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8.「強すぎた彼女と危険なアイテム」

 俺は今、思いもよらない出来事に驚いていた。

 何度も目を凝らして見てみるが、やはり現実に起きている。

 恐らく、ここにいる全員が予想もできなかったことだ。

 まさかこの場に助っ人が登場する展開が来るなんて、誰も考えていなかっただろう。

 それも女子高生四人組が、だ。



 誰かに助けを請う訳でもなく、妹を救うため、俺は一人で何とかしようと敵陣に乗り込んだ。

 しかし、いざその場に直面して、無力にも容赦のない暴力を喰らい続ける一方だった。



 正直、後悔している。

 助けを求めなかったことではなく、この状況を打開することができない自分の無力さに。

 だから、今ここで颯爽と登場した助っ人に嫉妬した。

 なぜなら、彼女たちがこの状況を圧倒云う間に打開してしまったのである。



 それは一瞬の出来事だった。

 動揺したヴォルケーノがその四人組に襲い掛かるように指示を出した。

 周囲の連中は一瞬遅れて動き出す。

 その後の展開は本当に呆気ない終わり方だった。



 直後に四人組の一人が走り出し、すれ違いざまに襲い掛かった全員を薙ぎ倒してしまったのだ。

 鮮やかで無駄のないアクロバティックな動き。

 まるでハリウッド映画でも見ているかのようだった。

 だが、これは紛れもない現実の出来事。

 それを可能にしてしまったのが、あの大空リオだった。



「ウソ・・・・・・だろ・・・・・・」


 俺はあまりの衝撃的な光景に唖然としてしまう。

 まさかこんなに強いだなんて、あの細い体型では考えられなかった。


「全く準備運動にならなかったです」


 当の本人は、まだ余力が残っている様子である。

 正直、それにもビックリだった。



「本当、相変わらずえげつない強さね。まあ、だからこそ頼りになるんだけどね」


 若干ひきつった顔になりつつも、リオの強さを評価するカオル。

 しかし、他の二人は怯えていたり、本当に引いていたりと心境はバラバラだった。

 まあ、気持ちは分かる。



「な、何なんだよ・・・・お前ら」


 仲間を全員戦闘不能にさせられたことにより、ヴォルケーノは狼狽えてしまっていた。

 それは先程までの余裕はなく、焦っているようにも見える。



「さあ、残るはあんた一人よ。大人しくわたしたちと一緒に来てもらうとこれ以上の危害を加えないんだけどね」


 カレンはまるで自分がやっとかのように、自慢気に答えた。

 いやお前何もしてないよね?と指摘したかったが、確かに彼女の言う通りである。

 状況は一転してカレンたちが優勢となっている。

 リオの化け物じみた強さを前に、ヴォルケーノは太刀打ちできないだろう。



 勝った・・・・・・・・。


 自分自身が何もできなかったことは癪だが、とにかくナツナを無事?に助け出すことができる。

 俺は完全に安心しきっていた。



「・・・・・・・・・・く、く・・・・・・くくく・・・・・・」

「?」


 直後、俺はヴォルケーノの違和感を察知した。

 そいつの顔は下に向いているため、表情ははっきりと見えない。

 しかし、間違いなく笑っていたのだ。


「くくくく、ゲハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!!」


 そして、気が狂ったように高笑いをし始める。

 俺はそれを見て、嫌な予感がした。



「なーーーに勝手に勝ち誇ってんだテメー、ああ?」


 ヴォルケーノは不気味な笑みを浮かべながら、カレンたちを睨み付けた。


「確かにテメーらの存在も強さも、この状況も想定外だ」


 想定外なこと多いな、オイ。


「けどよ・・・・関係ねーーーんだよなーーー、これが」


 そう言うと、ポケットから小さなチップを取り出して見せた。



「ナーツカ、俺はな、長いこと力を使えなくてストレス溜まってんだよな。だからさ・・・・・・」


 左手首に巻き付けられているデバイスにチップを挿し込んだ。


「腹癒せに、お前ら皆殺しにするわ」


 そう宣言すると、突如として奴の両腕が発火したのだ。


「オラァヨッ!」


 そして、俺やカレンたちに向けて炎を投げつけてきた。



「危ねっ!?」


 俺は咄嗟に避けようと、飛び出し転がった。

 静止した直後、激しい爆音と吹き荒れる爆風。

