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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第三幕「狂犬は夜に吠える」
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「act06 罪無き子達」

「何よ、これは……」


 村に戻った一行が見たものは人の気配が消えたウルティーナ村であった。

 元々人が沢山いたわけでも活気があったわけでもなかったのだが、それにしても人気というものが不自然なほど綺麗さっぱりなくなっていたのだ。

 一つの視線すら感じられないうえ、生物というものが数年存在していなかったとでも言いたげなほどに荒んでいた。

――そうだ、じいさんがいたはずだ。

 この村に入って唯一言葉を発した老人がいたではないか。

 それにはみんな気付いていたらしく、その老人を探して村中を走り回ってみたがやはり人間一人どころか動物一匹すら見つけることはかなわなかった。

 ようよう考えれば最初から違和感があった。人はいたというのに食べ物の匂いだとかそういった生活の跡が全く感じられなかった。


「もしかしてこの村って」

「『幽霊の踊り場(ゴーストタウン)』、魔力が濃く空気中に満ちている地域で稀にその存在を確認されるこの世ならざる者達の集う現世の墓場、ってとこかな」


 その存在自体は魔法の話を聞いている中でガイナも父から耳にしたことがあったが、聞いていた状況と少々違うところがある。


「ここがあの『幽霊の踊り場(ゴーストタウン)』だったと仮定して確かに九割は条件と合致する。けれど《《幽霊は普通言葉を発することはなく、言葉を交わすためには特殊な魔法を使用する必要がある》》のよ」


 その違いに全員気付いていたがあえて口に出したのはガブリエラ。ここでぶつかる問題はやはりあの老人である。

 ガブリエラやエドガーならともかくガイナ、ツヴァイスも普通に老人の話す言葉を耳に入れていたのだ。となれば幽霊(ゴースト)である可能性も薄くなってくる。 ということは――


「察しの通り、私は生きているぞ」


 肩をびくりとはねさせ声のする方を向けばそこにはいくら探しても見つけることができなかった老人がそこにいた。


「アナタ一体何者? ここで何をしているの? 何が目的?」

「質問が多いな娘。私が君達にそれを話す必要があるかね。そしてだな」


 ぞわり、と静かに大きな殺気が立つ。

 本能が叫ぶ。「こいつには勝てない、逃げろ」と。


「弱すぎる。邪魔だ、死ね」


 咄嗟にツヴァイスを抱えて大きく後ろへと跳び退いたが間に合わなかったのか背中に生温い鮮血が伝うのを感じる。幸い軽傷で済んだがあと少しでも反応が遅れていれば上半身と下半身は繋がっていなかっただろう。

 再び視界に入れた老人の手には鋭く、おおよそ使い手の三倍の大きさはあろうかという古びた槍が握られていた。


「その槍は……」

「かつてどこぞの王が振るっていたこの世界では名すら存在していない槍だ。名がないのでその真価を発揮することはできないが、それでも一振りで数十の兵を薙ぐことくらいはできるだろうなァ」


 ん? 少し様子が違うような――


「所詮テメェらでは厄災の獣を打ち倒すことはおろか、子に相対(あいたい)することすら危うい。そンな奴がいたところで邪魔になるだけだ。よって消えろ。ここでテメェの旅を終いにする」

