いたのよ。私は結局ほとんど外で見てることしかできなかった。少し、いいえ、かなり酷かもしれないけれど当事者達の口から話した方が正確に伝わることでしょう」
アンナの母はちらりとガブリエラの方を見るとそれに応えるようにガブリエラ、の前にガイナが立ち上がる。
いつまでも下ばかり見ているわけにはいかないのだ。震える喉からやっとの勢いで出した言葉は弱弱しかったが確かに現実と向き合う決心を決めた男のそれであった。
「話すぜ。この村で二週間前に何があったのか。『リヒート・モルゲンシュテルン』がどうなったのか。あいつがどれだけ頑張ったのか。俺達が如何に無力だったか。起こったこと全て、だ」
――何から話したものか。始まりは二週間前、ウルティーナ村での一件が終わった後、この地図にも載っていないような小さな村に立ち寄ったところから始まった。




