7.「強奪ファミリー」
犯罪ギルド、『強奪ファミリー』。
かつて異世界に存在したギルドで、その名の通り犯罪行為を好んで活動をしていた。
そのほとんどが異能力者であり、好き勝手に暴れることを望む狂った人間が集まっている。
密売や強盗、殺人等のありとあらゆる悪事を働き、異世界転移者なら知らない者などいない程である。
国の優秀な情報機関でさえ、そいつらの足取りを掴むことができず手を焼いていた。
しかしある日、ギルドのメンバーである一人の男が名乗り出たことにより、そのアジトを突き止めることに成功した。
国は制圧部隊を招集し、アジトへと乗り込み壊滅させる作戦を決行した。
その中には、異能力者も複数参加しており、俺もその中にいた。
そして今、そんな因縁の相手が目の前にいる。
生憎、全員の顔は全く覚えがないが。
「約束通り来てやったぞ」
俺は周囲に警戒を促しつつ、数十人いる連中を睨み付けた。
すると、その中の一人がヘラヘラと笑いながら答えた。
「おいおい、そう固くなんなよ。楽しくいこうじゃねーか、昔みたいによ」
電話で話した相手の声。
恐らく、こいつがヴォルケーノだろう。
「悪いな、今はそういう気分じゃねぇんだ。さあ、早くナツナを返してもらおうか!」
「怖いねー、全く」
ヴォルケーノは横にいる連中に視線を送った。
その内の数人が横に移動し、後ろに隠れていたものが露となる。
そこにいたのは、両手両足を麻縄で拘束され、口に布を巻きつけられた妹の姿だった。
「ナツナ!」
俺はそれを見て、思わず声を上げてしまう。
「少々うるさくてな、口を塞いでおいてやったよ」
悪びれる様子もなく淡々と話すそいつは、情けも何もなかった。
「てめぇら・・・・」
抑え込んでいた感情が一気に膨れ上がっていく。
今なら怒りに任せて、殴り掛かるくらい遣って退けることができるだろう。
しかし、人質を取られている以上、下手な行動はできない。
「今すぐ・・・・解放しろ・・・・」
せいぜいこのくらいのことしか言えなかった。
「んんん、そうしてやってもいいが。それだと意味ねーんだよなー」
小指で耳の穴を穿り、不気味にニヤケながら呟く。
「選べ。このまま何もせず妹が汚されるところを指をくわえて見ているか。それとも、妹の目の前で俺たちにボコられるの、どっちかを、な」
「!?」
イカれた提案だった。
だが、相手の方が一枚上手であり、そのどちらかの提案を呑むしかない。
もちろん悩むことはなく、すぐに答えが出ている。
「・・・・妹に・・・ナツナに手を出すな」
「ということは?」
「殴れよ、お前らの気が済むまで」
こんなクズ共の言いなりになっている自分に腹が立ちながらも、俺は歯を食いしばり耐えた。
「ゲハハハッ!だと思った。・・・・まあ、こっちとしてはそっちが本命だったしなー」
そう言いながら、ヴォルケーノはこちらに歩み寄ってきた。
俺の前で立ち止まり、ニヤリと笑みを浮かべる。
「オラよっ!」
直後、腹部に強い衝撃が走った。
「がハっ」
奴の拳が腹部をめり込み、頭から崩れ落ちるように倒れ込んだ。
痛い
俺の脳内でその言葉が何度も連呼している。
ビリビリと伝わる痛覚に悶えることもできず、ただ蹲っていることしかできない。
だが、そんな状態になっても、そいつは容赦なく暴行を加えていった。
「俺はなぁ、テメーみたいに人生をのうのうと生きているすかした奴が、この世で一番嫌いなんだよ!」
そんな理不尽な言い分を吐き散らし、何度も俺の後頭部を踏んづけていく。
先程までヘラヘラしていた態度とは違い、気性が荒くなっていた。
「あん時テメーが奪った分の落とし前、今日きっちり取らせてもらうからな!ヤロー共!」
そう掛け声を上げると、バタバタと複数人の足音が聞こえた。
そして、俺の周囲を囲むように、脇腹や背中といった箇所を一斉に蹴り始めたのだ。
「おいおい、少しは考えろよ、これじゃ隠れちまって録れねーだろーが!」
録る?つまり、撮影をしているということなのか?
それから思考を駆け巡らせようとするが、絶え間ない痛みの連鎖によって、徐々に機能しなくなっていく。
・・・・・・・・ああ、俺、死ぬのかな・・・・・・
薄らと意識が遠のいていく。
・・・・・・ごめんな、ナツナ。俺のせいで迷惑かけて・・・・・・本当にごめん・・・・・・
最早、痛みすら感じなくなっていた。
・・・・・・ごめんな・・・・・・ちゃんと、守れなくて・・・・・・・・
そして、俺の意識が完全に消えた・・・・
「はい、ちゅうううぅぅぅぅもおおおおぉぉぉぉぉぉぉくっっ!!!」
突如として、背後からバカデカイ声がコンテナ内で響き渡ったのだ。
それと同時に俺を蹴っていた連中の足が止まった。
直後、ざわざわと動揺するような声が聞こえ始める。
一体、どうなってんだ?
俺はボロボロの身体をなんとか起き上がらせ、後方に腰を捻らせた。
夕日を背景に入り口で四人の人影が見えた。
「全く困った奴ね。入部して早々トラブルに巻き込まれるとか、どんだけ運悪いのよ」
「カレンちゃん悪いよ、そんなこと言っちゃ」
「まあでも、発信機及び盗聴器を仕込んでおいて正解でしたね。一応監視もつもりだったのですが、まさかすぐに役に立つとは」
「・・・・・・わたしの、お陰」
こんな状況下でも、仲良しアピールをする四人組。
俺はこいつらを知っていた。
「・・・・・・お、お前ら・・・・」
驚きで呆気に取られてしまった。
「だ、誰だ!テメーら!」
予想外の出来事で酷く動揺したヴォルケーノが声を荒くする。
すると、四人組のリーダー格の少女が得意気に答えた。
「あたしら?あたしらは・・・・・・そうね・・・・・・一言でいうなら・・・・・・まあ、ここは正義の味方、とでも名乗っておこうかな・・・・なんてね」
俺たちを救ってくれたのは、正義の味方もとい異能調査部だった。