「厄災の獣……? なんだそれはなんのことを言っている!?」

「あァン? もしかしてテメェ、《《罪無き子》》のくせに厄災獣(タナトス)も知らねェのか」


 老人の放つ圧に負けて押し黙っていると男はおよそ老人が発するそれとは違う、ゲラゲラという人を馬鹿にしたかのような笑い声を高らかに上げる。

 しかし、この男の発した言葉。聞き覚えはないはずなのに耳にした瞬間胸が掴まれるような感覚に襲われた。何か自分と関係があるのか。何か――


「オイオイオイ、愉快だなテメェよ! いいぜ、このジジイが懇切丁寧に教授してやるから耳の穴かっぽじってよォく聞きやがれ!」


 そうだ、忘れていた事とはこれの事もある。

 先程まで戦っていた対厄災獣疑似生物アンチタナトスクリーチャー、これが何のために作られたとかそもそも何なのかとかまだまるでわかってないのだ。

 厄災の獣、というワードを聞いて反応しなかったのは自分一人。

 つまり同じく田舎育ちのツヴァイスでも知っているくらい有名だということになるが。


「いいか、厄災獣ってのは約百年前に突如現れた黒き獣のことだ。そいつが出現して半月で世界人口の半数が消し飛ばされた、って話だ」

「その獣の一撃一撃が必殺、その当時の熾天使いが束になっても時間稼ぎをするのがやっとだった。そんな時、救世主が現れたのよ」

「唐突に現れたその男は単体で獣とほぼ互角に渡りあい、戦いの末に獣の封印に成功。唐突に現れた男は今度は音もなくどこかへ消え去った、ってぇ話だったな」

「絵本で読んだことがあっただけだからてっきり空想のお話かと思ってたけど、本当にあったことなの?」

「あったからこうして動いてンだろ。ンでだ、ここからが本題ってわけ」

「封印が解け始めている、だな」


 へェ、と老人は少しだけ感心した様子でエドガーを見やる。

 目線のあったエドガーは動じることもなく互いに視線を逸らすことはない。

 そして――


「ハッ、若ェな」

「どの口が言うか若造」

「《《おもてっつら》》だけの物言いだな」


 まァいい、と老人。ほんの少しだけ不機嫌そうな様子で話を続ける。


「《《子》》が世界中でちらほらとその存在を確認されるようになった」


 ガブリエラはガイナが訊くよりそれより早く「厄災獣の手下みたいなものよ」と説明をして、「それが出てるということは親玉の力も戻ってきてるってことになるわね」と当たり前と言いたげな口調でそう続けた。

 百年時が経ってすごくヤバイ奴が復活しようとしているという解釈で大丈夫だろうか。だとするとだんだん話が見えてきた。

 やっとこさ封印できた厄災獣というものが復活しようとしているからそれを倒すためにこの老人は行動している。そして察するに俺達のこの旅すら目的も倒すための……?


「正確には獣を倒せる可能性のあるものを育成するための旅、アナタをね」


 俺を? 何故? 確かに自分は弱くはないという自信はある。だが、しかし、俺なんかより強い奴がいるのは外に出てきて嫌と言うほど思い知らされた。現にここにいる人間のほとんどは俺より強く、ツヴァイスでさえ自分の力の及ばない魔法を使える。 特にこの老人においてはおそらくここにいる誰よりも現時点においては強いはず。なのに何故ガブリエラは俺を名指ししたのか。

 ……あぁ、違う。思い出した。俺の旅の始まりは親父じゃねぇか。親父が旅に出ろ、と言ってそれと行動を共にするようにガブリエラへと依頼した。つまり親父は俺が厄災を倒す可能性を持つと思っている?


「親父は何を考えてるんだ……」

「親父、だと?」

「ガイナ・クォーノス、俺の親父だ。その親父に言われて俺は旅を始めた。多分俺が――」

「……成程。彼の英雄擬きの息子、《《という扱い》》なのか。確かにコレを育てるのは人類の存族においては非情に有効であるか。――だが」


 ――今までの比にならない程の殺気を感じる! それこそそれだけで気を失いそうな程に……!

 ってまた何か雰囲気が変わったような……。


「そこまでにしておきなさい。アナタがアノヒトと何の関係があるかは知らないけれど、コノコに殺意を向けるのは間違っていると思うわ。それに」


 と、一度ガイナに視線を向けて周りを見やるとガブリエラはあくまで笑顔を作りながら、


「ここにいる人間はそこそこ実力はある。邪魔どころか戦力に数えてもいいんじゃないかしら」


 と強気に言い放つがその頬を汗が伝っている。世界最高峰の魔法使いでさえも気圧されていて、ツヴァイスなど老人から視線を外すことすらできなくなっている。

 ――だがこの老人、《《どこかで会ったことがあるような気がする》》。

 この十八年、ガイナが会ったことのある人間の数などたかが知れている。それなのに思い出せない。だがほぼ確実に覚えがあるのだ。


「お前! どこかで俺と会ったことあるか?」

「……さて、《《罪無き子》》と邂逅した憶えなどないが。まあいい。《《正直、厄災の獣自体にはさして興味はない》》」

「興味が、ない?」

「むしろあの程度越えてもらわねば困る。……あの程度? 確かにアレは《《人類史における最高傑作》》、そう容易く踏破できるというものでもないか。いやいやしかしそれくらいの実力はなければ《《天上》》に届くことすら困難……」


 ――こいつは、なにを喋っている……?

