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第二十四話:クリスの恋

 数日後、また地震が起きて、あたしはベッドから飛び起きた。魔物が復活したのかと思ったが、フィリップ爺さんが言うには、「大地震が起きた後にはこういう小さい地震がよく起きるもんなんじゃ。余震と言うやつじゃな」ってことなんだけど、そういうものなのか?


 ルーカスさんが亡くなったので、代わりにソフィーが会計係の他に授業もやるようになった。頭がいいからね。みんな、ソフィーの授業は真面目に聞いている。下手に騒いで、ソフィーが泣き始めるかもしれないから、ちょっとみんなひやひやしている。また、ユリアーナが会計業務の補助をやるようになった。ソフィーだけでは本人が不安らしいから、頭のいいユリアーナに頼んだらしい。


 さて、例の川で釣りをやりながら、あたしには、どうも魔物を倒した時の洞窟のクリスの態度が気になっていた。ユリアーナと抱き合った時だ。この前、スザンナと仲直りさせようとあたしが二度も説得しに行っても全然相手にしてくれなかったのに、ユリアーナが行ったらあっさり孤児院にやって来たし。思い切って、「あんた、ユリアーナが好きなのか」と聞いたら、顔を真っ赤にして、「好きじゃねーよ!」だとさ。これは、「好きだ!」って白状したようなもんだな。だいたい、そんなこと言うわりには、ホーグ山の中でグライダーで飛ぶ寸前にユリアーナからもらったお守りをずっと弓矢の矢袋に付けているんだよな。たまにじっと、それを眺めたりしている時がある。これは背中を押してやろう。


「ユリアーナに伝えてあげようか」と言ったら、「お前は、おせっかいオバサンか!」と怒られてしまった。けど、やっぱり好きなら好きと言ったほうがいいんではないかと思うあたしは、やっぱりおせっかいオバサンなのだろうか。


 けど、うじうじしているのを見てるのはいやなんだな。クリスは、「女なんか関係ねーよ、フン」って言ってるけど。さて、孤児院に戻ってベッドで本を読んでいるユリアーナに、「クリスはあんたのこと好きみたいだぞ」と言ったら、「えー、私なんて」とすげー恥ずかしがっている。あれ、この反応は見込みがあるんじゃないか。で、またクリスの小屋に行ってユリアーナの反応を教えてあげたら、またクリスが真っ赤な顔をして、「余計なことすんな! 女なんかどーでもいいよ!」と再び怒られちゃった。素直じゃないなあ。まあ、怒られたら仕方がない。放っておくか。


 さて、ある日、アレックスとクリスが魚がいっぱい釣れたというんで、孤児院に持って来てくれた。百匹以上いるぞ。なんでこんなに釣れたのかと聞いたら、大量に川に流れてきたので釣るのではなく、以前、あたしが捨てて、放ったらかしになっていたかご網ですくったりしたそうだ。うーん、なんか変だぞ。地震の影響かな。けど、まあ、焼き塩魚は美味しいからいいか。


 多すぎるので、みんなで、お魚をさばいて干物にしていたら、気が付くとクリスがいない。すると、「ちょっと、会計帳簿が足りなくなってきたので、アオイノ村の雑貨屋さんに行ってきます」とユリアーナが出ていく。孤児院の横の坂をユリアーナが歩いて下がって行くと、あれ、横からクリスが出てきた。何か話している。そのまま、二人で歩いていった。告白成功したのかなあ。それとも、とりあえずお使いの手伝いかな。


「なんだよ、あいつ、女なんて関係ないとか言ってだけど」と、アレックスと二人で笑っていると、美人のアマリアさんが代わりに坂道を上って来る。食材の袋を抱えている。実は、アレックスとは言うと、いつも金髪美人のアマリアさんをチラチラ見ているんだよなあ。


