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002 「丑三つ時のレベリング」



 脱獄を決意した村雨准也は、経験値をためてレベルを上げることで脱獄できるのではないかと考える。

 しかし、ようやく脱獄の方法を見出したのだが、肝心のレベルを上げる方法がわからないままだった。




 レベル上げを思いついたはいいが、方法が思いつかなかった。

 それから俺は悶々とした日々を数日間送っていたのだが、転機が訪れる。


 それは昼間の出来事だった。


「ふんっ、ふんっ!」


 見張りの看守の一人が、暇を持て余したのかスクワットをし始める。

 凝視してみると、奴のレベルは他の看守とは違って高い。服の上からでもわかる隆々とした筋肉を携えた看守は、白い歯を輝かせて汗を流していた。


「おいおいやめろよ。暑苦しいな」


「何言ってんだ! 俺たちは常に鍛錬の日々だ! 騎士団たるもの、怠けてはいかん!」


 ……。


「そういうもんかね」


「ああ。こうして筋トレで入手できる経験値は微々たるものだが、積み重ねが大事なんだ」


「そんなもん、魔物と戦ったほうが早いだろ」


「それもそうなんだが、雰囲気が大事なんだよ!」


 爽やかなスマイルだ……しかしなるほどね。

 これはいいことを聞いた。

 あんな筋トレで経験値がたまるのか。


「他にも、俺は木を敵に見立てて戦闘訓練している! 木を殴りつけるだけでも経験値が入るんだ!」


 そう言って白い歯をアピール。

 あいつ、サービス精神旺盛すぎじゃないか?

 まあいい。今夜から試してみるとするか。



 ○○○○○○○○○○○○



 夜になった。

 ひとまず、看守から見えにくい部屋の奥で拳を握る。


 目の前には土の壁。今からこれを殴るというわけだ。


「……」


 さすがに抵抗があるな。何もない壁じゃなくて、憎いやつでも思い浮かべるか。

 憎いやつ憎いやつ……段々と腹が立ってきたな。


「……っ!」


 ドゴッ!!

 具体的なイメージが現れた瞬間、迷いなく殴れた。この調子ならいけそうだ。


「……よし」


 そこからひたすらに壁を殴り続ける。

 ここが土で囲まれていて助かった。衝撃音はあまり響かず、ズドッとした重い音がするだけで看守は気づいていない。


「痛っ……」


 何度か殴るだけで拳が真っ赤になった。


「体力は減るのか」


 ステータスを確認すると体力がわずかに減っている。自傷行為でも体力は減るみたいだ。

 だが喜ばしいゲージも見える。


「経験値、入ったな……あのバカな看守の言ってた通りだ」


 鍛錬好きな看守、感謝するぜ。

 だが眠って回復できる体力は限度がある上に、現在は出血の状態異常になっているらしく、体力が減り続けている。

 加減して鍛錬しないと自殺になってしまいかねん。


「……寝るか」


 ひたすら地道な作業になりそうだったが、それでも十分だった。これに筋トレを加えれば効率よくレベリングできるに違いない。

 この日、俺は体力が半分に差し掛かった状態で就寝。

 こうして鍛錬一日目を終えた。



 ○○○○○○○○○○○○



 それから毎日、丑三つ時に壁を殴る作業と息を殺した筋トレを繰り返すこと数か月、俺のレベルは15まで上がっていた。

 看守一人くらいならどうにか倒せるレベルになっただろう。

 スキルも二つほど増えており、手ごたえもある。


「おい、飯だぞ」


「……」


 今朝もいつも通りに残飯を受け取る。

 しかし不思議なんだが、なんであいつらは俺のレベルの変化に気づかないのか。


 考えられるのは、レベルは勇者にしか視認できないとか、俺の正体不明のパッシブスキルが影響してるとか、そんなところか。

 とりあえず、気づかれないのは幸いだ。

 

