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神の箱庭 〜Magic World〜  作者: 杯東響時
第三幕「狂犬は夜に吠える」
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「act03 負の遺産」

 『もう既に始まっている』。

 ガブリエラはその言葉と同時に自身の後方に氷の柱を精製し、舌打ちをした。

 その行動を見て男二人が、それに一歩遅れてツヴァイスが警戒を始める。


「《《何か》》いるわよ、気をつけなさい」

「まだ温かい血の臭い……。そこに人がいる!」


 氷のすぐ側、顎と下半身が何かに喰いちぎられたかのような傷を負った女性がそこにいた。顎がないせいかうまく話せずに呻き声だけをあげていた。


「冗談だろ……。よくもこんな状態で生きていられ――」

「まだ救える生命なんです! ぼうっとしてられますか!」

「待ちなさい!」


 制止を振り切り、真っ先に走ったのはツヴァイス。

 傍に駆け寄り、手をかざして集中――


「聖なる悪魔よ、我が契約に従い、この哀れなモノを救いたまえ。……お願い、この人の傷を治してあげて」


 詠唱。それをしたというだけで女性の傷はみるみる回復していき、そこに無かったはずの肉も再生していった。


「悪魔との契約、闇属性魔法……」

「悪魔?」

「悪魔っていうのは悪い魔と書くのだけれど別に悪いものというわけではなくて、単純に天使とは違う存在なんだっていうのを示す為にそう呼んでるということになってるわ。『箱庭の守り手(アークメイガス)』が訛っただけとも言われてるけれど……、って説明している場合じゃないの!」

「まだ回復し終えて――」

「霧であまりよくわからないけれどその人には魔力が継続的に流し込まれているように見えるわ。魔力は全ての生命の源、無理矢理生かされている。つまりただの餌よ!」

「それでもまだ生きてます、どうこうするのはそれからでも遅くないはず!」


 強く叫んだ女の袖を弱々しく引っ張る腕があった。その腕の主は小さくボソボソと何かを呟いていた。

 ——それが聞き取れていれば結果は変わっていたかもしれない。

 ツヴァイスは女性が生きているということに喜んでしまっていた。

 ガブリエラは警戒をしなければならないとわかっていたはずなのに一瞬安堵してしまっていた。

 ガイナは魔法というまだまだ見慣れない技術に見惚れてしまっていた。

 女性はこの期に及んで恐怖で筋肉が強張ってうまく発声ができないことを文字通り《《死ぬほど》》後悔した。

(みんなまだまだ甘ちゃんだな)

 刹那、がぶりという音をたてて女性の頭部は喰いちぎられたのだ。頭を支えるように持っていたツヴァイスの手首ごと、だ。


「———————————————————————————え?」


 状況が理解出来なかった。

 数メートル先には何かを咀嚼している様子の黒い犬型の何かがいて、口からは美味しそうに血糊を垂らしている。

 犬、と言っても黒い霧に混じりそうなほど輪郭が曖昧ではっきりわかるのは鮮血の如く紅い瞳があることだけだ。


「——えぇ、えぇ、なんてこと。紅い瞳、黒い霧、研究所、気付くべきだった!あのクサレジジイどもがぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「あ。あ、あ。ぁあ、あぁあああぁあぁぁあぁああああぁあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 少女の悲痛な叫び声で現実へと引き戻されたガイナは時間加速(クロックアップ)で剣を抜くことさえせずに犬型のそれを殴りつけた。

 即座に腰に提げていた二刀の短剣を構え再び突撃――


「人の話を――」

「聞いてる場合か!」

「アナタは聞いてる場合よ!」


 制止を聞かず何かを斬って、


「なっ――」


 何かの切り口から霧状の何かが噴出したのだけを認識した刹那、ガイナの身体を氷が覆い、数メートル先に飛ばされた後解放された。解放されたガイナが次に見た光景はいつの間に増えていたのか数えきれない程の犬型の何かと、手首を魔法で治したツヴァイスであった。彼女はまだ《《イタむ》》のか治ったはずの手首をずっと握っていて、何かボソボソと呟いている。


「くっ、アレはなんだ!?」

対厄災獣疑似生物アンチタナトスクリーチャー、魔力によって生み出されたいずれ来たると言われている厄災獣に対抗する為の兵器よ」

「厄災獣……?」

「……アナタにはいずれ講義を施す必要があるみたいね」


 襲い掛かってきた一匹を魔法の氷に閉じ込めて、三人はツヴァイスを囲む形でそれぞれ構えていた。

 見間違いかと願って目を凝らしよくよく見たものの現実は変わらず、二十、三十、数えるのもバカらしくなるほどの獣がそこにはいた。


「アナタ達は手を出さずに黙ってみてなさい!」


 言って腕を一振り、それだけで周囲を巨大な氷柱が覆い、外からの干渉の一切を防ぐ。

 とはいえ、外からがりがりという音が聞こえているのは氷が削られる音だろうか。気付けば《《百以上の魔力反応》》が察知できる。そう長くも持たないはずだ。


「猶予もないから要点だけ伝えるわ。一つ、アイツらを倒さないこと。倒してしまったら猛毒が噴き出て、これをまともに食らえばいくら薬で毒を抑え込んでると言っても持たないわ。同様の理由で噛まれる、傷口に触れられるのもアウト」

「つまり触れられずに、かつ倒さずに応戦しろってか? それはかなり困難極まるな」


 出来ない、とは言わないあたり流石熾天使いといったところか。

 倒さず応戦、というのにいまいちピンときていない素人二人。さっき見せた通り凍らせるの、とガブリエラ。

 確かに倒さずに傷口も作らず封殺することができる、なるほど完璧な作戦。


「実践レベルで氷を使えるやつがガブリエラしかいないという点を除いてよォ~~~~~」

「私使えるよ氷」


 名乗りをあげたのはツヴァイス。お前、氷使えたのか。


「それは心強いわね。ワタシがアナタ達に武器をあげるわ。ガイナには短剣、エドガーにはグローブ、ツヴァイスには必要ないわね?」


 頷くツヴァイス、それに遅れて男二人が頷いたがガイナには一つ疑問点があった。


「それは大丈夫よ。ワタシが魔法で作った武器よ。それで攻撃をすれば打撃点から氷が広がって対象を氷漬けにするように出来てる、心配しないで」


 また心が読まれた……。


「しょぼくれなさんな。じゃあ合図とともに行くわよ、3、2、1」

「Feuer!」



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