天上界の時間(西遊記第4回から)
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西遊記の第4回で天上界から戻って来た悟空が地上とに時間の違いにびっくりする下りがある。それに対して長老の手長ザルが『天上界の1日は下界の1年に当る』と説明している。
これは天上界の位置を同定する上で極めて重要な情報と言えよう。いくつかの可能性をここに挙げる。
*特殊天上界理論
天上界が超高速(殆ど光速)で動いている為、体験時間に差が出るというもの。天上界が下界に近いにもかかわらず未だに観測されていない事実をも説明するので、非常に有力な説とされている。そのように高速で移動し、しかも地球の近くに存在しているという事は、強力な加速度が常にかかっている事を意味する。簡単な例として地球の周りを高速で周回ている場合を考えると、地球の重力と遠心力は全く釣り合わなず、たしかに、天上界は常に強力な向心加速度を受けている事になる。この加速度により体験時間に差は更に拡大される。
さて、相対速度がかくも高速な天上界と下界の間を行き来する際には、強力な加速度を経験する。従って、極めて短い時間で移動すると、並みの身体はバラバラになる。逆に言えば、天上界と下界を自由に行き来する為には質量ゼロの体、即ち仙体が不可欠となる。ただ、いくら悟空が仙体でも、前述した有限質量の金箍如意棒を下界と天上界の間で移動させるにはかなりのエネルギーが必要であり、その点において非現実だと指摘さされている。
*一般天上界理論
天上界が非常に重い為に、体験時間に差が出るという説。この場合の体験時間効果は上記とだいたい一緒である。ただし、そのように重い存在なら、地上へ膨大な影響を与える筈だという問題点がある。この問題点を顧みて、一般天上界理論で特殊天上界理論を補強する立場があり、それによると、有限質量の天上界が高速回転している状況について考えなければならない。残念ながら筆者にその計算を遂行する能力はない。
*天上界 Laglange point 説
地球と太陽の重力のつり合う地点(もしも天上界が地球の回りを公転していたら全部で5ヶ所ある)に天上界があると言うもの。第1ラグランジュ点(純粋に重力だけのつり合い)の場合、天上界はずっと昼であるから、夜を経験する為に、年に1度、第2(第5と云う場合もある)ラグランジュ点に移動している筈である。現在のところラグランジュ点観測を目的とした人工衛星は打ち上げられていないので、今後の研究を待つ。
*天上界金星説/同水星説
金星並びに水星は自転が非常に遅く、星の自転と星の公転は似たような時間(精々2-3倍の差)である。従って、これらの星では1年(1金星年)も1日(1金星日)も同じである。殊に金星は自転に200地球日以上を要し、雲に覆われ、気温が高い(ちょっと高すぎるが)から、天上界の記述にかなり合致している。
*天上界小惑星説
上説の亜説。太陽系にはまだ見つかっていない小惑星が沢山あり、そのうちの一部はガスを吹き出しているから、その何処かに天上界が紛れ込んでいるかも知れない。
*天上界太陽系外惑星説
1日と1年とをする記述に会う星はあるだろうが、問題はその距離で、如何にキント雲といえども光速は超えないから簡単には行き来できず、西遊記の後章の記述と矛盾する。
*天上界極点説。
最後に現時点で最も信じられている説を紹介する。北極点では太陽は春分頃に昇り秋分頃に沈む(南極点ではその逆)。従って、極点付近の上空は1年が1日である。さらに地上こそ南極北極は寒いが、成層圏で温度があがり、2000年前だと住める温度かもしれないから、天上界が存在していたとしてもおかしく無い。成層圏の上空だけでなく、電離層あたりの高度も同様に温度は高い。
ただし、この極点説にも異論がある。それは、体感時間の1日はあくまで中国時間の1日に等しい筈であって、1年と取り違える筈がないというものであり、この問題点は極点説のみならず惑星説一般に共通する。ただし、この異論には生理学的立場から反論もあり、それは体感時間が食事の回数で決まるはずだというものだ。天上界の住人である仙人は「霞を食べる」という表現があるように新陳代謝が低く年1食べるでもおかしくないからだ。現に極地のプランクトンは1年1食だそうだ。
revised 2006-4-20