第五話:お尋ね者になった
ところで、何であたしの居場所が警察にわかったのかと言うと、どうも冒険者ギルドに登録したのがまずかったみたいで、そこからバレたみたい。とりあえず、あたしは、寝床の鳥小屋のすぐ横にある、「ウネウネ滑り台」に乗り、一気に滑ってゴールから勢いよく飛び降り、空中を飛ぶ。警官が気づいて、びっくり仰天しているところに、頭を思いっきり蹴って気絶させた。ぶっ倒れた大柄の警官を見て、「すげーな、お前!」とアレックスとクリスが喜んでいる。警官は大嫌いだって。正式な冒険者なのに、よく浮浪児扱いされたそうだ。
それで、マリア先生が殺された日を聞いたら、たしか、その日はスライム退治をしてたし、「そもそも、最近は、ほとんどあんたたちと一緒に行動していたじゃないか」と二人に訴えた。すると、「そうだよ、だから、おかしいと思ったし、おまけに、エイミー、お前全然美少女じゃないじゃん!」とアレックスとクリスは大笑いしている。「何だとー! ふざけんな! このヤロー!」とぶん殴ってやろうかと思ったんだけど、二人はあたしを警察に突き出すつもりはないようなので、我慢したよ。しかし、このままでは二人に迷惑をかけてしまう。困ったな。
アレックスとクリスに、「エイミー、匿ってやるよ、俺たち仲間だろ。別の場所に移ろうぜ」って、誘われた。アレックスたちはあたしを守ってくれそうだけど、断った。「ヒーローは一人で戦うもんよ!」と強がる。アレックスとクリスにはさよならを言ったよ、ここの生活大好きだったんだけど、とにかく逃げるしかない。二人も名残惜しそうにしている。「エイミー、いつか、また冒険しようぜ」と、食料と武器のナイフ、お金、それから水筒をくれた。「うん、絶対にね、仲間だもんね、いつか必ず戻って来る」とあたしは、ちょっと涙ぐんだ。まあ、冒険といっても、スライム退治とイノシシ狩りくらいしかしてないけど。ただ、アレックスとクリスとの生活は楽しかったなあ。あたしは、二人に手を振って別れた。
しかし、美少女殺人鬼って、誰だろう。うちの孤児院で一番の美少女っていうと、まさか、ユリアーナがって、それはないか。あの子にそんな度胸は無いだろう。だいたい、何でユリアーナがマリア先生を殺さなきゃいかんのだ。理由が全くわからない。
まあ、捕まったら死刑になるんで、それは嫌なので逃げるしかない。孤児院からは、ボートで逃げたんで、多分、川沿いを探すだろうと思ったあたしは、逆に山の方へ行くことにした。ほとぼりがさめるまで、山で暮らそうかな。そんなことを考えながら、森の中を歩いていると、後ろから警官たちが、ぞろぞろやって来るのが、遠くの方に見えた。さっき、思いっきり頭を蹴って気絶させた、恰幅のいい警官もいる。顔の表情を見ると明らかに怒っているのが、遠くからでもわかるぞ。こりゃ、捕まったら、死刑になる前にひどい目に遭わされそうだ。
でっかい木の陰に隠れようとしたら、ちょうど根っこの方に小さい穴が開いてたので、無理矢理入る。じっとしていると、警官たちが通り過ぎた。しばらくここで、こっそりとアレックスたちにもらった食料を食べる。人の気配が無くなったので、さて、そろそろ大丈夫かなと穴から出ようと思ったら、ひえ! あたしの大嫌いなムカデが顔に落ちてきた。思わず、悲鳴をあげたら、遥か向こうに離れていった警官たちに気づかれてしまった。もう、こうなったら走って逃げるしかない。あたしは足が早いけど、さすがに子供なんで、警官たちがどんどん迫って来る。
なんとか森を抜けると、草原に出た。けど、警官たちも、こっちに向かって走って来る。草原には白いモコモコした動物がいた。羊だ。いっぱいいるぞ。あたしが、一番大きいのに無理矢理乗っかると、その羊さんはびっくりしたのか、猛然と全速力で走って行く。近くにいた羊飼いがあわてて、「ドロボー!」と叫んでいるので、「すいませーん、事情があって、この羊さんに乗らせていただきまーす。後でお返ししまーす!」とその羊飼いに向かって、あたしは叫んだ。
他の羊たちも、メーメーと鳴きながら、あたしの乗った大きい羊さんの後を追って、草原を一緒に走って行く。後ろを振り向くと、五十頭くらいが、一斉に走っているので、けっこう壮観な光景だなあ。広大な草原を、あたしは羊の大群を連れて疾走する。なんか、あたしカッコいいぞ。おっと、警官に追われているのにそんなこと考えている場合じゃないや。
