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001 「二年越しの脱獄計画」



 修学旅行の最中に異世界に召喚された高校生「村雨准也」は、親友たちの裏切りに遭い、濡れ衣を着せられて投獄された。

 それから二年、勇者として成功している同級生の存在を知り、彼は一人、復讐の炎を燃やしていた。



「ぶっ壊してやるよ、何もかも……」


 そう言って笑みがこぼれる。

 このくそったれな洞窟の奥に詰め込まれて約二年。何もせずに今を迎えたわけじゃない。

 俺がこの牢獄を出るのは既に容易い。しかし、この二年で脱獄しなかったのは訳がある。


 あいつらが、あのゴミ屑どもが幸福を手に入れてから、それをぶっ壊してやらなきゃ気が済まなかったからだ。


「ふひ、ふひひひひ」


「おい、あいつまた笑ってるぞ」


「放っておけ。見慣れた光景だ」


 俺はここの常連だから、あのうんざりするほど見飽きた看守の顔は、ほくろの数まで覚えてる。

 まあ、あいつらも数時間後には地に伏しているだろうよ。


 しかし長かったなぁ、ここまで。

 ああ、今になって思い出せる。


 もうここと別れることになるかと思うと感慨深くなり、この二年間が走馬灯のように駆け巡ってきた。



 ○○○○○○○○○○○○



 二年前――。


 

「おらよ、飯だ」


「出せ! あいつらを連れてこい!!」


「黙れ!」


 ドゴッ!!


「っかは」


 ドサッ! 音を立てて俺は崩れ落ちた。

 鳩尾に看守の拳がめり込み、息ができなくなる。

 蹲る様にしてじわじわと滲んでくる痛みに耐えながら、俺は涙を流していた。


「く、そ……」


 これが投獄から数日しかたたない俺だ。

 この日から、こんな地獄が毎日のように続いた。


 投獄から二週間後――。

 俺は部屋の隅で座り込み、初日のように暴れる気力もなければ、目も死んでいて、生きる気力がなかった。

 そしてこの日、死を望んでいた俺の中に一つの信念が芽生え始める。



 俺がこんな目に遭うのは、なぜだ。

 どうして俺がこんなところにいる。

 なんで俺が死を望むほど絶望しなくちゃいけない。

 ……そうだ、元はといえば、こんな世界に来たのが間違いだったんだ。

 思い返してみれば、この世界に来たのだって、()()()()のせいだ。



 あいつら……? 

 そうだ、あいつらだ。



 許さない。

 忘れていた。

 あいつらを許さない。

 絶対に許しちゃいけない。

 俺が生きる理由は、それだけ。そこにあった。

 この盛大な憂さを晴らさないと気が済まない。

 このままじゃ死ぬに死ねない。



「く、くは、あははは……」



 全員、復讐してやる。俺よりもひどい目に遭わせてやる。

 命乞いしても許さねぇ。

 完膚なきまでにあいつらの心を折ってやる。

 生きるのをやめたくなるほど、絶望させてやる。



 こうして俺は、復讐を誓い、生きる気力を取り戻す。

 そして静かに、脱獄を決意したのだった。



 ○○○○○○○○○○○○



 脱獄を決意した翌日――。

 俺は早速、喰い慣れてきた糞飯を頬張りながら、計画を練っていた。

 今の状態ですぐに脱獄することなんてできない。

 必要なのはこの世界の知識と情報、脱獄するための力だ。


 しかし俺も、馬鹿みたいに数週間を過ごしていたわけではない。

 情報は少ないが、この世界のことは何となく理解できた。


 ここは俺の知らない異世界。しかもファンタジー要素の強いゲームの中のような世界だ。

 看守たちの会話から「魔法」や「魔物」などの言葉が出てきたことや、普通に腰に剣を装備している様子を見る限り、元居た世界の常識が通用しないのは理解した。

 