 それらが横になった俺の背中を襲う。

 すぐに自分がいた位置を確認すると、焦げた地面と細い黒煙が上がっていた。

 あのまま避けなかったらどうなっていたか、考えたくないものだ。



 チラリとカレンたちの方を見ると、四人ともそれぞれ別の位置に移動していた。

 どうやら無事に回避できたようだ。

 それで一瞬安堵しかけたが、ヴォルケーノに視線を戻したことで、再び緊張感が走る。



 また、攻撃を仕掛けようとしていたのだ。


「おいおい、避けんなよ。久しぶりに使ったってのに、外すと幸先悪くなるじゃねーかよっ!」


 そう言って、再度炎を投げつけてきた。

 無作為に放たれるそれらは、倒れている仲間すら吹き飛ばしてしまう程、容赦がなかった。

 いや、そもそもこんな奴が仲間のことを考えている程、慈悲があるとは考えられない。

 恐らく、捨て駒程度としか見ていないのだろう。

 まあ、そんなことを考えるよりも、妹をこの火の雨から救い出すことの方が最優先だ。



 俺はなんとか降り注ぐ炎を避けながら、ナツナの方に駆け出した。

 途中、飛び散る火の粉で、身体の至るところが火傷してしまう。

 それでも俺は大切な妹を救うために、足を止めることはなかった。


「ナツナーーーっっ!!!」


 名前を叫び、妹のいる場所に辿り着いた。

 そして、身体を抱えると、そのまま炎が届いていない物陰に走った。



「大丈夫か、ナツナ!」


 到着してすぐに座らせ、俺は口元の布や手足の麻縄を解いてやった。


「お兄ちゃん!」


 ナツナは瞳に涙を浮かべて、俺に抱きついてきた。


「もう大丈夫だから」


 そう言い泣き弱れる妹を宥める。

 しかし、助けられたからといって現状が最悪なことには変わりなかった。

 正直、全然大丈夫ではない。



 向こうがどうなっているか、陰から覗いてみることにした。

 案の定、ヴォルケーノは休むことなく、火炎弾を投げ続けている。

 奇妙な笑い声を上げ、とても理性のある人間が取るような行動には見えない。



 そして異能調査部の四人に関してだが、こちらは防戦一方で辛うじて攻撃を避けているようだった。

 リオが途中近付こうと何度も試みているが、無数の炎でそれを遮られてしまう。

 最悪なことに、四人とも息が上がっており、力尽きるのも時間の問題である。


 くそっ、一体どうすれば!


 俺は左腕に取り付けているデバイスに目を落とした。



 もし今ここで力を解放すれば、この状況を打開することができるかもしれない。

 しかし、異能力の使用は法律で禁止されている。

 ゆえに力を使ってしまえば、間違いなく司法によって罰せられるだろう。

 例え如何なる正当防衛であってもだ。

 しかし、それ以前にこの力を使って、本当に状況を打開できるのだろうか――――――――――。



 それからどうするべきか考えていると、リオとカレンの間で何か話している声が聞こえた。


「ねえ!!これちょっと不味いんじゃない!」

「そんなの、見れば分かりますよ!どうするんですか!もういっそ、特権使っちゃいます?」

「ええ!?」

「特権使っちゃいますかっ!」

「滑稽!?」

「特権っ!!」


 と、年寄りの会話みたいなやり取りが聞こえたのはさて置き、『特権』というワードが連呼されていた。

 一体それは何なのだろうか。



 二人の会話はまだ続いていた。


「でもあれ結構めんどい縛りがあるから、使いたくないのよね!」

「言ってる場合ですか!?こういう時にこそ、使うべきでしょ!普段からどうでもいいところで使いまくっているんですし、別にいいでしょ!」

「背負う責任の重さが違うでしょーが!少しは考えなさいよ!」

「何でわたしが逆切れされてんの!とにかくこのままだと全員やられますよ!?」

「・・・・・・ああもう、分かったわよ!使えばいいんでしょ、使えば!」


 リオの要求に根負けしたようで、カレンは声を上げた。



「いい?こっから先は好きに暴れていいけど、加減しなさいよ!怒られるのはあたしなんだからね!」

「了解です!」

「はい!」

「りょーかーい」


 それぞれ統一性のない返事を返すと、左腕のデバイスを操作し始めた。


「さあ、ここからはあたしたちの無双タイムよ!覚悟しなさい!」


 どこかで聞いたことがあるような決め台詞を言うと、四人が一斉に動き出した。

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