009 「魔王の娘は魔王だった件」
俺を除く四人の勇者の破滅を望む組織「勇滅商会」。
その支部に迷い込んでしまった俺と魔王の娘を名乗る少女ファム。
連中は闇の勇者である俺を利用しようとしていたが、その提案に乗らなかった俺の反応を見て、連中は強硬策に出る。
こうして俺たちは勇滅商会に取り囲まれたのだが、ついに魔王の娘を自称する彼女が魔力を取り戻したらしく、ようやくその力を発揮しようとしていた。
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「見ててね、吾輩の力を見せちゃうんだから!」
勇滅商会を前に、ファムは仁王立ちで立つ。
その姿はこれまでの裸マントではなく、ドレスを纏った魔王の娘にふさわしい姿だ。
「魔王の娘……何を言っている。構いません。我々の目的は闇の勇者のみ。小娘は殺してもいいです。畳みかけなさい」
オヤジの合図でローブの連中は武器を構えなおし、近接武器の者は走り出す。その後ろでは杖を持った連中が魔方陣を描き始めた。
あれが魔法か。存在は理解していたが、直に見るのは召喚された時以来だ。
「本当に大丈夫なのか?」
「まっかせてよ! ただの人間が魔王の娘に勝つなんてありえないんだから」
随分と自信に満ちてるな。
まあいいか。ここはとりあえず、後ろで大人しくしていよう。
「うおおおおお!!!」
そんなことを考えていると、既に槍を持ったローブの男がファムに迫っていた。
しかし奴は動揺一つせずにパチンと指を鳴らす。
「スキル、魔炎の境界」
指を鳴らすとほぼ同時に、ファムの手前には弧を描くように黒と紫が入り混じった炎を出現させた。
「くっ、近づけない!」
炎は壁のように燃え上がり、俺たちの壁となっている。
普通に強くないか?
「触れないほうがいいよ? 吾輩の特別な魔力を練りこんだ炎だからね、触れた部位から溶けちゃうよ」
「そんな脅し……なっ、ぎゃあああああ!!!」
警告を無視した槍の男が炎を突っ切ろうとすると、体が一気に燃え広がり、皮膚が溶けて肉塊となり崩れ落ちていった。
想像以上の威力だった。
その威力は俺を驚かせ、連中の足を止めた。
「ど、どういうことです。このような威力の魔法、聞いたことも……本当に魔王の娘だというのか?」
「ねぇねぇ! 見てた!? 吾輩って役に立つでしょ?」
「あ、ああ」
満面の笑顔を向けているが、人間が溶けて朽ちる光景を見た後ではそこまで笑顔になれない。
判明したというよりは、確証した。
こいつは紛れもなく魔王の娘だ。
「ひるんではなりません! 魔法を使えばあの炎は関係ありません!!」
髭おやじの声で若干の勢いを取り戻した連中は、後方に位置する杖を持った魔法使いたちに目を向けた。
魔法使いたちは魔方陣を出現させて炎の球を生み出した。
炎の球は放物線を描くように飛びあがり、上空からこちらへと降り注ごうとしている。
その数は圧巻だ。複数の魔法使いが同じ魔法を使ったせいもあるのか、炎の球が無数に降り注ごうとしている。
「これは逃げるしかないだろ。俺のスキルで――」
「大丈夫だよ、あのくらいの魔力量なら食事程度だもん。スキル、魔王の晩餐!!」
ファムは両手を広げて掌を炎の球にめがけて掲げる。
掌を掲げた先には巨大な口が出現し、飛び掛かってくる炎の球を全て飲み込んでいった。
「ん~~、旨い旨い」
「……なんで口元を動かしてるんだ」
「実際に食べてるからだよ?」
考えないことにした。
しかし威力は強大で、魔法を使った連中は唖然としていた。
「ど、どういうことなんだ。見たこともない魔法だ……」
「これは魔法じゃないよ? 吾輩にしか与えられてないスキルだからね。今ので魔力もだいぶ溜まったし、これ以上やるっていうなら容赦しないけど、どうしよっか?」
魔王の娘というのは間違いではなかったのか。
圧倒的な力を見せつけ、その場に立っているファムの姿は、魔王に近い何かを感じる。
「ま、何もしなくても容赦しないんだけどね。飛び散れ、魔炎」
ファムは立ち塞がるように燃え盛っている炎に向かって右手を仰いで見せた。
まるで指揮するように手を仰ぐと留まっていた炎が生きているかのように動き始め、ローブの連中のほうへ向かって弾け飛んでいく。
「うわあああああ!!!」
逃げ惑う連中だが、炎が触れた瞬間に溶けていく。
地獄の光景だった。
「何故です……我々は闇の勇者の味方だというのに!!」
「……はぁ。俺に味方はいらねぇ。お前らが生きていたなら、頭首なのか会長なのか分からないが伝えておけ。俺を利用しようとするなら、お前らからぶっ壊してやるってな」
地獄と化した空洞の中は逃げ出すには最適な環境となっていた。
連中は逃げ惑い、俺たちを止める意思のあるものは一人もおらず、誰もが自分の命を優先して行動している。
完璧なパニック状態だ。
「ファム、ここから出るぞ」
「……! え、いいの? 一緒に出てもいいのかな?」
「お前は使えそうだからな、一緒について来たきゃ来い」
「もちろんついてく!! じゃあ、こういう感じに炎を敷いてっと」
ファムは楽しそうに指を振ると、俺の目の前にモーゼが海を割ったかのように炎の道が完成していた。それは出口へと延伸していて、誰も近づけない死の道を演出している。
「行くぞ」
「うんっ!! じゃあね、おバカな人間たち。ふふっ」
「勇者様! 我々は必ずやあなた様の悲願を――」
遠くで何か叫んでいるがもう聞こえない。
俺は魔炎の道を歩き、その後ろからファムが付きまとってくる。
「少し、気分がいいな。この道は」
「でしょ? お父様もお気に入りだったの」
お父様……魔王のことか。
俺はよく知らないが、こいつにとって魔王を倒した勇者は仇ってことだろう。
「俺はほかの勇者に復讐するために生きている。お前も、俺の復讐に同行するか?」
正直、虫のいい話だということは分かっている。
ただ、それでもついてくるというのなら――。
「勿論だよ!! 一人でずっと寂しかったから、嬉しいんだもん!」
「そうか……」
ついてくるというのなら、名前の一つも教えてやるか。
ついでに、俺のことも少し語ってやろう。
「俺はムラサメ・ジュンヤ。闇の勇者だ」
「吾輩は……って、自己紹介はもうしてたね。ジュンヤ、これからよろしくね。吾輩も勇者に復讐するのだ!!」
まあ、騒がしい旅も悪くないか。
こいつの力によって俺は難なく空洞から脱出できた。
もう洞窟は懲り懲りだ。