 しかも、俺の推理を裏付けるように、視線の先にいる看守たちにレベルが存在している。

 初日には気付けなかったが、視界の右端に星形のマークがあって、そこに意識を集中すると透明なメニュー画面が目の前に出現する。


「あいつ、また宙を見てやがる」


「放っておけ。ほら、お前の番だぜ」


「ん~~、こうかな?」


 部屋の外で見張る看守たちは椅子に座ってこの世界のボードゲームに没頭しており、こちらには目もくれない。

 このように、メニュー画面は他人から視認できない。


 メニュー画面にはステータス、スキル、クエスト、メンバー、持ち物といった五つの項目がある。

 まずはステータスに意識を集中させてみると、ステータスからウィンドウが浮かび上がった。



 名前:ムラサメジュンヤ


 職業:闇の勇者


 レベル:1


 体力:20


 筋力:12


 知性:22


 敏捷:10


 幸運:3 


 状態:異常なし



 上から順に名前、職業、レベル、細かいステータス、健康状態が表示されている。

 これを見る限り、俺は本当に偽物――闇の勇者だったらしい。つまり連中の犯人捜しは成功していたってわけだ。忌々しい。

 きっと連中はこの職業欄を見て自分が本物の勇者であることを自覚できたのだろう。間違いなく、その情報を共有し、俺に票を集中させたに違いない。


「しっかし、楽な仕事だよなぁ。囚人の監視なんてよ」


「まあ、この檻の中じゃ魔法も使えないからな。監視の意味なんてねぇよ」


 次にスキルだが、この画面を開くと空しいことに一つだけしか項目が無かった。

 俺が今所持しているスキルは「暗黒煙≪ダークスモーク≫」。

 効果は「視覚を撹乱する黒煙を生み出す」。一度につき周囲5メートル前後の黒煙を出現させるが、複数は不可能。

 そして再使用までの間隔は五分で煙が消えるまでに三分程度。と丁寧に説明も書かれている。


 次の能力使用までの間隔を考えると、ただの目くらましに過ぎないのだろう。


 全く使えない能力だ。

 もう少し攻撃的な能力だったら、とっくにこの場所からおさらばしてるか。


「これで給料高いんだぜ?」


「まじ最高だよな。ベルデもたんまりもらえて食事つき、しかも楽な仕事なんだぜ。王国の騎士団に所属してよかったわぁ」


 ベルデってのはこの世界の貨幣らしい。

 何度かあいつらの会話で耳にした。


 今度はあの連中を凝視してみる。すると名前とレベルが頭上に浮かんだ。

 こうすることであいつらの力量も図れるわけだが、奴らのレベルは14と15。騎士団というからにはスキルも持っているだろう。


 つまり、実力行使での脱獄は現状不可能だ。 


 ただ、もう一つのスキルを使えば不可能とは言い切れないかもしれない。

 それがパッシブスキル。元から備わっていた常時発動するスキルだ。

 スキル名は「闇の加護」。スキル欄の一番最後に載っていた正体不明のスキル。これだけ説明がなくて未だに分からずにいる。


 とりあえず、当面はこのパッシブスキルに期待せず、ここから脱獄する方法を見つけないと。


「「ぎゃははははははは」」


 まずは邪魔なあいつらをどうするか。



 ○○○○○○○○○○○○



 夜、監獄の中はいびきが響いている。

 この洞窟には他の囚人も存在しているようで、いわゆる監獄のような場所なのだろう。

 ここは窓がなく土の床と壁でおおわれているのみ。横穴を利用した監獄みたいだ。

 一番きつかったのはトイレが用意されていないことだった。用を足すのは部屋の隅に置かれたツボの中で、これが最もきつい。


「ふわぁ~あ」


 夜の監視はいつも通り一人。しかし、それは檻の手前の話。

 前に看守たちの話から盗み聞いたことがあるが、夜は外の警備が厳しくて、何度も脱出を試みた囚人が簡単に捕縛され、罪を重くして戻ってくるのだとか。

 実際に見ていないものの、外の警備が厳しいことは頭に置いておくべきだ。


「穴でも掘れたらよかったんだが」


 独り言がつい口に出た。暗闇の中で蝋燭の光に灯される看守の顔を確認するが、声量が小さかったおかげで気づいた様子はない。

 穴を掘ることも考えたが、俺は重要罪人らしく、ほかの連中よりも監視の目が多い。穴なんて掘ってもすぐに気づかれてしまうといった具合に八方ふさがりの状況だった。 


「……寝るか」


 とりあえず、今夜は寝ることにした。



 ○○○○○○○○○○○○ 



 それから翌日、翌々日と、これといったアイディアは思い浮かぶこともなく、悶々とした日々を繰り返していく。


 そんなこんなで一週間が経過した頃、一つの考えにたどり着いた。


 どうにかしてレベルを上げられたら、ここから脱獄するのもたやすいのではないか。


 そう、レベルで強さが決まるゲームのような世界なら、レベルを上げることさえできれば檻を破壊することもできるし看守を倒すこともできるはずだ。


「だが、どうするか」


「おい、静かにしろ」


 昼間は無理だ。かといって、夜なら可能かといえばそうでもない。


 そもそも、経験値をどう貯めろと?


 こんな何もない魔物も出ない部屋で経験値をためるなんて無理だ。

 まずは、方法を探ってみるしかないか。


 こうして俺はようやく、一つの目標を見つける。

 まずは脱獄への第一歩ってわけだ。


「絶対に、出てやる」


 ここを出て、このぶつけようのない苦しみを味わわせてやる。


 俺は歪みきった生きる意味だけを抱え、一人牢屋の中で復讐の炎を燃やす。

 そしてこの日から、二年越しの脱出計画が幕を開けたのだった。









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