「あんたは、アマリアさんが好きなのか」と聞いてみる。一瞬、戸惑う表情をするアレックス。しかし、意を決したように、「ああ、そうだよ。おれはクリスのようにごまかさないぞ! はっきり言って、俺はアマリアさんが好きだ! 恥ずかしがらないぞ!」となぜか胸を張っている。


「ただ、アマリアさんは、たしか十九歳だっけ。俺より、四つも年上なんだよなあ」とアレックスが悩んでいる。年上の女性に惚れたのか。

「年下の俺なんて相手にしてくれるかなあ」と心配している。

「じゃあ、あたしが聞いてきてやる」とアマリアさんの方へ行こうとしたら止められて、「いいよ、自分でやるから」とアレックスがアマリアさんの方に近づく。


「アマリアさん、重たそうですね。私が持ちましょう」と気取った感じで、上ってきて会釈するアマリアさんの荷物を持ってやるアレックス。「一緒に、みんなの食事を作るのを手伝いましょうか。私は料理が得意なんですよ」とアレックスが言うと、アマリアさんが「本当ですか、ありがとうございます」と喜んでいる。何だかいい雰囲気。四つぐらいの年の差なんて大したことないぞ。本当に大したことないかわからんけど。


 そんな風にアレックスとアマリアさんを見ていたら、上空からあたしを誰かが呼んでいる。上を見ると、グライダーが二機飛んでいた。

「エイミー!」

 スザンナだ。手を振っている。隣はトムさんだ。スザンナがグライダーで、トムさんと仲良く並んで飛んでいる。どうやら、スザンナはトムさんのことが好きのようだな。


 それにしても、気がつくとあたしは一人か。「ヒーローは一人で戦うもんよ!」って、この場合は違うか。お父さんとお母さんも結婚したんだしなあ。馴れ初めとか知らんけど。まあ、あたしはまだ若いからいいか。まだ十四歳になったばかりだ。うーん、しかし、何となく寂しいな。あたしは、ただ、腕を組んで空を漫然と見上げている。雲ひとつない良い天気だ。すると、ユリウスがやって来た。

「エイミー、気晴らしに久しぶりに私の背中に乗って、空を飛んでみませんか、今日は快晴だし」

 もしかして、あたしの、この心の虚しさがわかったのかな。ユリウスはやさしいなあ。例の耐寒帽子付きの防風眼鏡をしっかりとつける。ユリウスの背中に乗って、ふわっと飛び上がる。もう全然、怖くないぞ。高々と上昇する。ユリウスに初めて会った山まで飛んでみる。


「ここでヒヨコちゃんだった、ユリウスに初めて会ったんだよね」

「そうですね。その節は蛇から助けていただいて、ありがとうございました」

 そういや、大蛇から助けたんだなあ。しかも、おもちゃまがいの魔法銃で。あの時は、おもちゃとは思ってなかったけど。そこから、反転して、草原の上を飛ぶ。お、羊さんたちがいる。のんびりと草を食べている。警官に追われているあたしを助けてくれた羊さんたちだ。と言っても、無理矢理、乗っかって逃げたんだっけ。


「あの時は助けてくれてありがとう、羊さん!」と空から大きな声でお礼を言った。この高さじゃ聞こえないだろうけど。アレックスとクリスが以前いた川、森を見下ろしながら、スイスイ飛ぶ。アレックスとクリスの掘っ立て小屋はまだ残っている、あたし自作の鳥小屋もそのままだ。あの釜の風呂は気持ちよかったなあ。川でアレックスとクリスと三人でいろいろと遊んだのを思い出す。気持ちよく空を飛んでいると、マルセル孤児院の焼け跡の上空に来た。


 あれ、その焼け跡全体に大きい鉄の板がある。その巨大な鉄の扉が開き始めている。大きな穴が開いているようだ。側に人がいた。よく見ると、変態どころじゃない殺人鬼のマルセルじゃないか。あの野郎、生きてたのか。

 

 捕まえなきゃ!

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