第20悔 『デ・ナイルの賜物』
幼年学校から合格通知が届いた日の晩餐後、(見事だ!)と“エリクソン”さまは私の部屋で叫んだ。
とても喜んでいたっけ……。
(君の初めての作戦でもあったな、ゾーイー! 名づけようではないか)
「作戦名をつけるってこと?」と数瞬考えた後、エリクソンの階級を取って「じゃあ、『大佐の愛』作戦!」と私は発表した。
急に“エリクソン”さまとの間に、少しばかり気まずくもずっと前から望んでいた空気が流れた。私たちは、お互いを喰い尽くすかのように求め合いベッドに倒れた。
その夜、私は大佐に処女を捧げ、そして想像の中で“妊娠”した。
入学時の身体検査で“妊娠”が発覚することはなかったが、女であることが担当の中年男性医師ポン・デ・ナイルによって知られてしまった。
あとから知ったことだが、これは幼年学校に限らず、軍隊に入る時には必ず行われる発育状況と性別を確認する股間検査によるものだった。
こんなこと聞いてない!
と当時の私は涙目になったが、あとの祭りだった。
「おやおや、これはこれは……」とデ・ナイル医師はゆっくりと立ち上がると診察室の出入り口に向かい、ドアに鍵をかけた。
恐怖から振り向くことすらできない私に、背後から〈シャブーバ〉と殊更大袈裟に舌なめずりの音を立て聞かせてみせた。
「分かってるよね?」と白衣を脱ぎ捨てフル・フロンタルになったデ・ナイル医師の姿は、今でもたまに悪夢となって現れる。
「か、堪忍してください」という私の懇願は逆効果だった。
俄然、いきり立った肉製の張形を両手で愛でながらデ・ナイルは「いやはや、どうもおかしなところがあるようだから、先生がしっかりと治してあげるよ」と言って、その極太の一物を私の口の中に突っ込み“検温”し始めた。
「うむ! 三十六度五分と言ったところか。絶好の種付け日和よ!」
そこから筆舌に尽くし難い辱めを受けた。
一生、決して忘れることのできない“診療”だった。
思い出したくもないが、私が受けた凌辱について、ひとつだけ言えることがあるとすれば……後に、メルモモ・カベルスキーという女性作家が書いた私の伝記から引用するのなら――
《 すべての“施術”が終わった時、逆さに磔にされた彼女の肉壺には、医師が発した白い溶岩がなみなみと注がれていた。それは、やがて若草萌ゆる恥丘と褐色の美しく小さな丘の谷間を流れ落ち、まだ幼さの残る顔を無慈悲に穢した。 》
――ということだ。
「今後も我が賜物を敬うのだ、“グンダレンコ”くん」
そう言ってから医師は私を解放した。
それは、女であることを黙っていて欲しければ……、という恐喝であり、ゆすりの言葉だった。
《 長時間に渡り――開脚したままの急角度屈曲位という――無理な体勢で種付けされ続けた彼女の脊椎は損傷しており、以後、鋼鉄製のコルセットで首から腰までの骨を固定しないと歩行すら困難な状況が数か月続いた。もちろん、そのコルセットを用意したのもポン・デ・ナイル医師だった 》
~メルモモ・カベルスキー著 『イヴァノフ/淫靡な牝狼』より抜粋~
「読んだ女の子が軍人に憧れるような、子供向けの伝記を書きたい」という依頼だったので取材を受けたが、出来上がってきたモノはまるで官能小説だった……。
初回限定版には特典として『黒鉄のコルセット(レプリカ)』が付いてきた。
もっとも、わいせつ物頒布の罪で伝記はすぐに絶版となったので、アレを持っているものはそうはいないだろう。
いたら……そいつは生粋の助兵衛野郎だ。逮捕されたメルモモ・カベルスキーは二五〇万グレットの罰金を支払った。
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「アレ、だ……」
イヴァノフは朦朧としながら“アレ”の到着を待った。
救護係長ナナイは何のことかさっぱりわからなかったが、「はい、今すぐ。大丈夫ですよ、今、出ました」と手を取りながら答えた。
反対側の手を同じく握るファニチャードが「うん、うん」と頷いてイヴァノフを安心させようとしていた。
すると意外な事に、後悔三銃士のリーダーが“アレ”を持って駆けつけた。
「ナナイさん! これを着けてあげて」とタイタス。
「これが……“アレ”? ですか?」とナナイ。
それは『黒鉄のコルセット(レプリカ)』だった。
「す、助兵衛野郎が……」と言いながらもイヴァノフはタイタスに親指を立てニヤリと笑った。
第20悔 『デ・ナイルの賜物』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