 俺は飯を食べながら新しく習得したスキルを確認してみる。


 まずレベル5で習得したのが「暗視≪ナイトフィルター≫」。

 使用から二分間、瞳が緑色に輝いて暗闇の中でも視界が明るくなる。再使用までの間隔は二十分と長いため、使用には気を付ける必要がある。

 暗黒煙と組み合わせるのが妥当だろう。


 そしてレベル12で習得したのは「気配遮断≪ハイドアンドシーク≫」。

 スキル名の通り、使用から五分間だけ気配を希薄にする。再使用までの間隔はこちらも二十分。



 なんか、暗殺者みたいなスキルばかりだな。



 とにかく、攻撃系のスキルではないのが残念でならない。

 魔法も覚えないし、自分が勇者であるのか怪しくなってきたが、何者であろうと関係ない。


 俺の目的は一つ。ここを出ることだからだ。


 こうして俺の牢獄での日々が過ぎていくのだった。



 ○○○○○○○○○○○○ 



 二年後――現在。


 今日までの約二年間、俺は檻の中で鍛錬を繰り返してきた。

 途中からは気配遮断などを利用して効率よく経験値を重ねていき、スキルも把握するのが困難なくらいに習得している。


 念のために俺はメニューからステータスを確認する。もう慣れた動作だ。すんなり画面が表示される。



 名前:ムラサメ・ジュンヤ


 職業:闇の勇者


 レベル:51


 体力:356


 筋力:282


 知性:292


 敏捷:220


 幸運:109 


 状態:異常なし



 いつの間にかこんなに強くなっていたのか。見た目が筋骨隆々になったわけではないので、実感が少ない。

 とにかく、準備は整った。


 すべては、今日この日のためだ。


「よっこいせっと。始めようぜ」


「今日は負けねぇからな」


 二年間、飽きるくらいに見てきた看守たちの顔。

 連中は今日も昨日と同じ日が続くのだと信じているようで、いつも通りボードゲームを始める。

 

 馬鹿どもめ。


 今日、お前たちの日常は崩壊する。

 さあ見せてくれよ。これまで痛めつけてきたやつ相手に絶望する顔を……。


 俺はスキルメニューを開き、レベル50で習得できた「影移動≪トワイライトウォーク≫」を選択した。



「脱獄ゲーム、スタートだ」



 強くなった俺には昼も夜も関係なかった。

 最後のマズ飯を食い終えた俺は、檻の中の生活に別れを告げる。


 俺の体は地面の中に溶け込んでいき、ゆらゆらとした黒い影だけが地面の表面に漂っていた。

 影移動を使えば、一分間、影になって地面の中を移動できる。檻を抜け出るのは簡単だった。

 インクをぶちまけたような黒い液体となった俺は楽々と檻を潜り抜け、看守たちの座る椅子の足元へと移動する。


 スキル発動――暗黒煙。


 手慣れた速さでスキルを選択して発動すると、看守たちを飲み込むように黒煙が拡がった。


「うわっ!! なんだこれは!!」


「敵襲か!?」


 さらに暗視を発動し、俺は影の中から地上に飛び出た。


 ザパァッ!!


「何の音だ!? 水しぶき!?」


 連中の視界は完全に遮られているが、俺には全て見えている。

 黒煙の中でうろたえる二人の看守の姿を捉えて、俺は奴らに近づくと手に持っていた剣を力ずくで奪い取って見せる。


「ぐわっ! な、何者だ! 剣が奪われた!」


「じゃあな」


 ズブシュッ!!


「がっ、は……」


 奪い取った剣で看守の心臓を一突き。血しぶきが飛び散り、看守は俯せに倒れ伏す。


「お、おい! 大丈夫か! くそ、何が起きてるんだ!?」


「はーい、大丈夫でーす」


 ズバッ!!


「な、なんで……」


 グシャッ。もう一人も余裕で始末する。

 始末したところで、ようやく黒煙が晴れてきた。

 俺の足元には血まみれで転がる看守二人。ついにこの光景を目に焼き付けることができた。


 さすがに筋トレや壁殴りとは違って経験値の入り方が違う。レベルアップとはならないものの、経験値が入ったことで奴らの死を実感した。

 胸糞悪いが、当然の報いだろう。


「さて……」


 あたりを見渡すと、他の囚人たちと目が合う。

 何か言いたそうにしていたが、奴らを助けるつもりはない。奴らは俺と違って罪を犯したんだろう。それならちゃんと償わないとな。

 まあ、こうなった以上、俺もあいつらと同じ穴の狢ってわけだが、覚悟はとっくにできてる。

 たとえ許されない道であろうとかまわない。


 俺は決してあいつらの行いを許さない。

 悪人に落ちようとも、あいつらの間違いを正すまでは死なない。


「とんだエゴイストだな……さあ、二年越しの復讐を始めに行こうじゃないか」


 看守の剣を片手に、俺は二年間を過ごした洞窟の最奥部に別れを告げて外へと続いているであろう通路への扉に手をかけるのだった。















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