 ただでさえ一気に情報を叩きこまれ整理が追いついていないのにこいつはいくつ上のステップの話をしているのだ。

 わからない、という顔をしているのはツヴァイス、ガブリエラも同様。エドガーだけは事情が違うようだが、それでもかなり嫌忌の表情を向けている。


「確かに排除するより利用した方が良いか。戦術的価値も《《こちら》》にはあるしな」


 視線を向けたのはツヴァイス。それを見たガブリエラはまさか、と。


「それはダメよ! いくら困難な道だからと言ってそれだけは――」

「そうか、それでも足りぬと思うのだが。一応教えておく。厄災が顕現すると思われるのは次の年明け、おおよそ半年といったところ、それまでに力を磨いておけよ。後悔しないように、な」


 それだけ言うと今度は瞬く間に姿を消した。

 結局あの老人はなんだったのだ。意味のわからない存在が意味のわからない言葉を吐いて意味のわからないタイミングで去って行った。こんなに恐怖に似た何かを感じたことは一度もなかった。

 どっ、と力が抜け落ちてツヴァイスとガイナはその場に座り込む。熾天使いも安心したのかふう、とひと息大きく吐いた。


「なんだったんだあいつ」

「さぁ。でもワタシ達はこの旅を続ける必要がありそうね。ワタシも含めてだけどこの世界のことを知らなさすぎるような気がするの」

「そんなことは旅をしてるうちにわかんだろ。わからないことはいくら考えても無駄、無駄なんだよ。時間の無駄。それよか次の目的地はどこさな」

「あ、あぁ、それなら確か近くに大きな町がありましたよね。気分転換というか気晴らしにでもそこで少し休んでいきませんか?」

「それはいい。近くと言っても二週間くらいはかかりそうなとこだけど、そこの間に小さな村もあるし、一旦そこでも物資の補給くらいはしておきたいわね」


 ここには結局何もなかったし、と付け加える。

 とはいえガイナ的には収穫がなかったわけではない。この旅の真の目的を知れたのだ。未だ全貌はみえてこないがやるべきことだけははっきりしてきた。


「ってそんな目的があるなんて、最初から言ってくれても良かったじゃないか」

「ワタシ自身も半信半疑だったのよ、厄災の獣なんて話。あの『閃光のマキナ』の話でもおいそれと信じられないわよ」

「誰かも言ってたけど、その閃光のマキナって何さ。親父そんな名前ついてるの?」

「マキナ・クォーノス、通称閃光のマキナ。光の如き剣筋にて相手を圧倒していたと言われてる。あんまり表に出てこないから閃き、閃光のマキナ。そもそもこの通り名も一部の人間の間で勝手に呼ばれてるだけだから気にしないでいいと思うわ」


 気にしないでいいと言われると気にしてしまうのが人のサガ。とはいえガイナ自身もそこまで気にしていることでもなかったのでこれ以上言及することはなかった。

 ……兎も角、エドガーのようにわからないことは気にしない。気にするべきは次の目的地。


「次はサランバーナ、辺りでは一番大きく栄えた太陽の町。目的も定まったわけだしここで休息がてら本格的に資料集めでもしようかしらね!」


 そこには大きな図書館があるという話も聞いたことがある。男達は今回のことをあまり気にしてはいないみたいだが、ガブリエラはそうというわけにはいかない。

 なにせ熾天使い、世界最高峰の魔法使いともあろうものでも知らないことがあるなど彼女のプライドがそれを許さない。

 休息なんて生温い。自分だけでも情報を集めなければ。

 お兄さんの愛するこの世界を守るためにも――

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