4.「君に伝えたいお願い」
「なんやかんやで来てしまったな」
屋上の扉の前で、俺は頭を掻きながら呟いた。
まるで、ダンジョンでボスの部屋の扉の前に立っている気分だ。
中に入るか、背を向けるかの二択である。
因みに、気持ち的には後者の方。
つまり、滅茶苦茶ビビっているということだ。
俺は扉の向こうに誰がいるのかで心配している。
一番望ましいパターンが自分に思いを寄せている女子がいること、それ以外の大体が最悪なパターンということになる。
下手をしたら大怪我を負う可能性だってある。
コェ~、めっちゃコェ~、今すぐ帰りてぇ~よ!
一日中、手紙を貰ってから行くか行かないかでグズグズ悩んでいた挙句、やっと覚悟を決めたかと思えば、直前でウジウジしている俺。
正直、自分でもここまで情けない人間だとは思っていなかった。
ああもう腹括れよ、俺!覚悟決めろよ、俺!
そう自分に言い聞かせ、なんとか身体を動かそうとする。
行ける!行けるな?行けるよな?行くぞ!行こうぜ!
気持ちが向上していき、やっと身体が前へと動き出した。
「頑張れ、俺!」
掛け声とともに、勢いよく扉を開けた。
晴天の空を背景に、屋上に一人の少女が立っていた。
俺が来たことに気付いたようで、少し頬を赤らめてモジモジし始める。
あ、絶対あの子だ!
そう確信を持ち、いたのが不良とかじゃなくて良かったと安堵する。
しかし、まだ安心はできない。
まだ状況証拠だけだから、不明な点もいくつかある。
気を抜けない。
「き、君かい?この手紙を書いたのは?」
俺は手紙を掲げて質問してみた。
「そうだよ」
素直に答える少女。
ということは、彼女が『大空リオ』本人なのだろう。
「そ、そうか、君だったのか。そうかそうか」
テンパるあまり、ぎこちない返答をしてしまう。
ヤバい!緊張で頭真っ白になりそう。
もう既にこの状況にパニックを覚えている俺。
それもそうだ、女の子に呼び出されること愚か、会話すら久々なのである。
正直、何を話せばいいか分からない。
「え、えっと・・・・今日は暑いっスね〜、ほんと。夏かってくらいで、ね?あつはなつい、なんて・・・・」
何言ってんの、俺?バカだろ!
最早、緊張し過ぎて自分でも訳の分からないことを言い出していまう。
チラッとリオの方に視線を向けると、ポカンとあんぐりしていた。
あ、これ、滑った奴だ!
とんだ赤っ恥を掻いた気分になり、死にたくなった。
このままでは埒が明かない。
そう思うと、俺はここで本題を切り出すことにした。
「あ、あの、それで俺に伝えたいことって、何?」
するとリオは我に返ったように、慌てて話し出す。
「あ、はい、実は貴方にどうしても伝えたいことがあるの」
そう言われると、自分の中で緊張感が走った。
え、これ、もしかして告白される感じ?マジなの、え?
俺の中で期待値が徐々に上がっていき、期待半分、不安半分の状態になる。
告られたら「はい」と答えよう、と何度も心の中で連呼しながら、次の発言を待つ。
「実は貴方に」
き、来た!
「貴方に≪異能調査部≫に入ってほしいの!」
「はい、喜んで・・・・・・はい?」
俺は予想外の発言に呆気にとられてしまった。
「え?今なんて?」
聞き間違いだと思い、もう一度問う。
「だから、貴方にわたしたちの部活に入部してほしいの」
「・・・・・・」
俺は頭の情報処理が遅れたせいで、その後の発言がすぐに出てこなかった。
そして、それがやっと完了したところで、出た言葉がこれである。
「ぶ、部活の勧誘かよっ!!」
イタズラでもカツアゲでもなかったが、まさか部活の勧誘をされるとは思いもしなかった。
「いやいやいや、ちょっと待って!え、もしかしてそのために?そのためだけにあんな下駄箱に手紙入れたり、屋上に呼び出したりしたの?」
俺が聞くと、リオはコクリと頷いた。
「だってその方が来てくれるかなって思ってさ。ほら、男子ってラブレター貰ったら、絶対行くでしょ?」
「どんな偏見だよ!・・・・いや、実際に俺来てるか・・・・じゃなくて!」
なんて一人コントをしてしまう俺は、少し不可解に思う点があった。
「何でそんな大掛かりなことを?それに部活の勧誘なら、直接教室に行って伝えた方が良かったんじゃ・・・・」
するとリオは目を泳がせながら、言い難そうに答える。
「それはそのー、深い理由がありまして・・・・ですね・・・・」
「理由?」
眉間にシワを寄せて、さらにその理由を聞こうとした。
が、すぐにはぐらかされてしまう。
「いえ、そんなことより返答はイエスでいい?」
「いやイエスな訳ねぇだろ、バカ!紛らわしいわ!」
まあ、当然の返答をしたと思う。
「つーか何だよ、その異能調査部って?言っとくけど、そんな怪しい部活には入らないからな」
そう吐き捨てて、立ち去ろうとした。
次の瞬間だった。
「ふぎゃっ!?」
突如、背後から痺れるような激痛が走ったのだ。
全身の力が抜けていきそのまま倒れてしまう。
そして、意識が朦朧とする中、視界に入ったのはスタンガンを構えたリオの姿だった。
「いや・・・・・・何でそんなもん・・・・持ってんの・・・・ぐふっ」
直後、俺の意識は完全に途絶えた。