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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第三幕「狂犬は夜に吠える」
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「act'05 姉降臨!(文字通り空から)」

 ファインと呼ばれた女性は全体的に白を基調とした服で赤い紋章のようなものが一つ、大袈裟になびいているマントにもそれと同じ紋章、燃えているように紅い瞳に紅髪のスレンダーな体型、そんな人だった。

 ファインが地に足をつけるなり周囲を確認、無造作に転がっている肉塊を見て明らかに顔を顰めた。


「なんて惨状、なんて異臭、なんて無様。聞いていたよりも最低な状況なようだわね……」

「聞いていた?」

「私は先にこの山に入っていた鬼剣舞という女性の要請で駆け付けたのよ。二、三時間前には反応があったはずなのですけれど……、この様子ですと生存は絶望的ですわね」

「アンタに頼るのは癪だけど、そろそろワタシ達ガス欠なのよね……」

「理解していますわ、この状況に一番適している魔法使いが誰なのかを。バカでもそれくらいはわかるようで結構ですわ!『炎紋章焼毒ファイアレム・ディスポイズン』!」


 そう唱えるとファインを中心に紅色の炎が広がってA.T.Cアンチタナトスクリーチャーの体を焼いていく。その炎はそこら一体に広がっている黒い霧でさえも焼き飛ばす。

 そんな高火力の炎が自分達にも迫ってきているのをガイナも肌でヒリヒリと感じていた。


「おいおいおいおいやばくないかこれ! 俺達も焼かれない!?」

「あぁ、焼かれるな。アイツがオレ達を《《毒》》だと思っているなら、な」


 エドガーがそう言った直後、直視すれば目が潰れてしまうのではないかと疑ってしまうほど眩い熱に包まれた、はずなのだが特に何も起こらなかった。否、それは正確ではない。正しくは身体がほんのり温かい。それに心なしか先程まで体を支配していた疲労感が軽くなっている気がする。

 『炎紋章焼毒ファイアレム・ディスポイスン』、自分が毒だと認識したものを全て焼く高等治療魔法なのだが、ファイン自身がこれを使う時、治療魔法として使用したことはほとんどない。

 周囲を見渡し何か意図しないものが燃えていないか確認、何事もなかったことを確認するとほっと息を吐いた。

 先程は黒い霧のせいであまりよくは見えなかったが、見れば見るほどツヴァイスにそっくりでその深みのある紅い瞳は見ているだけで吸い込まれそうなほどである。

 ……しかしガブリエラと比べるとどうしようもないほどかb――


「あァン? 何かおっしゃいましたか?」

「え、いや何も言ってないが……」


 これは酷い。何も言っていないのにこの態度、心を読まれているとしか思えない。


「読んでるのよド三流。その程度でよくこの女のパートナーが務まっていますわね。まあそれに? 巨乳だからと良いというものでもありません。巨乳は兎に角動きづらいですから邪魔でしかありませんわえぇ。なんて余計、なんて余分、なんて無駄な肉なのでしょう。それに比べひ……、慎ましい方が非常に動きやすく、肩こりに悩まされることもないですし、何より見た目が美しい、無駄肉は下品です」

「アナタの場合慎ましいとかいうレベルじゃなくてそもそも無いんじゃない? エドガーの方が胸大きいんじゃないかしらー?」

「むきー!なんて下品、なんて不作法、なんて汚らわしい!やっぱりこんな人助けるんじゃなかったわ!」


 そしてそろそろ気になっている頃ではないだろうか。この女性が何者なのか。ガイナはすごく気になっていた。

 彼の聞き間違いでなければ最初、ガブリエラはこう叫んだのだ。

 ――ファイン・アンデ・シュタイン、と。


「その疑問に答えましょう。私はファイン・アンデ・シュタイン、魔法協会直属第二魔装師団団長ですのよ」


 ……また新しい単語だ。やはり山籠り生活だったガイナにとっては知らないことばかりの世界なのだ。

 魔装師団というのは魔法協会直属の魔法使いのみで編成された特殊部隊のこと。表向きは魔法という技術が普遍化しているこの世界の秩序を守るために活動している集団なのだが、裏では魔法協会にとって不都合なモノをもみ消す為に活動している要するに尻拭き役である。

 そしてその第二魔装師団団長は優秀な魔法使いで特に火を扱わせたら魔装師団中に右に出るものはいないとの評判だ。


「まぁだからと言って悪い集団というわけでもないから安心なさい。特に第二師団は真っ当に活躍してるから」


 そして――


「お、お姉ちゃん……」


 ツヴァイスの姉でもある。

 妹を見るなり驚いた表情を見せたと思えば一瞬にして険しい顔つきとなった。


「あなた……、また悪魔と契約したのね」


 後ろめたそうに目線をそらす彼女に大きなため息を一つ、怒るというより叱るといった感じで大きくこら! と叫んだ。


「悪魔との契約はいつだってリスキーですの。特にあなたは契約する悪魔を定めていない、その時欲しい奇跡が起こせる悪魔を無作為に抽出しているのよ。今は偶然弱い悪魔ばかり引いているから寿命を渡す《《程度》》で済んでいるものの、そのうち大きな存在と目を合わせてしまう可能性もあるかもしれないの」


 魔法において観測()るというのは重要なことで、特に大いなる存在など目を合わせたというだけでも呪われるケースがあるのだ。

 姉としては寿命を奪われるのもそうだが妹にそんな危険な魔法を使わせるわけにはいかないのだ。だからといってそのまま伝えても言うことを聞かないのは先程で実証済みであるので、姉はあえてこう言う。


「あなたのソレは切り札なの。いざという時あなたが悪魔に渡せるものがない、では困る。だからあなたはあなたの本当に大切だと思うものが危ない時にだけ使いなさい、わかったわね?」


 それに水属性魔法を極めた使い手が傍にいるのだからそれを伸ばしなさい、と小さく本人だけに聞こえるように呟いた。

 するとツヴァイスも小さくわかったと頷いた。それを確認したファインは少し笑み、一対の純白の翼を広げる。


「じゃあここのことは私が代わりにじい様方に報告してきますわね。何か《《伏せておいたほうが良い》》ことはあります?」

「そうね、じゃあここにはワタシ一人できていた、と言ってちょうだい」

「……わかりましたわ。ではあなた達の旅ができるだけ良いものになるよう祈っていますわ」


 それだけ言うと大きな翼をはためかせ飛び去っていった。

 ――なんだあれ。


「『神の力(エンジェル・ウイング)』、ある程度の魔法使いなら誰でも使える魔法よ。さて、ワタシ達も村に戻りましょうかしらね」

「こんな感じのことがこれから続くのかな……」

「なんだ、びびっちまったのかツヴァイス嬢ちゃま」

「安心なさい、こんなハードな任務はそうそうないわよ」

「そうだと信じたいけどな」


 一応ファインの活躍により解決(?)したこの事件について整理と、休息をとるために足早に村へと一行は戻っていくのだった。

 ――何か忘れているような気がするような……

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