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よいこのための、さいゆうき  &  西遊記の現代科学  作者: 何十億人か目の西遊記ファン
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金箍棒の重さ(西遊記第3回から)

「西遊記の現代科学」の続きです。旧自サイト閉鎖に伴ってこちらに移動させました。


旧自サイトでも宣言したように著作権を放棄します。(原作者を騙らない限り)改変・再使用はご自由にどうぞ。

 悟空の武器と云えば金箍如意棒がすぐに思い浮かぶ。その重さと自由に伸縮する性質と、古来の猿回し大道芸でサルが棒に使われるところを逆に使いこなしている爽快さから、西遊記ファンの人気を博してきた。人気はそれだけではない。「如意」の名前の通りに自由に伸縮する性質が、古今東西の科学者の耳目を集めて来た。

 いわく、水等の液体を吸い込んだりすることによる膨張と収縮ではないか?

 いわく、ナフタリンのように常温で昇華する物質が内部につまって、その気化・凝結による膨張と凝縮ではないか?

 いわく、じつは爆発による膨張で、その度に質量を失っていく消耗品ではないか?

 いわく、じつはこの消耗は何らかの方法(例えば石猿の耳あか)で補充可能なのではないか?

 いわく、単純に膨張率の極めて高い新素材なのではないか、等等。

 これらの謎は未だに解決していない。


 さて、この最大の謎に隠れて、その重さもまた1つの謎とされている。伸縮については後ほど考察する事にして、ここではその重さについて考える。


 金箍棒の重さについては第3回に記述がある。東海龍王の所から手に入れた時の13500斤という記述であり、参照として7200斤と3600斤の重い武器を悟空が試して「軽すぎる」と評している。1斤という重さの単位は時代によって変遷しているが、13500斤という数字はどう少なめに見積もっても数トンに相当する。

 表記の上では重さであり質量ではないが、西遊記の書かれた元末期には銀の質量を量る天秤型の質量測定器が両替商に普及しており、単純に重さと質量を区別していなかっただけで、質量という概念はあっただろうと思われる。ましてや、これら3つの武器(金箍棒は武器ではなく大地を固める道具であるという表記があるが、ここでは武器として扱う)には、重量表記があり、両替商に行っても通用する「質量」概念として数字が与えられている可能性は高い。


 ところが、これらの数字を質量と見なすと、重大な問題が発生する。

 それは金箍棒が時折針の大きさになって耳にしまわれる事だ。しかも悟空が蟻のように小さくなった時ですら、悟空に比べて遥かに小さくなるという事になっている。つまりミリメーター以下のサイズだ。

 質量保存の法則によれは、金箍棒は微小サイズになってすら数トンの重さを保持している筈であり、それから密度を計算すると1立方センチあたり数千トンを遥かに越える。これは天文学的数字である。たとえば白色矮星の密度は1立方センチあたり1トン程度しかない。もちろん、中性子星の密度は1立方センチあたり10億トン程度もあるから、数千トンという数字は不可能では無いが、現実離れした値である事は確かである。

 

 ここに盲点がある。それは、これらの武器の重さを量る際に、どのような手法を用いたかということだ。というのも、これらの数字は海の底で計った値である可能性が高いからだ。

 悟空が金箍棒を手に入れたのは東海竜宮であり、そこは西遊記第3回の記述によれば、花果山水簾洞の真下にあたる。花果山は日本海溝または琉球海溝沿いの火山島だから、海底深度は島から一気に2000mぐらいまで下がり、竜宮が海溝内(最深7000-8000m)に存在する可能性すらある。そういう深海での測定は、当然ながら地上とは条件が異なる。

 

 海底における重さの測定は、浮力と水圧の2つの要素を加味しなければならない。測定装置がバネ式の場合、水圧が加わっており、それから武器の浮力を差し引いた値が武器の地上での重さである。

 水圧は深さ10m毎に1kg/平方センチ増える。東海竜宮の深さを浅めに1kmと見積もっても、0.1トン/平方センチであり、もしも測定装置(重量計)の断面積が100平方センチ(10cm平方)だとすると、それだけで10トンの圧力がかかるのであり、金箍棒の13500斤という重さに匹敵する。この場合、金箍棒の質量は誤差範囲となる。

 一方、浮力の効果は、武器の形状と密度によって異なる。特に海流が存在している場合は、形状による浮力が極めて大きく効く。現に参照となった2つの武器は如何にも海流浮力を受けそうな形状であり、浮力の少なそうな金棒とは全く違う。悟空がこれらを軽いと思ったのも、単純に浮力の違いかもしれない。

 

 結論は1つしかない。即ち金箍棒の質量は、その重さ13500斤という記述からは全く分からないという事だ。はっきりしているのは殺傷力が十分にある重さであるという事だけである。


written 2006-4-16 (revised 2020-8-30)

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