おまけに、何度も振り落とされそうになるので、必死に羊さんの胴体にしがみつく。あっと、お金が入った袋を落としちゃった。けど、仕方がない。拾っている場合じゃないや。どんどん警官たちを引き離していく。羊って、けっこう走るのが速いんだと感心する。草原を越えて、山の麓まで近づいたので、羊さんから降りた。警官たちは、全く見えない。「ありがとう、羊さん!」とお礼を言うが、羊たちは、その場をウロウロしている。まあ、いずれ、あの羊飼いさんが来るだろうから、放っておいても大丈夫でしょう。
さて、山道を登っていく。登山なんて初めてだ。最初は、けっこう楽しくて、周りの景色を見る余裕もあったんだけど、登っているうちに、だんだん疲れてきた。確か、この山は隣国のカクムール王国と国境を接していたんじゃなかったっけ。どんどん登っていくと、雨が降ってきた。おまけに、登るにつれて、少しづつ寒くなってくる。ちょっと休もうと思ったら、洞窟があった。ひとまず、中に入って雨宿りをすることにした。
しかし、これからどうすればいいのだろうと、洞窟の入口近くにある大きい岩に座って、雨がしとしと降り続けているのを眺めながら、いろいろと今後の事を考えて、思い悩む。山で暮らすつもりだったんだけど、よく考えたら、そう簡単じゃないだろうなあ。と言って、どっかの村に戻って、冒険者生活をしようにも、冒険者ギルドには、あたしの指名手配の連絡が回っているはずだ。どこに逃げればいいんだろうか。
そうだ、この山を登って国境を越えて、カクムール王国に入れば、警察もあきらめるんじゃないかな。そんな事を考えていたら、洞窟の奥から人のうめき声が聞こえてきたので、何だろうと奥に入った。強いモンスターが出たら、すぐに逃げるつもりで、暗い洞窟の中を、そろりそろりと歩いていくと、薄暗いランプの灯が見えた。近づくと、白いあごひげを生やしたお爺さんが倒れている。何となく品格のあるご老人だ。「大丈夫ですか」と声をかけると、「水をくれないか」と掠れた声で頼まれた。水筒の水をあげたら、多少、元気になったようだ。「なんで、こんなとこで倒れていたんですか」と聞いたら、趣味で彫刻をやっているのだが、その彫刻刀を砥ぐためのいい石がこの洞窟にあるので、それを探しに来たんだそうだけど、途中で気分が悪くなって、倒れてしまったようだ。
雨も止んだので、お爺さんを支えながら、一旦、山を下る。しばらくすると、崖がすぐ側にある広い坂道が現れて、その坂を少し下って途中を曲がると、だだっ広い空き地があり、その端っこに、なぜかちっこい山小屋があった。そこまで、お爺さんを支えながら連れて行ってあげた。小屋の前の椅子に座って、少し休んだ後、やっと調子が戻ったようだ。お爺さんが、「わしの名前はルーカスだ」と名乗ったので、「エイミーです」と答える。「助けてくれてありがとう。お礼に泊っていけ、食事を御馳走してやる」とお爺さんに誘われたが、「ルーカスさんに迷惑がかかっちゃう。人を殺したことにされてるんです。実際は殺してないけど、警察に追われて、逃げてるんです」と、自分がなぜ一人で山登りをしていたかを説明した。少し黙ったルーカスさんは、あたしの頭に手を置いた。しばらくして、「うーむ、お前は人を殺してはいないな」となんとなく謎を解いたような顔をする。そこで、何でわかるか知らんけど、「じゃあ、誰がマリア先生を殺したんですか」と聞いたけど、「さすがにそこまではわからんよ」とちょっと困ったような表情で言われた。ただ、殺人を犯した人間は、考え方が変わるので、頭を触るとわかるんだそうだ。
もう、警官が追いついて来る可能性がありそうだけど、まあ、食事を御馳走になるくらい時間はあるかなと思って、家に入ると、すごい広い。びっくりして出ると、一部屋スペースのちっこい二階建てだ。どうなってんのと、また、家の中をのぞくと広々として、五十台くらいベッドがずらーりと並んで置いてある。階段もあって、二階にも部屋がいくつかあるようだ。あたしが驚いていたら、「魔法だよ」とルーカスさんが笑った。普段は一部屋スペースだが、あたしが入ったときに巨大化させた、と言うか、本来は大きい建物の外見を魔法で小さく見せているんだって。今はもう引退したそうだけど、昔は魔法学校を開いていて、弟子が五十人くらいいて、魔法を教えていたそうだ。
このお爺さんは魔法使いか! よし、「あたしも弟子入りするから、魔法を教えて!」と頼んだんだけど、ルーカスさんは、また、あたしの頭に手を置いて、「うーん、お前は頭が悪いから無理だなあ」とダメ出しされて、がっくりする。せいぜい清掃員だって。「清掃員として住み込みで働かないか」と誘われた。
何だよー! 普通はここらへんで、修行して魔法使いとかになって、いろんな冒険をして大活躍とかするんじゃないかと思ったんだけどなあ。




